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第60話 ジキンさんファミリー全員集合

 昼食を済ませて再度ログイン。

 メンバーが集まるまでオクト君と雑談を交わしつつ、全員集まったら鯛タニック号で赤の禁忌に進路を取る。

 無事に口から侵入し、波止場へと船を停泊させると見慣れぬ形態の派手な魚があった。鯛も十分目立つけど、マグロとうなぎはずるくない? 強そうな見た目や、奇をてらった見た目がもうずるい。


 そのあとその船の持ち主が判明した。

 単純にその可能性はあったか、と思い至る。

 門下生十数名を従えて訓練に励むクラン『乱気流』の皆さんと、懐かしい顔を勢揃いさせたジキンさん家のご家族がランダさんを囲うようにして親子団欒を楽しんでいた。


「遅かったじゃないですか」

「サブマスター、貴方勝手に先に行かないでくださいよ。ずっと待ってたんですよ?」

「メール送ったじゃないですか。息子達と先に行くって」

「メールを確認する癖がついてないからスズキさんに指摘されたようやく気づけましたよ」

「それはクランマスターとしてどうなの?」


 仕方ないじゃない。普段メールでやり取りする際はこちらから送ることが多くて、誰も私にくれないんだもの。


「僕は初めましてかな? どうも、うちの父さんがいつも迷惑かけてます」

「キョク、迷惑かけられてるのは僕のほうだぞ?」

「あれ、そうなの? 父さんが迷惑かけられる側なんて信じられないや」

「これはこれはお初にお目にかかります。貴方のお父さんと仲良くしていただいてるアキカゼ・ハヤテです。以後お見知り置きを」

「これはご丁寧にどうも。僕はキョクって言います。一応種族は堕天使で、翼はあるけど見た目詐欺なんですよねコレ。動かせるけど飛べないみたいな」

「へぇ、そんな種族あるんだ?」


 彼はジキンさんの家族にしては尖った部分が少ない丸い性格だった。それを関心して見ていた私だったが、他の兄弟は一歩引いて私とキョク君を見守っていた。

 なになに? そんな距離を取って。怖いなぁ


「正確にはこの種族進化に至るまでは様々なルート派生を乗り越える必要があるんです。まずは人間スタートで、一度も戦闘をせずに100回モンスターにキルされます。運が良ければそれぐらいの確率で幽体離脱ができるようになります。コツはスキルに肉体補助系をとらない事です。さくっと死にましょう」


 キョク君の口からはサラッととんでもない言葉が放たれた。

 何? 何で死ぬことに躊躇がないの君は。

 戦闘バカのご兄弟と全く別のベクトルで危険思想を持つキョク君に恐れ慄く。

 恐っ、この子恐っ!


「へぇ……そんな苦労してまで取った種族はどんな効果があるの?」

「そうなんですよ、重要なのはそこでして。なんと錬金術のさらなる極地が開けるんです。僕の研究ノートではあともう少しでホムンクルスまで至れるようになって──」

「はいストップ。企業秘密をバラさない」

「もがーー」


 そこで金狼氏がこの事は内密に頼むなと片目で訴えてくる。

 傍目には児童虐待に見える光景。それぐらいの体格差。

 金狼君て上背が大きいんだよね。それに比べて足は短い。

 もちろんそれを口に出して言う事はしないけど、次男のギン君も背は高くスラッとしているし、くま君は圧倒的巨漢!

 ロウガ君はやや猫背気味だけど、キョク君はマリンくらいの背丈しかなかったりする。分かってたけど、この家族濃いなぁ。


 オババ様に連絡を取り付けて移動する。

 家族団欒を見せつけられて何だか悔しい自分がいた。


「そんなに悔しいのだったら真希や亜耶にも連絡を取ればいいじゃないですか」


 妻の口から上二人の娘の名前が出てきて思わずドキリとする。

 私に取っての可愛い娘達……だけど、こっちの愛情をストレートに返してくれるのは今のところ由香里ぐらいしか知らなくて。


「困った人ね。あの子達もいつまでも子供じゃないわよ? 結婚して家族を支えて強くなった。今なら貴方が家族のためにと働いてくれていることに感謝だってしてるわ。でも、頑なに連絡を取らない頑固なところは貴方似ね」

「それは分かってる。向き合わなくちゃいけないんだ。現実に」

「そうよ、一家の心が離れ離れのままで貴方に先立たれたらあの子達は苦しむわ。親としてできる事をしてあげないと」

「そうだよね、でも私はあの子達の連絡先も知らないし……」

「由香里に聞きなさい。あの子は姉妹とも仲良いし」

「そうするか。済まないね、みっともない姿を見せてしまった」

「そうですよ。もっとしゃんとしてください。一家の大黒柱なんですから。ほら、次の試練もいくのでしょう? ランダさんと一緒にサンドイッチ作ったから、これを持っていって食べてください」

「ありがとう、ありがとう」


 ただその言葉だけしか言えなくて、妻の言葉にまた背中を押される私だった。


「アキちゃん、すっかり少年にベタベタじゃないの。ウチの妻なんて顔を合わせても挨拶くらいしかしてくれないよ?」


 探偵さんが別に羨ましくもない夫婦事情を語る。

 下には下が居ると知ってほっとする反面、こうまではなりたくないなと己に喝を入れる。気を引き締めよう。ここからが正念場だ。


「その癖趣味趣向は同じ方向なんですよね。秋風さんの奥さんなりに趣味を理解しようと歩み寄ってる証拠じゃないんですか?」


 スズキさんの女性目線の言葉が探偵さんの胸を打つ。

 そうなのかなぁと首を傾げ、きっとそうですよとスズキさんに説得させられていた。

 スズキさんも普段ははっちゃけてるけど、こういう場面ではリアルに戻るんだよねぇ。女性らしい気配りが垣間見えるのだ。


「待たせたね、到着したよ」


 オババ様の声に私達のメンバーが集結する。素早くシャッターを切って街に現れた古代言語を翻訳し、メール送信。

 そして見下ろした場所には光ってよく見えない幻想的な宮殿があった。


[五の試練:ここは神殿。氷の神殿。極光輝く太陽のお膝元。徐々に溶けゆく足場を利用し、前へと進め]


 今度はタイムアタック形式か。

 四の試練が真実を見抜く時間を要するタイプだとしたら、こちらは全てが消え去る前にたどり着かなければならない方式。

 四の試練のように元に戻ってくれるんなら良いけど、多分それはないなと全員が予感する。


 この試練の出題者は意地悪なのだ。

 取り敢えずここは後回しにして先にジキンさんの試練を終わらせてしまおうかと我々家族ハブられ組は悪巧みを始めた。


「君達、羨ましいからって悪趣味が過ぎますよ?」


 そう言いつつ得意満面な笑顔で仕方ないですねと言いたげにしてるこの人も人のこと言えないと思うけど。


 やや教育指導気味に鬱憤を晴らす私達は彼からしたら鬼教官に見えた事だろう。

 数回のリテイクでなんだかんだスキルを手に入れてしまうあたり、この人も基礎スペックが高いんだよなぁ。


 それはそれとして五の試練だ。

 私達が乗り気で居るところに、いち早く★ミラージュと★フェイクを使い果たしたジキンさんは正気ですか? とこちらを怯えた目で見ていた。

 正気ですよ。ほら、行きますよ。毛むくじゃらの腕を探偵さんと一緒に引っ張ると訴えるように大声を上げるジキンさん。


「助けてーー、この人たちは人の皮をかぶった悪魔だーー!」


 人聞きの悪い事言わないでほしいね。

 スズキさんも「|◉〻◉)ねぇ、今どんな気持ち? どんな気持ち?」と煽らなくて良いから。


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