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第39話 三の試練/蜃気楼②

 さてさて、やってきました蜃気楼の迷宮。

 しかしどう見たって足場の雲が入り組んでる風もなく、細長い一本道ですよ。


「ジキンさんはこれをどう見ます?」

「これだけ広いとエネミーはこちらを責め放題ですね」

「聞いた私が馬鹿でした」

「酷いなー。せっかく答えてあげたのに」


 年寄りがプリプリしてたってなんら可愛くないですよ?


「探偵さんはどう? なんか攻略の糸口見つかりそう?」

「うーん、これだけで状況判断をするのは些か厳しいな?」

「まぁそうだよね。取り敢えず進んでみてから考えようか。みんなもそれでいい?」


 若干一名を除いて特に不満の声は上がらなかった。

 犬がキャンキャンと煩いですね。

 保健所に引き取ってもらったほうがいいでしょうか?


「と、これはまた面倒くさそうな分かれ道ですね」


 真っ直ぐの一本道を進むこと数分。

 左右に分かれた道が私たちの前に現れた。

 ついさっきまでは見えなかったよ、こんなの。

 その場で空を飛んで確認しても、肝心な道は真上から降り注ぐ陽光で途切れている。どちらかがフェイク?

 いやいや。そうではない。

 何か仕掛けが有るはずだ。


「少年はどう考える?」

「どこかに通じるトリックが隠されていたりしそうじゃないですか?」

「あり得るけど、ここは空の上だよ? どこにそんな仕掛け作るのさ?」

「そこはゲーム的フレーバーでちょちょいと出来そうじゃないですか」

「また適当言い始めましたよ、この人」

「|◉〻◉)それがハヤテさんですからね。それより景色はどの様に見えてますか?」


 探偵さんの言葉に本心で答えるとジキンさんが反撃のチャンスを待ってましたとばかりに噛み付いた。

 これだから躾のなってない駄犬は。

 やはり保健所に引き取って貰いましょうか?

 そうこう考えてた所でスズキさんが閃きを見せた。

 何も見えないからこそスクリーンショットの能力を使えとばかりに提案してくる。


「なるほど、試してませんでした。ヒントは近くにあるとは案外そこらへんにある景色かもしれないと、そういう事ですね?」

「|◉〻◉)はい。僕はそう考えます。この探索のキーマンはハヤテさんだから、試せる事はなんでも試しましょう。その上で出来そうなことは僕たちに頼ってくださいね?」


 そう言ってスズキさんは何処からか取り出したトライデントを構えた。いつになく真剣な表情である。


「|ー〻ー)と、僕の『ソナー』に敵影が写りました。皆さん、戦闘準備をお願いします」

「おっとスズキ君の察知系は僕のより優秀そうだ。今後も頼らせてもらうよ」


 探偵さんがコートを靡かせながら柔術の構えをとる。

 突如空間に亀裂が入り、パリンと割れて世界が凝固した。

 妻やランダさん、ジキンさんが仕方なく武器を構えた。

 私は即座にエネミーの画像を写し込み、情報を手渡した。


[バルーン型/突撃騎兵の情報を獲得しました]

 耐久:2000/2000

 戦闘行動:???

 弱点:斬撃、打突

 特効:火属性

 状態:平常


[シャドウ型/双剣使いの情報を獲得しました]

 耐久:1000/1000

 戦闘行動:???

 弱点:なし

 特効:光属性

 状態:平常


「シャドウがどうやって空の上に!?」

「きっとバルーンの影の中に存在している! この逆光を逆手に取られた、接敵される前に勝負をつけるぞ! こっちの影に入られたら厄介だ。アキちゃん、ランダさん、援護を頼む!」

「「了解!」」


 みんなが戦闘に移る中、私は戦闘フィールドの景色から目が離せないでいた。

 文字が見えたのだ。古代語が、エネミーに浮き出ている。

 ただしその文字だけでは要領を得ない。


 [↑……←……↓]


 どこかで何かをする必要があるのではないか?

 格上なのか、未だ戦闘行動が抜けてない。

 私のハイクリティカルが仕事をしないのは珍しい。

 他に何か仕掛けが有るのか?


「ちょっとハヤテさん、後ろでパシャパシャやってないでバルーンをなんとかしてくださいよ!」

「むぅ、仕方ない」


 ジキンさんの鬼気迫る掛け声に嫌々参戦。

 出会ったことのない強敵に、メンバー達は緊張の面持ちだ。

 風操作で私はバルーンの前へと躍り出る。

 しかしなんともその形は厳つい。本来のバルーン型は丸くてふわりとしているのに、今対面してるのは硬くてゴツゴツしてそうだ。まぁ、見た目はね。


「ほーら、鬼さんこーちら」


 手を打って注意を引く。

 ほんの少しの停滞、そこからの突撃は目を見張るものがあった。


「うおっと!」


 しかし私の体はひらりとその突進を華麗に避ける。

 というか、風に流された。

 飛ばされすぎないように風操作で操っているだけに過ぎない。


「少年! そいつをこっちに向けて落としてくれ!」

「はいはい、っとぉ!」


 まるで気分はマタドールだ。

 突進するバルーン型を牛に見立て、私の脇をかすめてバルーン型が真下に向かって急降下。

 そこで探偵さんがジキンさんに向けて何かをしていた。


「空転流──<風薙>!」


 それって少年探偵アキカゼのオリジナルアーツでしたよね?

 理論的に再現不可能とされていたはずですけど、何ちゃっかり再現してるんですかあの人!

 直下行で落ちて来たバルーン型を変な姿勢で受け止めるなり、探偵さんが受け流す様な姿勢でジキンさんの前へ放り投げた。


「内角低め、こんなのホームランを打ってくれと言われている様なものですよ、と!」


 ジキンさんがバッターボックスの中で悪態を吐きながら、甘めのボールに強打を打ち込んだ。ガキンと鈍い音が鳴り、再びバルーン型がこちらに帰って来ました。

 フラフラしてるところを見るに、あと一息ってところでしょうか?

 足踏みしながらバインドし、風操作で再び探偵さんの元へ。

 そしてジキンさんに再度ぶん殴られて戦闘終了。

 お疲れ様でした。

 6ヒットフィニッシュですって。

 ポイントが美味しいです。


「そういえばシャドウはどうなったの?」

「あなたが引き離してくれたおかげで影が消えて存在が保てなくなって消えたわ。ナイスプレイだったわね」

「ありゃ。活躍を奪っちゃった形か」

「全然、アタシ達は手も足も出なかったからちょうど良かったよ。ナイスだよ、マスター」

「それは良かった。でも私は戦闘中にこんなものを手に入れてね。途中で横槍が入って中断したので、結局分からずじまいでしたが」


 みんなに情報を見せながらじっとジキンさんを見つめると、ハンッと鼻を鳴らしていつもの説教を垂れてくる。


「何を言ってるんです? パーティーが全滅したら元も子もないでしょう? 僕の判断は間違ってませんよ」

「それは確かに」

「それにマスターが戦闘できない代わりに僕たちがいるんですから、リーダーならリーダーらしくメンバーに方針を伝えてからそういうことをして下さい。さっきのはただのサボりに見えても仕方ないですよ?」


 ぐぬぬ。ジキンさんのくせに正論だ。

 私は口を噤み、諦める様に思考を切り替える。


「じゃあ次からは私は戦闘中に別行動とりますから」

「バルーン型を処理したら自由にしていいですよ」

「横暴だ!」


 それじゃあ満足に撮影できないじゃないか!


「はっはっは、現状自由に空を飛べるのはマスターだけなんですから、キリキリ働いてください。頭を悩ませるのは手伝ってあげますから」


 ああ言えばこう言う。本当に口の減らない人だ。

 でも、なんだかんだ言いつつ手伝ってくれるんだよなぁ。


「頼りにしてますよ、サブマスター」

「ええ、もっと僕以外も頼ってください。みんなそういうつもりでご一緒してるんですから」

「はいはい。面倒事以外はきちんと割り振りますよ」

「ちょっとぉ、それ僕に面倒ごとだけ押し付けるって言ってません?」

「はっはっは、なんのことやら」


 今回の試練は出だしから面倒くさい事ばかりだ。

 何にせよ進んでみなければ謎は解けず、それでもこのメンバーとなら楽しんでやっていけると確信している。


 さぁ、戦闘もこなしつつ次の場所に行こうか。

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