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第37話 ガチロールプレイング勢


 AWOにログインし、セカンドルナのポータルからファストリアへと戻る。

 つい最近のことなのに随分と懐かしく感じてしまうのは、やはりリアルとゲーム内時間の流れの違いゆえだろうか?


 行けるところはほぼ行き尽くしてしまったと心のどこかで思いながら待ち合わせ場所に行くと、なにやら見慣れぬ怪しい男がその場所に。


 いや、あの造形は見覚えがある。

 そう、その場所にいたのは──背格好はともかくとして、常に自信満々な面持ちと、情報の裏打ちでどんな難事件にも果敢に立ち向かう確固たる信念を持つ眼差し。

 特徴的なツンツンとした赤髪の似合うその男は──


 少年探偵アキカゼの主人公、秋風疾風そのものだった。

 するとつまり、あれが永井君か?

 見た目から入るタイプだったのか、着ている服装は初心者を思わせる装備で若干落ち着きがなさそうではある。

 私はその一見すると怪しい人物に声をかける。


「こんにちは、良いお日柄ですね」

「んむ? そうだね、良い気候だ」

「どなたか人待ちでしたか? 何やらさっきからここで周囲を見渡しているように見えました」

「ああ、いや。友人をね、待っているんだ」

「そうですか。ではご新規さんで?」

「恥ずかしながら」


 受け答えまで完璧にコミックから流用しているのだろう。

 どこからどう見ても少年探偵アキカゼの主人公がそこにいる。

 ロールプレイ勢だと言うことは知っていた。

 しかしここまで拘れるとはなかなかにお見事。

 いい加減種明かしをしましょうか。


「それで、待ち人の風貌はお分かりですか?」

「ああ、いや。聞き齧っただけなのですが」

「はい」

「生意気そうなガキンチョだと、伺っております」

「なるほど」


 これは永井君で確定ですね。


「そうですか、しかしそんな悪意満載の人物像を教えるなんて相当意地の悪い方のようですね。良識を疑ってしまいます」

「そうですね。それでもなかなかに面白いお方ですよ。笹井君はどう思います?」

「ええ、そうですね……今なんと?」

「笹井君と言いました。生意気そうなガキンチョ。人物像と一致します」

「はぁ、見抜かれていましたか」

「そりゃ、他の人達はこちらに見向きもしないのに、あなただけはまっすぐこちらに向かってきました。その上でさっきから見てましたよアピールされてもなんのこっちゃと思いますよ。アキカゼじゃなくたってきっと不審がります」

「おっと、これは盲点でした」

「そう言うところは変わらないね」

「はい。なかなか変わらないものです」

「さて、合流も果たしたことですし、フレンド宜しいですか?」

「勿論です。ようこそ、AWOへ。あなたの来訪を歓迎しますよ。秋風疾風」

「それ、さっきチュートリアルAIからも聞きました」


 フレンド申請を受領しながら軽口を交わす。

 永井君は変わらないなぁ。

 就職をする時に別れてから結構時間がたっているはずなのに、会えば中学時代までグッと気持ちが若返る。


「何か分からないところなどありますか?」

「大まかには大丈夫です。こう見えて結構ゲームには精通してる方なので」

「なるほど。私は離れて久しいので随分と困惑したものですよ。特に掲示板なんて今だに目で追うのがやっとです」

「ああいうのはリアルで見ちゃダメです。流石に私も目が追いつかない」


 やっぱりそうだよね。


「それと、掲示板から情報を仕入れるのはナンセンスです」

「その心は?」

「この情報社会、ほとんどのやり取りが曖昧で無意味な呟きが多く、あんなに高速で流れる場所に有用な情報を打ち込むことはできないからです。なので欲しい情報を探すならこっち」

「ブログですか?」


 永井君を連れ立って歩き、冒険者ギルドに赴くと案内もしてないのにブログ開設コーナーまで辿り着く。


「如何にも。こういった流れの関係ない素人の呟きにこそ独自情報が隠れていると私は推察する」

「なるほどなぁ。因みに私もブログをやってますが」

「へぇ、それはぜひとも拝見せねば……」

「ちなみにフレンドさんにしか開示してませんので、そんな大したものではありませんよ?」

「いやいやいやいや……なに、この情報量。軽くめくっただけで頭が痛くなるほどシステムメッセージがポップアップしたんだけど、新手のブラクラか何か? ……あ、なんか勝手にスキル覚えてる。なんなのこれ?」


 永井君はジキンさんと同じように疲れた顔で私を見てくる。

 だから負けじと私も同じように接し返す。


「失礼な。趣味の写真撮影ですよ」

「へー、笹井君写真なんて趣味あったんだ?」

「娘を送り出してから始めたんです。妻がね、趣味がないんなら何かやってみたらいいんじゃないかって勧めてくれて」

「なるほどなぁ。それはそれとして笹井君」

「なに?」


 永井君の手が肩に置かれ、力強く握られる。

 真剣な目が、私の顔を突き刺した。


「ちょっと装備のことで相談があるんだけどいいかな?」

「聞ける範囲でなら聞くよ?」


 聞くだけならタダだし。


 数分後。

 永井君は探偵の装備を纏って満足そうにはしゃいでいた。

 娘経由で情報を洗い出し、マーケットから似たような装備を見つけて購入して今に至る。


 見た目装備なのにそこらの武器より高くて驚いた。

 あとでお金払ってよねと一応催促しておく。


 今の彼は始めたばかりで所持金が心許ないので私が代わりに払ってあげたのだ。まぁ、今後付き合っていくわけだし、こうしてリアルアキカゼを身近に感じられるんなら安い先行投資と思わなくもないが、一応そこらへんのところは今後とも友人関係を続けていく上でもきちんとしておきたい。


「いやー、やっぱりこれだよこれ。初心者装備でも問題はないんだけど、やっぱり服装はこだわるよね」

「永井君は見た目から入るタイプだったっけ?」

「いや、中身も備えてるけど。どうせなら見た目も整えたいじゃない。さぁ、新たなる事件の解決へと導かれようじゃないか。ね、笹井君?」

「あ、その件ですがここは一応ゲーム内なんですし、呼び合う時にリアルネームはやめません?」

「ふむ。でもしかしなんて呼び合う? 同姓同名な訳だし」

「名前が一緒なら少年と探偵で分けるとか? ジキンさん曰く、私は見た目がガキンチョらしいですし、少年と言われても問題ないかと」

「なら私は探偵か。いいね、それで決定」

「こんな軽いノリでいいの?」

「むしろゲームなんだからこれくらい軽いノリで行かなきゃな、少年」

「そうですね、探偵さん」

「む……私だけさん付けはむず痒いな」

「探偵は個人を指すんだし、少年はその他大勢を指すんだからいいじゃないですか」

「ならいいのかな?」

「私は構いませんよ」

「それじゃあ、冒険の旅に行こうか!」

「はい!」


 そのあと永井君がモンスターと戦うところをずっと撮影してたら何故だか怒られてしまった。


「戦闘に参加してよ! さっきの返事はなんだったの? 私一人だけ浮いてたみたいで恥ずかしいじゃないか!」

「伝え忘れてましたが、私戦闘にスキル一切振ってないんですよね。だから撮影担当です。はいこれ、格好いい写真撮れましたよ」


 メールに添付して画像を送った。

 それを見たあと、彼はもっとポージングに気を使い始めた。

 これはアキカゼらしくないとか、ここはちょっとアキカゼっぽいなと一人でブツブツ呟いた後、なんだかんだで私の戦闘に関わらない件は許してくれた。

 心が狭いんだか広いんだか。


 けど確実に今より楽しい時間を過ごせるだろうなと確信する。

 ただ、明らかに空撮と思われるアングルの画像については厳しく追及された。

 なんだかんだと文句を突き付け合うのはジキンさん以来だったので、ちょっとだけ楽しくなっていたのも事実だった。

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