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第36話 浮き上がる問題


「なんですか、あなた。その格好は」

「マスター、言っちゃなんだけど趣味悪いよ?」


 分かっていたことだけど、女性陣からの言葉はとてもよくハートに刺さった。

 私は泣きそうになりながら弁解する。


「違うんだ、ダグラスさん所のお子さんのクランに頼んだら、変に拘ってしまって。こっちはベージュの地味なコートを頼んだんだよ? 探偵さんみたいなのを!」

「それを受け取っている時点で同罪です。嫌なら突き返せばいいでしょう?」


 全くもってその通りである。

 ここは受け取った私も悪い。

 特に今日はなんでもない日だ。

 めかしこむ理由はまったくもってなかった。


「まぁまぁ、ここはようやく自覚したと受け取っておきましょう。今までが今までだったんです。成長した方ですよ」


 探偵さんの助け舟に、妻とランダさんが渋々と従う。

 いや、これ煽ってますよね?

 ムカムカした気持ちを抑えながら、進捗を尋ねる。


「それで、進捗は?」

「うん、70%って所だ。物自体はできたが、攻略の糸口は全くもって見えてこない。あれから番犬を引き連れて巡っているんだけどね、クリアらしい場所は無かったよ」

「ちょっと、誰が番犬ですか!」

「すいません、すっかり役にはまっていたので心に思っていた言葉が口から出てしまいました」

「それ、謝る場所違うよね?」


 探偵さんはうっかりやってしまったことのみを謝罪し、仮にも世話になってるクランのサブリーダーを番犬扱いした事を謝罪するつもりはないようだ。

 すっかり私と同じ思考になってきたね。

 けど私はクランマスターとして接してるけど、君はただのメンバーだから失礼にも程があるからね?


「なるほど、番け、サブマスターでも嗅ぎつけることができないとは厄介ですね」

「マスターまで僕を犬扱いしようとしたでしょ?」


 やだなー、最初から犬じゃないですかあなた。

 元々胡散臭さを全面に出した犬が、実は大会社の社長というギャップで成り立ってる存在ですよ? 

 今更有能ぶっても遅いです。


「さて、シェリルやフィール達からは何か情報入ってる?」

「うちの鍛治の親分はようやくインゴット化させたよ。そっちからの窓口は少年に行くからこっちには来てないよ」

「さすがダグラスさんだ。でも探偵さんの渋い顔を見ればわかる。問題は使い道だね?」

「そうだ。ただでさえ装飾系の素材になる以外は使い道はない。加工可能なのは今一番鍛えてる装飾の部位によると判明した」


 ふむぅ、難易度ではなく派生スキルの伸び率によるのか。

 確かに全てが全て難易度で決定してしまっては面白くない。

 こういう所はいろんな職人さんにチャンスが与えられた形でイベントとしては有り難いね。


「だからアタシは靴で、アキが腕輪だったんだね」

「思い当たる節があるんですか?」

「単純にそこら辺の装飾が売れるってだけよ。生産職は大手と競うより隙間隙間を埋めてく方が儲かるからね。だから自ずと範囲が狭まってく。今回はそれが形になったってわけさ」

「なるほど」

「装飾を装備できる場所は頭、耳、首、腕、足、指。獣人なら尻尾にも可能さ」

「それで、一つあたりでどれぐらい魔法反射耐久があるの?」

「以前あった魔法の雨くらいだったら1つ当たり二秒ってところだよ。ないよりマシな程度だ」

「つまり数は居ると。その上でその道のスペシャリストに頼む必要だあるわけだね。それはこっちで知り合いに連絡をつけよう。どうせ素材を無償で提供すればみんな飛びつくだろうし」

「あんまり安売りしないでよ……ところでマスター?」


 私の態度に呆れたような態度を見せるランダさん。

 そして今の流れで彼女は察知してしまった。

 どうして私がこんな一張羅を着る羽目になったかを。


「まさか他所のクランに天鋼シルファーを流してないよね?」


 私は視線をそっと横に向けた。

 きっと今頃私はバツの悪そうな顔になってるぞ。

 そこへジキンさんが得意げに告げ口する。


「あ、この人やっぱり流してますよ。油断も隙もないんだから」

「はぁ、余計な諍いを起こさないように心がけようって娘さんに言われた側からこれかい」

「ごめんねランダさん、この人こういう人なの。責任が自分に向こうが向くまいがなんら反省せずに行動するのよ。今まで一緒に暮らしてきたけど、ここまで酷いとは思わなかったわ」

「いや、アキが悪いんじゃない事はわかってるよ。悪いのはウチのマスターだ。あんたは被害者だよ」

「本当に、理解者がいるのって助かるわ。私ずっと一人でこれを抱え込んでて、これが普通なのかしらって悩んできたわ。でも違うのね、おかしいのはあの人だけだったのね。それを知れてよかったわ」


 なんで、なんで私が悪いことになってるんですか!?


「あ、この人、自分は悪くないって顔してるよ」

「少年はブレないなー。流石だな!」

「|ー〻ー)ハヤテさんは昔からそういう所ありますよね」


 いつの間にやってきたのかスズキさんが挙げ足取りにに参加している。

 この人もサラッとダメージの強い言葉吐くよね。

 まぁ自覚はしてるさ。ちょっと周囲の迷惑を考えてないところがあるとかはさ。


「酷いなー、みんなにそう思われてるなんて。私クランマスター降りようかな」

「おっと、そうはさせませんよ。今更降りられても困ります。正直にいうと、ここまで成長できたのはマスターだからこそです」

「急に持ち上げてきて何?」

「正直に申し上げると、僕やジキンさん、ダグラスさんがこのクランに居続けてる理由はマスターが少年だからだよ。まったく違う人だったら、正直ここまで続いてなかったと思うよ。ほら、僕って結構ソロ思考なところあるし。チームプレイは好きだけど、やっぱり見た目で敬遠されがちだし」

「それにマスターが濃いから僕達にはいい隠れ蓑になる。息子達と共に居ると妙にヘコヘコされて居心地悪いったらありゃしない。僕が居ても気を使う相手のいない環境のなんと清々しいことか!」


 それ、完全に自業自得だよね?

 サラッと私のせいにしないで欲しいんだけど。


「それそれ、僕もキャラ濃い方だけど、ジキンさんやランダさん、ダグラスさんがここにいる理由って、本当なら際立っておかしくない人たちが肩の力抜いて自然体にいられるからだと思うんだよ。それってある程度目立つ行動を自覚してるから兎に角窮屈でさ、でもここはクランマスター自らがやらかすじゃない? そのやらかしに比べたら僕達なんて全然可愛いものだし、だったらもう少し無茶出来るくらいまである。みんな少年に引っ張られてきてここまできた。だから今更途中下車なんてさせないよ!」


 何、その自分勝手な要望は!

 けど不思議と嫌味はない。

 変に媚びてくる手合いに構う時間が減って、自分の好きなことができた。そんな感謝の言葉が込められている。

 ちょっと言い方が気になるけど、まぁ私のような人物に寄ってくる人間は大体似たり寄ったりな人間になるものなぁ。

 上昇志向を途切らせてないようなら何よりだ。


「はいはい、わかりましたよ。言い出しっぺは私ですからね。作ったのは私で、付いてきたのはあなた方。なので今後も方針は変わらず行きます。文句は受け付けません」

「あ、開き直った」

「この開き直りの速さが少年の利点だね」

「|◉〻◉)利点かなぁ?」


 探偵さんの合いの手に、スズキさんが首を傾げる。

 そこ、どうして疑問系なんです?


 開き直りついでに探偵さんを通じてカネミツ氏に掲示板の生産板に募集をかけて臨時アルバイトを募る。


 選考基準は装飾のスキルを使ってパーセンテージが見えるかどうか。

 見えたら採用でそのまま作業に入ってもらって、見えなければ御免なさいしてもらう。

 こればっかりは無作為に人を選ばずやってもらった方がいいだろう。


 生産と聞くと生産クランに頼めば良いと思われがちだが、ランダさんみたいな人がソロにいないとも限らないので今回はクランに在籍してないメンバーの呼びかけを中心とした。


 クランって維持していくのにお金がかかるし、好きな事ばかりやらせてもらえるわけじゃないので、クランにいる限りどうしたって限界が出てきてしまうんだよね。

 素材と資金をじゃぶじゃぶ使っていいクランなんて、実際うちくらいしかないと思うよ。


 なのでめっちゃ伸びる。

 仕事終わりにログインすることが多く、毎日のログインが無理な人が多かった今回のアルバイト枠の全員が、ウチのクランに入りたいと頭を下げてきたくらいだ。

 ここには競合する職人がいないから伸び伸びできるし、作る部位によってテクニックの違いがあったりする。

 そこを教えあったりしていくだけで見解が広がったり、仕事の幅が広がったりと良いことづくめだったらしい。


 今回はアルバイトとして募集しただけなので採用は考えてなかったけど、クランメンバーの枠、増やすべきかなぁ?

 別に私は今のままでもいいと思うんだけどね。

 そんな風に言うとみんなから『気苦労を分散させたいので是非増やしてください』と言われた。


 酷いんだ。それは仲間と言わず道連れって言うんだよ?

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