「え、お義父さん知らずに声をかけたんですか?」
「あ、うん」
「呆れた。すぐに気付かれてしまったよと義兄さん半笑いでしたよ? 今後持ち込みはより安定するでしょうけど、誰彼構わず情報漏洩されたら困りますからね?」
怒ってるわけではない。だというのに秋人君の口調はどこか私を責める感じだった。
あの日、妻のもとに帰って翌日の事だ。朝食前の牛乳を腰に手を当てて一気飲みしたときに思い出したもりもりハンバーグ氏の詳細。何か得られることでもあればと秋人君に聞いたら、突然同情するような視線で見られたのだから溜まったものではない。
思わず半分に折った新聞に顔を隠してしまったほどである。
日曜日の朝は家族全員で食事を食べて、ログインする前の穏やかな時間を過ごしている。
今日の話題は私の一言から始まった私の三姉妹の次女、亜耶の事だった。
彼女の旦那さんが、ゲーム中に会ったもりもりハンバーグ氏だと言うのだから驚く他ない。
道理でどこかで会ってると思った。
結婚式にも行ったし二次会もお呼ばれした。宴会芸も披露したし、翌日まで潰れるまで酒に付き合わせた。
その時の光景を思い出して、ようやく一致したのだ。
「一度亜耶とも連絡を取り合おうと思う」
「真希おねーちゃんは良いの?」
「二兎を追うものは一兎も得ずと言うだろう? むしろ今までそうだったのに、急にうまくいくと思う方がおかしいよ」
「その理屈はよくわかんないけど、分かった」
「亜耶叔母ちゃんの話?」
「そうよ。咲良ちゃんや瑠璃ちゃんにも関わってくるかも」ルリ
「瑠璃ちゃん! 久しぶりに会いたいな」
亜耶は三人の子供を授かっている。
長男の行人、長女の咲良、そして次女の瑠璃。
送られてくるのはいつも画像ばかりだが、仲良さげにしているのが写っていて、なんとも微笑ましい。瑠璃は確か美咲よりも年下だからか自分の妹のように思っているんだろうね。
一人っ子で寂しくないかと思っていたが、近い場所に親戚がいる事でそこら辺は免れていたようだ。
「AWOもやってるし近い内に会えるわよ。確か家族でクラン運営してるって聞いたわ」
ウチみたいにね、と由香里が微笑む。
「既にこっちいるんだ」
「そうよ。お母さんから聞いてない?」
「母さんは由香里に聞きなさいの一点張りだったからね」
「うーん、お母さんが間に入った方が一番拗れないんでいいんだけど」
「それじゃあ根本的な問題が解決しないから、私から話しかけるよ。それとクラン運営の件でも話がある」
「まさか業務提携する気?」
「提携というか、あの子達のクランがどういう目的で動いてるか知りたいだけだよ。あの子がマスターをしているんだろう? 真利君はメンバーだと自ら白状していたし」
真利、椎名真利君というのが、もりもりハンバーグ氏の招待。
彼の家系は先祖代々学者系で、彼のお父さんとも気が合った。
残念なことに病気で早死にしてしまったが、その意思は見事に真利君が受け継いでいてくれた。
あの時五の試練で一緒になった時の洞察力は先代の義人を彷彿とさせたものだ。
「そうだけど、お父さんは何が心配なの?」
「別にあの子の事はなんら心配なんてしてないさ。ただ……」
「ただ?」
「家族に負担をかけてやしないか心配でね。ほら、あの子はなまじ優秀なものだから自分がやれる事を相手にも求めてしまうだろう? 真利君は大丈夫だと思うけど、それが子供達にまで及んでいたら心配だ」
「そうね。亜耶お姉ちゃんはそういうとこあるかも。昔はよく比較されたっけ。どうして由香里はこんなこともできないんだーって」
「ははは、似ているね。そんな感じだ」
堂に入った由香里の物真似は迫真の演技力を見せた。
普段娘の前では完璧を演じているが、由香里からしたら昔話は思い出したくないものなのかもしれない。
「それじゃあ向こうで落ち合おう。私は赤の禁忌で母さんと合流して店番をしてるからそっちに呼んでくれ」
「はーい。お姉ちゃんはお父さんを見ると過剰な反応見せるけど相手にしなくて良いからね。本心じゃないから」
「ん? よくわからないけど心得た。美咲は今日の予定は?」
「宿題終わらせたらユーノと一緒に一の試練行くよ」
「攻略出来そうかい?」
「分かんないけど、霊装使えばワンチャンあるかもって話し合ってるよ。ユーノは無理っぽいけど、二の試練は行けそうって言ってた」
へぇ、この子達も少し見ぬ間に結構頑張ってるじゃない。
「秋人君は? やんないの、試練?」
「僕は錬金術師ですから」
「あたしは戦闘をメインにしてないし。それに、もしお父さんがイベント踏んだ時の為にすぐに動ける人材って必要じゃない?」
物は言いようだね。
まったく、二人して強情なんだから。
美咲には真っ直ぐに育ってほしい。
「じゃあ先にログインしてるよ」
それだけ言って私の意識はサードルナへと移動した。