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第47話 九の試練/追憶③

 漆黒の通路の先にはシアタールームがあった。

 先程の場所で見せられた映像に比べて本格的なものが来るのかと意気込み、試聴する。


 出てきたあの独特のフォルムはレムリア人だろうか?

 濡れ場シーンをプロバガンダに多用するあの種族は、どうも人体改造を施された結果らしいことが判明する。


 人類の機械化。俗に言うサイボーグ。それがレムリア人の特長だと言うことが判明し、そして人の体を捨て去ってもなお接触を忘れられない情熱的な種族だったのが見て取れる。


 すぐ横の席では探偵さんが呻いている。

 他のみんなも難しい顔だ。

 若干一名目が死んでることを除けば、この試練の内容は種族紹介で間違いないと言うことなのだろう。


 三つの種族とその特徴。

 誰の味方につくか、それが試されてるようだ。

 胡散臭さ満点のアトランティス人か?


 文明の発達と共に肉体を捨て、機械生命体に乗り移ることで地上での生活を可能にしたレムリア人か?


 はたまた拡大、縮小の能力でどんな環境でも適応可能な強靭な肉体を持つムー人か?


 それが問われてる気がした。

 全ての説明が終わった後、全員で顔を見合わせる。

 その中で探偵さんが疑問のあるような声で質問してきた。



「結局僕たちはなにを見せられたの?」

「古代人の発展と、末路ですね」

「|◉〻◉)アトランティス人は仲違いで、レムリア人は中立の立場故に、それとムー人は環境の変化でしたっけ?」


 探偵さんの質問に私が答え、スズキさんが補足する。

 いつものホラー演出を添えて。


「結局匂いの原因とか分かったんですか?」

「あと音の原因もですね」

「まさかのホラー演出とか勘弁してくださいよ?」


 映像のエンドロールが終わったあと、画面がどこぞの劇場を示した。

 いろんな角度からのカメラワークで、それが私達である事を如実に知ることができた。


「なんですか、これ?」

「あ、何か始まりましたよ?」

「これは、プレイヤー……ベータテスターの映像記録でしょうか?」

「ですかね、シェリルの顔が見えました」

「金狼っぽい奴もいたな。しかも初期装備で種族も私と同じ犬科だ」


 そこ、喜ぶポイントです?

 尻尾振ってるんじゃありませんよ、まったく。

 もしかしなくてもこれ、我々プレイヤーの映像記録でしょうか? 

 第四の人類として観測されていた。

 だとしたら気味悪いったらない。


「|◉〻◉)これ、誰目線です?」

「それこそゲームマスター視点じゃないですか?」

「あ、性能が解析されてますね」

「評価がことごとく低いのが気になります」

「他の三種族のスペックがおかしいだけですよ」

「それはそうなんだけど……ん? 種族名はこれ、なんて読むんだろう?」


 種族:夢現の住人エネミー

 性能:F

 耐久:F

 特徴:集団戦を得意とするが、個々の我欲が強過ぎる

 備考:未知数の為要観測


 …… …… ……


<試練が開始されました>


 なんだ、なにが始まった?

 今までの試練とは明らかに違う。

 まるで今までのは前振りで、ここからが本番だと言わんばかりの様相だ。


 誰かが叫び、舞台の中央にあったスクリーンに三体の種族が並び、アトランティス人の真上からスポットライトが浴びせかけられていた。


「なんだ、なんだ?」

「|◉〻◉)スクリーンが上がっていきます!」


 スズキさんの指摘に、各員が戦闘体制に入った。

 なんせそこにはアトランティス人と思しき人物が立っていたのだから。

 博士姿ではない、となるとあれが過激派のスタイルか。

 手には槍を持ち、肌は人にしてはやけに青い。

 そして魚の鰭を持ったそいつは空中を泳ぐように突進し、肉薄してきた。


「はーい、ちょっとお邪魔するよ」


 私に肉薄する槍の穂先が、脇から伸びた蛇のような腕に巻き取られて軸をブラされて脳天を狙う一撃は空を斬って事なきを得る。あまりのことに放心していた私を助けてくれたのは探偵さんだった。

 懐からレムリアの器を取り出し、スキルを乗せた光線で次撃を不発に終わらせている。


「少年、狙われるようなことした?」

「エネミーにヘイト取られないことに慣れすぎて気が緩んでました」

「もしかしたら、それが逆にアトランティス人の逆鱗に触れたのかも?」

「どういうことですか?」

「ほら、映像で流れた彼らってプライド高そうだったろ?」


 ああ、そういえば確かに。

 じゃあただの逆恨みですか? 参りますね。


「そういうわけで、囮役よろしく」

「はい?」


 寝耳に水で、一瞬なにを言われているか分からずに聞き返す。

 探偵さんは私の肩をポンと叩き、距離を取った。

 メンバー全員ががそれを理解して離れていくのがわかる。


 こういう時の結束力がやたら高いのはなんでだろう?

 味方だったはずのスズキさんの姿もないのは、まぁ仕方がないか。

 完全に今の彼女役立たずだもんね。


 仕方がない、私のスキルでお相手しましょう。

 一応メンバーは遠巻きに援護はしてくれるらしいけどなんだかなぁ。


「よっ、ほっ、うおっ!」


 分かっていたことですけど、当たり前のように称号スキルも交えての三連撃をショートワープを小刻みに使って回避する。

 三撃目は危うかった。★風操作を加速目的で使うんだもの。

 ★ミラージュがなければ即死だったよ。

 特に私は戦闘系のスキル持ってないからねぇ。


 アトランティス人は蛮族と言って差し支えないほどの雄叫びをあげ、空中を泳ぎながら突き進む。

 ★水操作を使ってる様子は見られないが、変に体の周囲の反応が遅いことから知覚しにくいほどの薄い水の膜ができているのは確かだ。


 私は★重力操作で体重をやや重くし、重力の慣性を利用して攻撃を回避していく。

 合間に隙を見つけてメンバーでスキルを纏わせたレムリアの器を介した光線を浴びせていく。


 光線のいいところはその発射速度にある。

 引き金を引くと壊れた蛇口のように出っ放しになる反面、初弾を躱されても当てることが可能ということ。

 そしてあたりさえすればスキルの威力が乗ることが解明されていた。


 そのお陰でアトランティス人の動きが重くなった。

 明らかに鈍くなったのだ。

 これならば★ミラージュの残量を使わなくてもいい。

 隙を見てダークマターを食し、APを回復しておくのも忘れない。


 このままいけば勝てる、そんな時、アトランティス人が私以外を見ているのに気がついた。

 槍を構え、投擲する。

 その先に居たのは……死んだフリ中のスズキさんだった。

 仮死状態の彼女はそれはもう元気だったが、何もできないことは明らかだった。宙に浮く彼女に向けて寸分違わず投擲された槍が彼女を貫いたのは同時だった。


「スズキさーーーーーん!」


 ★ミラージュがあるとはいえ、立ち上がって動くことが不可能なのは誰の目が見ても明らかだ。

 の無敵時間中、スキルを使うことは、このままなぶり殺しにされる未来を回避したいと誰もが彼女達に向けてレムリアの器を取り出した時、私の元へ一通の個人コールが届いた。


『|◉〻◉)ひゃっほーう、派生スキル生えました!』


 やけに明るい声で彼女は続ける。

 そして仮死状態の解除方法も判明した。

 それは一度キルされる事。

 ★ミラージュで擬似的に死ぬことによって手足が自由に使えてレムリアの器を構える彼女。


『|◉〻◉)あ、派生スキルゲットする為にこれからわざと死んでもいいですか?』

『いいけど、急にされると心臓に悪いからみんなには伝えておいてね?』

『|◉〻◉)はーい、でも……僕を心配してくれてありがとうございます。やっぱりハヤテさんぐらいですよ……へへ、なに言ってんだろ? あ、ここ笑うところですよ?』


 スズキさんは自分の言葉に居た堪れなくなったのか、私に笑う事を強要した。

 いつもはあんな風におちゃらけてる彼女が、私の前でだけ照れたようにするのは少しだけ嬉しく思う。

 彼女の素行についてはもう注意しようがないものだと思っていたが、本人なりに恥ずかしい部分もあるようで妙に安心した。


 そのあとわざと私の前に移動するという死に芸を披露して、彼女のスキルが派生するまでメンバー一同お付き合いする。


 しかし生えたスキルがこれがまた際物で、なんの価値があるのかと全員で頭の上にクエスチョンマークを浮かべるものだった。


「いいんですよ、これはこれで! お陰でBランクになれるんですから! たとえ死にスキルでも良いんです!」


 言い得て妙と言うか、確かにそうだ。

 彼女は仮死状態の時にキルされるとする死に芸を獲得し、私より一歩先にランクBへと躍り出ていた。


 ちょっとだけ悔しいと思う私がいる反面、ゲージ消失でSTカット要素があらかた死んだ私に対する慰めなのだと反面する。

 スキルが使えるか使えないかはその人次第だと教えてもらったのだ。

 そう言えば始めたばかりの頃、孫にも同じ事を言われたなと思い出す。


 他人は他人、自分は自分。それでいいじゃないかと言ったのは誰だったか。

 それを思い出し、私は変に悩んでいた頭をスッキリさせていた。

 そうだ、プレイヤーがなんであろうと、古代人がなんであろうと関係なかったんだ。

 要はどのように受け入れるかである。

 それこそ人それぞれだ。


 思考が研ぎ澄まされていくのを感じた。

 やはり彼女は聡明だ。

 彼女と一緒にいると、自分の中の足りない何かが補われていくのが分かった。


 その時初めて彼女の旦那さんが羨ましいと思った。

 無論、私は妻一筋だけど。

 人との付き合いなんて、多かれ少なかれ自分に理があるからこそ付き合うんだ。そういう面において、彼女という存在は私の中でも上位に位置づけされていた。

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