真シークレットクエスト再発見から数日。
勝手にクエストは進めないでくださいねと念を押された私は、新しい発見を求めて山登りをしていた。
無論、そこで新しい出会いがある筈もなく……
「ああ、アキカゼさんか。あの時は世話になった」
普通に顔見知りと遭遇する。
なんて事はない。私の登山速度についていける、もとい、張り合える相手なんてのは知っている限りで一人しかいない。
もう一人の精霊邂逅者であるどざえもんさんくらいだ。
「こちらこそ、貴重な情報をありがとうございました。お陰で得たありがたいスキルの数々、探索の役に立たせていただいてますよ」
「それは良かった」
手に入れたスキルの内訳には例の『影踏み』も含まれる。
それ以外にもいくつかあるが、それらはまだ出番のないものが多い。なにせ派生元が派生元だ。
また用水路に赴くことでもない限り、当分出番はないんじゃないかな?
どざえもんさんとは、あれから今まで何をしていたかの近況報告を交えた雑談をした。
私の方の報告は、なんせ知名度の浮上と宣伝を打ってる関係でほとんどの情報が彼の耳へと届いてた。
それよりも急を要するのは彼からの情報である。
「なんかすいません、まさか私のした事でそんな事態になっているなんて……」
「いや、今回の件についてはアキカゼさんが悪いわけじゃない。全ては成り行きってやつだ。俺としても無駄な活動をしなくて良い分気楽なもんさ」
私の行った情報開示を始め、検証班の内部解体でクラン『登山部』はスポンサーを失い、徐々にその数を減らしていったという。
今も残っているのは登山に情熱を燃やしている発起人こと、初期メンバーの4人。
おや、奇遇な事に丁度うちのクランには4人分の空きがあった。これは誘えと神のお導きだろう。
どうせうちのメンバーは好き勝手やってる人が多いからね。
クラン活動だって、やりたい人が勝手に集まってくる。これほど彼らの環境に都合の良いクランもなかなかないよ?
活動資金は優秀な鍛治師が物のついでみたいに置いてく加工素材で賄えるし、失敗作品と言われて持ってこられた合金の売却でお釣りが来る。
なんなのあの人? こっちが与えた情報に対しての等価が釣り合ってなさすぎる。
これだから金銭感覚の壊れてる人は……
だから今更登山目的でログインする変わり者が4人増えたところで文句が来る事はないだろうと高をくくってクラン参入を提案してみた。
「良いのか?」
「変わり者が多すぎるので常識人を増やそうと打診した結果だよ。むしろあの中だと君たちの個性が埋没しそうで怖いくらいだ」
「そんなこと言われたのは初めてだよ。なんせ今までは好き勝手なこと言われてた立場だしな」
「それは勿体無いなぁ。会って話してみれば良い人だって分かることなのに」
「単純にそこまで興味が向かないんだろ。自分のことに精一杯で」
「違いない」
終始歓談でいい雰囲気を作りだし、では本題に入ろうかと居住まいを正して切り出す。
「それで、この場所で何か発見しました?」
ピクリとどざえもんさんの眉が上がった。
「なんの話かな?」
「やけに周囲を警戒しているようでしたので、ユニークの類かと」
ピクピクと眉をあげながら、すぐに諦めたように眉根を下ろした。
「やはりアキカゼさんには見通されるか」
「はっはっは。ウチに来れば毎日が発見の連続ですよ? なんと言っても私がその第一人者だ。他にも率先して問題行動を起こしたがるメンバーが居てね。そんな人物達が好き勝手してるクランは他にはないと自負してる。勿論、そんな無茶ができるのも優秀な火消し役がいるからこそだが」
「勧誘と興味。どちらを優先させてるのか分からんな」
「無論、同時進行していますよ?」
「そう来られたら話すしかないじゃないか。ああ、一応状況は伏せておくが、アキカゼさんの思っている通りのものだ。真シークレットクエスト。このワードに聞き覚えは?」
「私がそれを発見するのは2回目だね。1回目はファストリアで。2回目はとあるダンジョンから」
「流石、情報の爆弾魔。俺の隠してる情報が馬鹿みたいに思えるほどでかい情報を聞けた。火消し薬はさぞ迷惑してることだろう」
「どうかな? 私から見れば待ってましたとばかりに飛びついては嬉々として情報の検証をしているように見えたけど?」
「そんな奇特な人物がいるのか?」
「先にも言っただろう? 変わり者が多いって」
「ああ、聞いた。けど予想以上に変わり者ばかりで驚いている」
「はっはっは。後でチクっておこう」
「移籍する前に余計なトラブルを起こしたくはないんだが……」
「そんな言葉くらいで凹む人物じゃないさ。その人は元検証班統括のカネミツ氏だよ」
「ああ、あの」
どざえもんさんは考えるようなそぶりをする。
どちらの答えを聞こえるかワクワクしていると、想定以上の答えが聞けることとなった。
「そんな場所でなら俺たちも安心して趣味に打ち込めるという物だ。情報の発見と解析。それごと頼む事になるがいいか?」
「勿論だよ。ようこそ『桜町町内会AWO部』へ」
「ああ、俺含め4人。世話になる」
こうして我がクランには問題児が新たに一人加わり、情報統括班のリーダー、カネミツ氏が悶絶しながら地面を転げ回るのだった。