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第34話 地下へ寄り道②

「今回私はサポートに徹するので指示出しお願いします」

「勝手にフラグ建てといてよく言うぜ。右方向からエネルギー反応あり、回避!」


 いやいやながらも的確な指示をくれるのは場馴れしてる証拠だ。

 彼はなんだかんだ登山部でメンバーをまとめ上げているからね。

 適切な処置に最大限感謝しながら距離を取る。


「こうやって改めて見るとアキカゼさんの進化は凄まじいな。それってどれだけスキルを重ねれば可能なんだ?」

「企業秘密です」

「言ったところで生えなきゃ意味がないってか!」


 ご明察。やはりこの人は深く聞いてこない。

 自分もそういうタイプだからこそ、カマ掛けまでで止める。

 うっかりボロ出してくれれば御の字なのだろう。


「そういう事です。相棒さんからはどんな指示が来るんです?」

「広範囲の攻撃が目視で確認できる。多分契りを重ねた回数で精度が上がるみたいだ。アキカゼさんにゃ見えないだろ?」

「ええ」


 なるほど、地下ルート特有のギミックか。

 確か情報では五つ目まで貫通してるんだっけ?

 これは違うギミックも用意されてそうで胸が高鳴るなぁ!


「次は全範囲攻撃!? 予知ができても回避できなきゃ意味がねー」

「任せてください!」


 どざえもんさんの前に躍り出て、自身を巻き込んで真上から水を被せる。その水を取り囲むように氷結させた。

 こういうのは探偵さんの方が上手いんだよね。

 私では大雑把になってしまってダメだな。

 反省すべきことは多い。


 氷の壁は一瞬にして溶かされたけど、全体攻撃そのものは緩和出来ただろう。


「助かった、やはりとんでもなく進化してるなぁ、負けてられん」

「これぐらい、私じゃなくても出来ますよ」

「マジかよ、俄然興味が湧いてくるからやめてくれ。地下ルート攻略がおざなりになっちまう」

「気が向いたら案内しますよ」

「そうだな、詰まったら気晴らしに行くのもいいか」

「はい。現に私もその状態ですし」

「と、もう一発でかいのがくるぞ!」

「ルートは?」

「真上からここら一体、マグマが降ってくるぞ!」


 ならば他の空域は手隙。


「少しお手を拝借」

「なにをするんだ?」


 移送を付与してどざえもんさんの重力を0に。そこへ★風操作で後方に全力回避。


「おわぁあああああ!」


 どざえもんさんは大声を上げながら景色を前方に置いていく。

 驚かしすぎてしまっただろうか?

 どうも固定メンバーで進んでる弊害が出ている気がする。

 身内にこれぐらい全然平気なのに、やはり慣れてないとびっくりさせてしまうか。


「実体験すると心臓に悪いな、このスキル」

「慣れてください。空はこの手の緊急回避が義務ですよ」

「マジかよ。地下と違いすぎるぞ? 急に行く気が失せてきた」

「地下はどんな感じなんですか?」

「大体が耐久クエストだ。制限時間内にこんな感じの見えないエネミーの攻撃をいなし続ける感じだよ」


 それはまた毛色が違いますね。

 試練と契りの違いでしょうか?

 天空ルートは多種多様なスキルを獲得して突き進む感じですが、地下ルートは特殊な能力を一段階づつ引き上げていく感じなのでしょう。先程どざえもんさんが言っていた通りなら、契りを交わした数によって難易度が変わる。

 そして今の難易度はどざえもんさんにとっても驚きの連続。


 もしかして私は起こしてはいけないものを起こしてしまったのだろうか?

 それはさておきとして。

 攻撃手段は単調なようで助かる。

 ダークマターをおやつに摘みながら、小休止を入れつつ回避運動。

 大体30分も戦闘したところで急に戦闘領域が霧散した。


<大地の精霊と契りの契約を交わしました>

<契りの段階が一つ上がります>

<契約スキル★目視強化+2を獲得しました>


 うーん、これは。

 私が悩んでいるところで、どざえもんさんが口を開いた。


「まったくアキカゼさんには頭が上がらないな。まさかこんな序盤に上級精霊が潜んでいるとは」

「上級精霊?」

「ああ、地下ルートではフィールドに隠れてる精霊を見つけ出して勝負を挑み、お眼鏡にかなったら力を付与していただける。下級精霊なら単独でも相手できるが、上級は基本的に2パーティーいないとたちまちに全滅する」

「成る程、広大なフィールドを巡ってヒントを元に精霊を見つける感じなのですね?」

「ああ、地下に街は一個しかないからな。殆どがマグマの底にあり、特定の時間で浮き上がる浮島に隠されてるとかザラだ。ノーヒントで上級引き当てるあたり、迷惑もいいところだが、精霊は時間経過でリポップする。誰にでも挑戦権があるのが救いといえば救いか」

「へぇ。それで視覚強化+2って?」

「下級精霊は+1で、上級なら+2なんだ。だからどれと契りを交わすかで攻略に差が出る」


 あれ、それってどの精霊と契約するかで難易度変わるやつでは?


「気が付いたか。この地下ルートが人手を欲してる理由はそこだ。ソロじゃ龍神の祭壇の奥に隠されてる封印の間には入れん。全ての精霊と契約を結んでることが前提だからな」

「ちなみに得られる能力って目視強化の他になにがあるんです?」

「これが全てではないが、現状……聴覚強化に、スキル威力上昇、妖精誘引、それとマグマ耐性だな」


 妖精誘引?

 なんかおかしなものが出てきたぞ?

 これってひょっとすると……


「妖精誘引ってどんな能力なんです?」

「指定した場所に妖精が引き寄せられるな。現状なんの使い道もないとされている」

「それって地脈石には使えませんか?」

「ああ、そういえば使えるな。完全に頭から抜け落ちてた。どうも違うことにかかりきりでタスク管理が出来てなかった。確かにそうだよな、どうしてすっぽ抜けてたんだ? 使えないという前提で候補から切り離していたのかもしれん」

「でも一応相棒さん呼んだんでしたら先に何かしてもらってからでもいいですよ?」

「あいつなら戦闘終了と同時に帰ったよ。どうもここに長居できないみたいだ」

「それ、完璧に地脈石の所為じゃないですか?」

「俺もそう思う」


 どざえもんさんも苦笑しながら私の言葉に同意した。

 そして契りを6つ重ねた妖精誘引でようやく地脈石に妖精が集まってくる。

 最初の方はすぐに入っていかなかったが、粘り強く続けていたら次第に地脈石が輝き出した。


 そしてお決まりのワールドアナウンス。

 天空ルートと同じように定期的に妖精誘引を使えという思し召しがプレイヤーに知らされた。


「いったいなんの騒ぎだ? 父さんか。行動する前に一言こちらに連絡してくれとあれほど……」


 やってきたのはシェリルだった。

 普段通りのスーツにサングラス姿。

 そのスーツが耐熱性なのか、普段通りに肩を怒らせてやってくる。そしてそこまで言いかけて、こめかみを揉み込んで苦渋な面持ちを見せた。


「やぁシェリル。早速やらかしてしまったよ」

「さらに上級引いてたぞ」

「ほんと、なんなの? その高反応センサー。真面目に探索してる私達が馬鹿みたいじゃない!」


 偶然だよ、偶然。


「この顔は偶然で済まそうとしてる顔だな」

「私もそう思うわ」


 信用されてないなー。


「それで、上級ってどの系統?」

「目視+2。目視系の試練だな。俺の契り程度じゃ危うかった」

「それでクリアしたのは嫌味かしら?」

「あまり彼を責めないでやってくれ。今回は私がサポートに専念したから運良くクリア出来たんだ」

「実際すごいぞ、動きが始めたての素人とは思えない。天空ルートは魔境か何かなのか?」


 どざえもんさんの指摘に、シェリルは頷く。


「一応ウチの一陣にチャレンジさせたけど、初見クリアは無理ね。相当な運が絡むわ」

「それを七まで貫通させたアキカゼさんは?」

「普通にライバル視してるわね。ウチの一陣はとにかくプライド高いから、パッシブ特化に負けたと知って燃えてるわよ」

「ねぇ、なんだか知らないところでライバル宣言されるウチのクランメンバーの身にもなってよ? そっちは知らないけど七の試練は50回は死んでるからね?」

「そう、ウチはレムリアの民との接待の挑戦回数が120回だけどまだ何か言い訳がある?」

「いや、頑張ってくれとしか……」

「そう、伝えておくわ」


 シェリルの口調は終始冷たかった。

 ストレスを溜めると爪を噛む癖は治ってないらしく、悔しそうにこっちを見ていた。

 はいはい、街を拝んだら退散しますよ。


 そこで判明したことだけど、龍人族はムーの民に連なる種族で、レムリアの器を装備してた私は問答無用でキルされた。

 どざえもんさんは強制ログアウトされる私を見送りながら、何かを掲示板に書き込んでいた。


 これ、もしかしなくてもどっちか一方のルートしかいけないやつでは?

 どうも私は今後地下ルートに関わらない方が良いらしい。

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