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第46話 九の試練/追憶②


 暗闇の中、ぼんやりと浮かび上がったのは映像記録。

 まるで当時を切り取ってそこに浮かび上げたそれらは戦争の悲惨さを今の代に知らしめようとする語り掛けから始まった。


 戦争の発端は種族が増え、住む土地を探そうと前に出るものと、生まれ育った土地で暮らす者の言い争いからピックアップされた。


 ここで思い出されるのは過激派と穏健派。

 自分たちの種族以外を下等生物と切り捨てる過激派は打って出れば土地は手に入ると訴えた。

 しかし穏健派は与えられた土地以外の生活が考えられずに引きこもった。


 外の世界への憧れもあったのかもしれない。

 その種族が何人かわからないが、私の目の前で字幕スーパーが流れるあたりアトランティス人である可能性は非常に高かった。


 進んだ化学文明の中の平穏は、裏を返せば退屈な日々だった。

 優れた技術を持つ故の慢心が過激派の原動力なのだろう事は行動を見れればわかった。


 しかし井の中の蛙である事をある土地に侵攻してから知ることになる。

 それが初めて敗北を喫した土地。

 ムー大陸。

 そこは科学じゃ説明ができないほどの巨人が住んでいた。

 そんな力で敵わないと思わせる種族が自分たちと同じか、それに追いつくほどの技術力を持って平和に暮らしている。


 アトランティス人の過激派にとってそれは脅威に他ならない。

 どのようにすれば倒せるか?

 過激派はそれだけを考えて生きてきた。

 穏健派はそんな愚かな同族に生温かな視線を送って自分たちの暮らしを満喫していた。


 戦争が始まるにつれて、アトランティス人の科学技術も軒並み上がっていく。そして戦争の道具として生み出されたのが泥で出来た人形……私達が良く目にしたエネミーだった。


 偵察機として配置された個体はボール型と呼ばれ、それらはあらゆる場所に潜り込んでムー人の暮らしを観察した。

 文明を盗み、弱点を暴き、そして新たなエネミーを生み出していく。それらのバリエーションが、ハウンドタイプだったり、シャドウタイプだったりするわけだ。

 傷そのものより、肉体エネルギーを損失させる攻撃手段は体格差のあるムー人に打ち勝つ手段だったのかもしれない。


 そして巨人タイプは、巨大化したムー人への対抗手段だったのかと今になって思い返す。

 つまりSF的に考えれば、エネミーとは遠隔操作できるロボットなのだ。同様に侵略者として存在する事を察する。


 では私達の暮らす舞台は何故攻め込まれた痕があった?

 何故封印が施されていた?


 つまりは現在進行形でアトランティス人によって攻め込まれているのだ。

 何故? 何のために?

 アトランティス人はとっくに滅んだのに、何故エネミーは動き続けて私達に敵意を向けるのか?


 ……考えるまでもない。

 プレイヤーがムー人の子孫という設定だからだ。

 どうして気がつかなかった?


 何故アトランティス人を味方だと思っていた?

 彼らはこの世界に侵攻し続ける侵略者だ。

 なに呑気に第三者のフリしてトークなどしていたのだ私は。


 ……だが本当にそうなのか?

 どちらの子孫かも判別するギミックはない。

 ただ舞台がムー大陸と思えば辻褄は合うんだ。

 私達プレイヤーが子孫である必要はない。

 そもそもどのような存在であるかもはっきりしていないんだ。

 決めつけるのは良くないな。


 考えれば考えるほどドツボにハマりそうになる。

 なにが正解で、なにがハズレか情報があまりにも少なすぎた。

 アトランティスにとっては目の上のたんこぶだったムー。

 ムーからしてみれば露払いしただけだ。

 どちらにも言い分はあるし、どちらが悪かは第三者が決めることではない。


 上映された時間は30分。

 バッドエンドと言って差し支えない凄惨な運命を辿った過激派はムー人の侵攻に奮闘虚しく敗北した。

 そして徹底的に文明を破壊され、海にそこに沈んだ。


 私が発見した遺跡はその海の底に沈んだ一部だったのだろう。

 偶然が偶然を呼んで私はアトランティス側の情報を手に入れてしまった。敵対組織の内部機密を手に入れてしまった。



「|ー〻ー)ハヤテさん、あまり思い悩まなくてもいいですよ。ハヤテさんは運悪くアトランティス人の痕跡を見つけてしまっただけ。それだけです」

「スズキさん……」


 死んだ魚の顔が闇の中からヌッと浮き上がって思わず心臓が口から飛び出そうになるところだった。

 寸前で思いとどまったけど、さっきの今で変に緊張していた気持ちが吹き飛んでしまう。

 びっくりさせないでよ。


「慰めるか脅かすかどっちかにしてくださいよ、もう!」

「|◎〻◎)ふひひ、サーモン」


 スズキさんはドッキリ大成功と言った風に変な笑い方をする。

 そんなぼやきに対して探偵さんとジキンさんが合いの手を入れた。


「いつから鮭にグレードアップしたんですか?」

「値段的にはグレードダウンじゃないの?」

「|◉〻◉)僕、どっちも好きですよ?」


 そんな2人にキョトンとした返しをしたスズキさんは、光ったり消えたりふわふわしながら、足場を発見するハットトリックを見せた。


「|◉〻◉)あ、ここ降りられます! ほら、ビチビチ跳ねても平気!」


 足場確保的な意味合いもあるだろうけど、彼女はもう少し体を張るのを控えたほうがいいと思うな。

 実際の肉体には影響ないとはいえ、妊婦さんとは思えないアグレッシブさを見せている。


 私達はその場に降り立ち、各々が休憩をした。

 消費したAPなりSTを回復させるためだ。


「|◉〻◉)あ、この状態! ご飯食べられないです!」


 今気がついた! と言わんばかりにスズキさんが跳ねながら移動する。

 肉体は元気そうなのに目が死んでるせいでギャップがすごい。

 仮死状態っていったい何なのだろうか?

 干物にしては元気が良すぎる。


「大丈夫ですよ、みんなで食べさせてあげますから」

「|◉〻◉)あ、餌をもらいに行く時の金魚の真似しますか?」

「要らないです」

「|◉〻◉)ちぇー」


 何で悔しがってるんですか。

 死んだ目でやられると怖いからやめて下さいよ。

 口をパクパクさせられる事はできるのは今までの行動でよくわかっていたので、ご飯やうどんをスズキさんの口に入れていく。


 ちょっとそこの番犬! 何で携帯食にうどんをチョイスしてるんですか! 

 食べます? じゃないですよ。

 しかもそれカレーうどんじゃないですか! スープが跳ねるからやめてくださいよ。


「|ー〻ー)じぃじ、麺類はやめて」

「よく噛めば大丈夫です」

「|◉〻◉)そういう問題じゃなくて……あーっカレー味に体がそまるぅう」

「よし、僕はご飯を炊いて置くか」

「|◎〻◎)それは何の準備で?」

「なにってスズキ君の布団の準備だよ」

「|◎〻◎)うわー、僕たべられるぅうう!」

「ハッハッハ。スタッフが美味しくいただきましたとテロップを息子に作らせておこう」


 言いながらもキャッキャとはしゃぐ彼女は今の時間を精一杯楽しんでるようだった。

 そろそろ出産の頃合いかもしれないね。

 向こうからはなにも言ってこないけど、ここ数週間の騒ぎっぷりは彼女なりの焦りを感じていた。

 彼女が申告した時は送り出してあげようと思う。


 そしていつでも帰ってこれるように席は開けておくと。

 それ以前に忘れたくても忘れられないよ、彼女の存在は誰よりも濃いもの。


「こっち、通路があります」

「よくわかるね。みんな、ゲージ回復は十分かな?」

「こっちは万全です」

「それよりも少年はAPだけ回復してST回復は足りるの?」


 よく見てるなぁこの人。

 そりゃただでさえ移送をダブルで使ってるのに★風操作してれば心配されてもおかしくはないか。

 これはイベントでも隠していた情報だけど、仲間にはいつまでも隠しておけないかと開き直る。


「実は私のSTゲージ、ありません」

「「「「「はぁ!?」」」」」


 探偵さんのみならず、メンバー全員が同じタイミングでハモった。仲が良いね。


「マスター、何でまたそんな事に? イベント関連ですか? ゲージ消失なんてプレイヤーが黙ってませんよ」

「それってつまりゲージがないから消費しない、そう言う事?」

「|◉〻◉)わー、ずるいです! 僕もST管理からおさらばしたい!」

「あなた、流石にそれは他の人に言ってないわよね?」

「言えないよ。ブログにだって書くか迷ったもの」

「言わなくて正解だよ。ただイベント関連では無いんだよね?」


 全員が一気に言葉を放つ。

 かろうじて拾えた妻の言葉だけ返すが、要約すればずるいという一点に集約する。


「実は私が最初に取った低酸素内活動の派生先が〜〜の呼吸に変化したことあったじゃない? マナの大木に登り切った時にさ」

「ええ、ありましたね」

「|ー〻ー)ずいぶん昔に感じますけど、まだ1年経ってないんですよね」

「そう、その〜〜の呼吸がある程度出揃ったら新たに無の呼吸と言うのが生えた。それをマスターしたらスタミナ無視移動というスキルが生えて、獲得したらゲージが消えたというわけだ。私も詳しくは知らないけど、スキル詳細に書いてあったよ」

「システムに介入してくるスキルなんてあるんだ?」

「逆にST消費軽減系が全部死んだ私の気持ちがわかる? 私の称号スキルも含んでおおよそ半数がSTカット系なのにだよ? 嬉しい反面悲しいよ」

「それはどんまいとしか言いようがないね」

「|◉〻◉)ねぇハヤテさん、今どんな気持ち?」

「君たちは何で私が失敗すると嬉しそうなのかなぁ?」

「何ででしょうね? 自分の胸に聞いてみたらいかがですか?」


 男達だけではない。妻やランダさんまで揶揄ってくる。

 みんなが真っ暗闇の通路に進む中、私は彼らの背中を追う。

 待って! 私はクランマスターですよ!

 ちょっとーー!

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