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第39話 八の試練/敵意⑦

 私達は眼前に広がる景色に息を呑む。

 確かコントロールルームに来たと思っていたのに、そこにあったのはレムリア人が培養液に浸けられているカプセルと、白衣を纏った人ではない何かの姿だった。


⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎随分と早かったな


 言語は理解できない。

 なのに字幕スーパーが出てくるので理解ができる。

 つまりは古代言語。

 私が取得してきた言語を意のままに操る人物とは……つまり、そういう事なのだろう。


「お初にお目にかかります。私はアキカゼ・ハヤテ。貴方の同郷の方に託されてこの地へ参ったものです」

「少年、知り合い?」

「いいえ。ただ、向こうから敵意は感じないので」

「でもアレ……」

「|⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎《ああ、これは気にしないでくれ》」


 探偵さんがカプセルケースに浮いてるレムリア人にチラチラ視線を送りながら訴えかけてくる。

 確かに気になるよね。

 けれど今はまだ向こうが会話を望んでいるので戦闘行動を取るわけにはいかない。


 ここは試練の場なんだ。

 何かしら試されていると思っていい。

 人ではない何かは、機械とも骨とも区別のつかない銀色に光るボディをしていた。


 頭の部分は異様に大きく、手足は細長い。

 バランスが異様に悪いのに、白衣は着こなしている。


 きっと本来の姿は別にあるのだろう。

 これはこの場所に来るために作られた急造のボディなのだろう。


 そういえば用水路の奥に沈んだアトランティス人も白衣のようなものを纏っていたな。

 研究者だったのか、はたまたファッションなのかは定かではないが。


「ところでそれは何をしてるんです?」

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎気になるかね

「気にならないといえば嘘になりますが、本題は別のところにあると言うのならこちらは従うまでです」

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎話が早くて助かる


 彼らは独自の圧縮言語を使っており、通常ではその会話を読み取ることはできないらしい。

 しかし古代アトランティス人の代理人である私なら自動翻訳が出来るので、なんとか会話が成立していると言った感じだ。


 話を聞くに、彼らは精神生命体であり、肉体は別になくても生きていけるそうだ。

 しかしそれだと私たちのような生命体とコミュニケーションが取れず、急造で似せたボディを作ってこうして待っていてくれたらしい。


 かつての遺跡群はまだ肉体に拘っていたときの名残で、早いうちに肉体を捨てた人達は今も生き延びているそうな。


 今回の古代アトランティスの想いは過激派の交戦記録の結果であり、保守派の彼はあまり気に留めてないらしい。


 しかしレムリア人との接触で思い掛けないデータがとれたと喜んでいる辺り、根っからの技術者なんだなと思わされた。


 彼との会話を一時中断し、仲間と打ち合わせする。


 確かに彼に敵意はない。だからと言って、敵じゃないとは限らない。

 そしてコントロールルームに巣食っていたエネミーの正体も掴めていない。

 全てが謎に包まれたままだった。


「どう思う?」

「めちゃくちゃ怪しいですよ」

「ハヤテさんは敵意ないって言ってますけど、結局味方である確証も無いですよね?」


 そこなんだよ。彼は確かにアトランティス人なのだろう。

 だからといってそれを鵜呑みにしてしまうのは早計だ。


「思えば、これも手がかりの一つなんじゃ無いでしょうか?」

「つまり?」

「ここで答えを出す必要はないって事です」


 珍しくスズキさんが語っている。

 ジキンさんも悔しそうにしながら納得していた。


「でもヒントって他にはどこにあるかしら?」

「まだ回ってない部屋もあるよ。僕たちは少し回ってすぐに映画を見て、あの場所まで一直線に向かったんだ。彼の言葉だけ鵜呑みにするのは危険だよ。なんせレムリア人の遺跡でレムリア人を捕まえてるような人なんだし」


 妻の不安に探偵さんがありのままの事実を述べた。

 そう言えばそうだ。

 突然現れたアトランティス人にビックリし過ぎてしまって見落としていたよ。

 確かにここの遺跡の作りはアトランティスの物と違いすぎる。

 探偵さんが言うようにレムリアのものなのだろう。


「待って、じゃあエネミーって何?」


 スズキさんが唸るように聞いてくる。

 エネミー。このゲーム内に現れて敵対してくる謎の生命体。

 アトランティスの遺跡に多く存在する。


「ああ、なるほど。これってつまり内部分裂?」


 探偵さんが何かに気がついたようだ。

 一人だけ訳知り顔でうんうん頷いている。


「一人だけ納得してないで説明してくださいよ」

「うん、悪い悪い。これは邪推なんだけどね。もしこのエネミーの生みの親が保守派のアトランティス人だとしたら、全ての辻褄が合うんだ」

「つまり敵?」

「一概にはそうとも言い切れないけどね。ただ、場合によっては敵対することになる。あくまでも中立なのさ。さっき少年が仕入れた情報でもあっただろう? 保守派と過激派は対立関係にあったと」

「ああ、うん。つまりは過激派の残したアトランティス人の記録を封印、または抹消しようとしてるのが保守派って事?」

「かもね。だって彼にとって過激派って身内の恥でしょ?」

「……言い方」


 探偵さんの指摘にジキンさんが苦言を呈す。

 確かに言い方に問題はあるけど的は得ている。

 それに女性陣もなるほど、と納得している。

 なんでこっち見てるのかはわからないけど。


「じゃあつまり彼は味方になってくれる訳ですね?」

「選択を間違わなければ、とつくがね」

「また接待ゲームの始まりですか!」

「|◉〻◉)天鋼シルファー足りるかなぁ?」


 私の質問に探偵さんはキッパリと答え、何故か楽しそうにしだすスズキさんとは対照的に素材の在庫を心配するジキンさん。


「決着がついたのなら何よりよ。それで、探索はするの?」

「もちろんします。お祈りゲームは後回しにしたほうが気持ち的に楽でしょう?」

「|◉〻◉)じぃじのここ掘れワンワン期待してますね!」

「だから僕は犬じゃないって!」

「|◉〻◉)ノお手!」

「…………」


 水掻きのついたスズキさんの手に、ジキンさんの手が無言で載せられる。


「|◉〻◉)いい子ですねー」

「痛いですって! 爪! 爪伸びてます! あー、あー、毛皮がズタズタに!」


 実家で犬でも飼ってるかのようにスズキさんがジキンさんの頭をなでなでする。でも指摘されてるようにスズキさんの手って結構角張ってて鋭いんですよね。魚の鰭みたいに尖ってるんです。

 それで家でやってるように撫で回すんだから普通に大惨事のはずです。でもそれは痛覚設定をONにしている場合に限る。


「痛覚設定ONにしてるんです?」

「痛覚設定ONにしないと嗅覚がまともに発動しないんですよ。どうもリアリティ基準のようで、食事もONにしてたほうが美味しくいただけるんですよ」


 なるほど、そんな裏技があったんだ。


「でもこんなダンジョンでONにしてる人は初めて見るわ。ランダさん……」

「皆まで言わなくていいわ、アキ。アタシもこの人がここまで馬鹿だとは」

「ええ、僕が悪いの? 僕の嗅覚が必要だっていったのは君たちなのに!?」

「この遺跡で嗅覚を頼りにした事あったっけ?」

「この人! ついさっきまでの記憶がないんですか?」


 ジキンさんが私を指差してがなりたてる。

 全くなんのことだか全然記憶にないねぇ。


「あら、うちの主人は都合の悪いことは記憶に残さないのよ。知らなかった?」

「家族にまで周知されてるのは流石に、同情するよ」

「あはは、まぁ長い付き合いだからね」

「|◉〻◉)僕はハヤテさんのそんないい加減なところも好きですよ!」


 スズキさんはそう言ってくれてるけど、これ喜んでいいのかな? ただの社交辞令だよね。まぁ悪いのは私だ。

 ジキンさんには何言ってもいい関係だからこうして無駄口叩きあえるけど、家族を交えると要らぬ反撃を受けることになるなぁ。


 次は気をつけないと。


「じゃあ探偵さん、無視した部屋の探索に移ろうか」

「次はもっと有益な情報を獲得したいね」

「その言い分だとさっきの情報が有益ではないと聞こえますが?」

「有益ではあったよ。でも選択問題だ。僕の言う有益は彼との関係を良好、または円満に終わらせるものがあるかと言うものだよ」

「貴方の言い方は回りくどいんです」

「率直に言えば言い方を指摘してくる癖に」


 ああ言えばこう言う。

 探偵さんとジキンさんは基本的に馬が合わないのかもしれない。でも私が混じると途端に仲良くなるんだよなぁ。

 なんでだろ?

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