「話に聞くほど悪い人たちじゃなくて良かったね」
「そう思えたんなら良かったんじゃないですか? 半分くらい向こうは呆れてましたよ?」
トップクランの人達は、聞いた話じゃ自分たちさえ良ければあとは何をしても自由な連中と聞いていたのに、蓋を開けたら良い子達ばかりだったので、あれこれ世話を焼いていたら勝手に好かれてた。
その話を切り出したらサブマスターはしかめっ面しながら返してくれる。
「何か機嫌悪そうですね。あのやりとりの間、何かありました?」
「むしろ息子さんを呼び出した手間と、見てられませんねと自分が前に出るチャンスを潰したから怒ってるんじゃないかと僕は推察するね」
「ああ、そういう」
探偵さんの名推理に肯定する様にジキンさんがワタワタし出した。相変わらずわかりやすい表情筋と尻尾の動きをしている。
「結局私のやり方で何も間違ってなかったって事ですよね。良いことじゃないですか」
「そりゃあれだけ身構えてたのに、圧力をかけてでも吐き出させようとした情報をポンポンと自分から吐き出せば向こうも肩透かしを食らうと思うんだよなぁ。実質少年の中のセーフラインが緩いんだと僕は推察するが?」
「えー……」
君、どっちの味方なの?
そりゃ確かにブログに載せる程の情報じゃないからと大盤振る舞いした自覚はあったけど、隠してたって仕方ないんだし今後協力するからって代表してリーガル氏をフレンドにお誘いしたのになぁ。オクト君も個人的にフレンド結んでたらしいし、良いんじゃない別に。
「何もなくて良かったが、息子がなんのためにここにいるんだ? って嘆いてたよ」
「そりゃ抑止力の為だよ。主にオクト君の司会進行を円滑にするためのね。彼の睨みがあったからこそ、後ろが静かでいてくれたでしょ?」
「それとそういう人物とも仲良くしてますよってアピールだね。彼はクランマスターとしては中堅だけど、個人的に引き抜きたい戦力だって専らの噂だ。息子が纏めてくれている」
「考えすぎじゃないの? なまじ自分達のクランは上から数えた方が早いんだからポッと出の新規プレイヤーに舐められないように気を張ってたんだと思うよ? 私も若い時はよく緊張したけど、社長クラスでも話してみたら良い人が多くてね。それ以降はコミュニケーションを積極的に取ることにしてるんだよ。それが活きたね」
「そういえばこの人はそんな人でしたね。こっちの苦労が水の泡なくらい前に出て勝手に成功を収めてる。息子が親父そっくりで嫌になるとボヤいてたけど、僕は側から見たらこんな人間だったのかとショックを受けているよ」
「酷いなぁ。でも、結果よければ全てよしって教わって生きてきたら誰でもそうなるよね?」
「そうですね」
「僕はならなかったけどなぁ?」
私とジキンさんの似た者同士は相槌を打ち合い、変わり者の探偵さんだけが頭をかしげた。それを聞きながらスズキさんがどこかソワソワしている。さっきまでの興奮状態が嘘のように静かだ。さては待ちくたびれたな?
老人の話し合いはついつい長引いてしまうものだからね。若い世代が一人いるとそのギャップ差につい相手をこちら側に引き込んでしまいがちだけど、向こうの感性からしたらそれは良い迷惑だ。
「みんな、レディがお待ちかねだ。空の旅へと戻ろうじゃないか」
「そうですね。レディが誰のことを指しているかはわかりませんが」
「ですねー」
「|◉〻◉)誰ですか、レディって。アキエさん達ですか?」
スズキさんも頭にクエスチョンマークを並べているよ。全く困ったものだ。
君だよ君。指摘したら「|◉〻◉)え、僕?」とキョトンとしていた。
どうやら精神がアバター側に引っ張られている様だ。
困ったね。ゲーム中の彼女は女性として扱わない方が良いのかな? そんな事を考えながら私達は四の試練で滞空中の赤の禁忌を目指した。
随分と寄り道をしてしまったが、飛空挺のお陰で時間的ロスはさほどない。オクト君を店に送り、私達は補充目的で妻達のもとへ。
「おかえりなさい、あなた」
「ただいま。ちょっと地上を散歩してきたよ」
「この人、あれだけの事をしておいて良くも抜け抜けと散歩だと言い切れますね」
「何かしてきたのかい?」
妻との会話にジキンさんが割り込み、ランダさんが被せ、探偵さんが肩を竦めた。スズキさんがキャッキャとしながら事情を説明すると、女性陣が目を丸くして驚いた。
「えっ、トップクランの一つと協力体制になった? 待って待って、スケールが大きすぎて思考がついていけないわ。私達のクランて規模で言えば底辺も良いところよね?」
「マスターってもしかしてウチの旦那より働き者?」
「この人は人脈だけは謎に多いんです。お年賀も毎年300以上も投げてましたよ。プリンターを使えば良いのに手書きで送るものだから時間ばかりかかって……」
「良いじゃない、手書きの方が貰った人は嬉しいでしょ? 私だったら嬉しい。それをみんなに分けてあげてるんだよ」
「僕は流石にプリンターだなぁ」
「普通はそうなのよ。ウチの人はやっぱり普通じゃなかったのだわ。ランダさんのお宅が羨ましいわ」
えー……妻にまでこの言われよう。私は遠い目をしながら話題を切り替えることにした。みんなして私を悪者にするの流行ってるの?
「さて、私達はこれから四の試練に再挑戦してくるよ」
「調理アイテムがご入用ってわけね」
「うん。君の真心を込めた一品を頼むよ」
「作ったのはアタシだけど構わないのかい?」
「彼女も手を加えてくれたんならそれで良いんだ」
「ありゃ、それはまたお熱いこって。ウチの旦那はベタ褒めばかりして本音を打ち明けてくれないのよね」
「あれが本音なんだけど!?」
ジキンさん夫婦のやり取りはどこか漫才じみていた。
それを見て妻と一緒にくすくすと笑う。
それを遠目に何やら探偵さんが恐れ慄く。
「この空間は僕にダメージを与える為に形成されてるのかな?」
「|◉〻◉)秋風さんはもっと奥様を労って!」
「はっはっは。無理だ! ウチの妻はもう二度と小説家の嫁にはならないとお冠だ。まぁ、それでも離縁してないのはお互いが別の趣味を持ってるからとも言えるが」
「どんな趣味です?」
「コスプレイヤー」
「|ー〻ー)似たもの夫婦じゃないですか。なんでこの人達仲が悪いんだろう?」
スズキさんが自分も将来こうなってるのかと思ったのか本気で悩み混んでしまった。そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。
探偵さん程の変わり者、そうそう見ませんから。
そうやってスズキさんを慰めていると探偵さんから「君にだけは言われたくなかった」と言葉を返された。ねぇ、それどういう意味? 私だって君ほどキャラの濃い人知りませんよ!
結局また思い出話に花を咲かせて時間を潰した。
ちょっと行って、すぐ試練に向かうつもりだったのに、身体がなかなかこの空間を抜け出すのに動いてくれないのが悪い。
そう決め込みつつも重い腰を上げることにした。