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第13話 幼馴染との再会


 私は一人本を読む。

 正直な話をしますと、今回はうかつにイベントを踏まずにゆっくりと作業をする日を設けようと思ったんですよね。

 一日に三回ログインできるので、やれる事を分けようと思ったんです。

 一つ目に山に登りたい件。

 これは事前に秋人君に任せたので連絡を入れればすぐです。


 二つ目に呼吸系のスキル取得。

 こっちはどざえもんさん頼りです。

 ログイン時間を彼に合わせると夕食後がベストなんですよね。


 なのでもう一つのログイン枠をせっかくだから新しいことの挑戦に回そうと思ってこっちに来ました。

 ジキンさんとまた何か新しいことをしてもいいんですが、あの人あれでなかなかに忙しいらしいんですよ。

 ログイン時間が合わないのか、あまり出くわさないんですよね。

 そこで手持ち無沙汰になった私の足は図書室へと向かい、テーブルには積まれた本がある。


 はい。あの時の続きの単行本をですね、テーブルに積み置きしながら読み耽っていました。

 何年経っても変わらぬ興奮と熱気。若い頃を思い出しながらワクワクしていますとね、水を差す言葉が聞こえてくるんですよ。

 噂をすればなんとやら。別に呼んでませんが。


「貴方はここに来る度にいつもそれですね。実は暇なんですか?」

「ああ、寺井さんおはようございます」

「おはようございますと言いながらも本に視線を戻さないでくださいよ。声をかけ損じゃないですか」

「今いいところなんですよ」


 そう言いながらページをめくる。

 圧倒的描写と緻密な書き込み。繊細であり、大胆な解決手段を少年探偵アキカゼが行動をして示していくさまはいつ見ても圧巻ですね。


「何巻ですか?」

「23巻ですね」

「ふむ。ドクタードレイクの陰謀編ですか。熱いですよね」

「そうなんですよ。話の内容はわかっていてもページをめくる手がね、止まってくれないんです。お話はこれが終わってからでもいいですか?」

「了解しました。私はそこらへんを散歩してきます。ゆっくりしていらしてください」

「なんかすいません。この作品だけは昔から夢中になってしまうもので」

「わかります。私もでしたから」


 でわ、と片手を上げてそれぞれの作業に打ち込む。

 あれからどれくらいの時間がすぎたか。

 積み上げた単行本は山と詰まれ、これだけの巻数を読み漁ったのだなぁと感慨深くなりながら伸びをする。

 単行本を片付け、エントランスへ。


「お待たせしました」

「やっと来た」

「おはようございます、笹井さん」

「おお、神保さんじゃないですか。お久しぶりです」

「お久しぶりです。こっちでは初めてでしたよね。寺井さんとは挨拶を済ませましたか?」

「はい。奇妙な縁もあるものでして、こちらで顔を合わせる前に違う場所で知り合っていたんですよ」

「へぇ、そんな縁がねぇ。世の中は狭いものだ」

「全くです」


 それから話をして実は神保さんもAWOをやっていると聞いて世間は狭いもんだなぁとまたも相槌を打つ。


「いや、しかし笹井さんもデビューしておいでとか。やはり決め手は?」

「孫娘からですね。一緒にやろうと言われて、仕方なく」

「私は息子がゲーマーでして、孫にも誘われて始めたんですが、なかなか受け付けなくて」


 神保さんの質問に私と寺井さんが答える。

 けれど神保さんの場合は少し私たちとは趣旨が異なるようだ。


「実は私はこっちをやる為にあのゲームに入ってましてね?」


 神保さんは田舎町の金物店を営んでいるお人で、鉄を叩く動作をしてそれらを伝えてくれた。

 手足の自由が効かなくなって本職を引退してから数年の月日が経っているからブランクを取り戻すのに躍起になっているのだとか。


「では神保さんの力作が向こうで拝める訳ですね?」

「全盛期程ではありませんが、古びた技術でよければお見せしますよ。それで笹井さんは何を目的に?」

「私は写真ですね」

「これがまたとんでもない写真ばっかり撮って周囲の人を驚かせるんですよ?」

「ははは、相変わらずですねぇ。よく一緒にヤンチャやって昭恵さんに怒られた当時を思い出します」


 神保さんは私より二つ上でしたが家が近所でよく一緒に遊んで貰いましたからね。懐かしい思い出です。

 妻の昭恵も当時はどちらかと言えば男友達のように接していましたよ。


 それはさておき、共通するゲームで遊ぶ三人がこうして集まっている。ここで何かを発足してもいいだろうと提案する。


「神保さんはこの後お暇ですか?」

「特に用事はありませんが。今は昔取った杵柄でインゴット作りばかりやっていましてね? お陰で戦闘スキルなんて一切持ってない。それでもよければですが」

「奇遇ですね、私も戦闘スキルなんてありませんよ」

「ではどうやって風景写真を?」

「外に出るときは、そこの寺井さんや孫娘たちに守ってもらいながらですね」

「なるほど、笹井さんは家族に恵まれましたね。うちの子供達はいまだに子供気分が抜けなくて。いい年して研究三昧ですよ。

 カミさんも足腰が弱くなってきてねぇ、そろそろこの街も引っ越すかって時にこのゲームを教えてくれたんだ。

 ここでなら直接出歩かなくても顔を合わせられるってね。

 でもそれで義理は果たしたなんて言うのだから困ったものだよ」

「健介君は相変わらずですねぇ」


 ご長男の健介君はうちの長女と同い年だったか。

 確かお医者様でこの街きってのエリートだと噂されている。

 神保さんはそんな大した事じゃないってなかなか認めてないようだったけど、親からしたら子供はそう見えてしまうからねぇ。


「ええ、誰に似たのか研究馬鹿で」

「間違いなく神保さんに似たんでしょう。奥さんに相当迷惑かけたでしょう? それを見て育った健介君は貴方のようにならない為に違う道に入ったと耳にしました」

「これは耳が痛いですね。確かに、私に似たのかもしれません。頼みの綱はあとは娘だけですが……望み薄ですねぇ」

「まだお一人なんでしたっけ?」


 うちの由香里と同じ年頃の娘さんが居たんだよねぇ。

 紘子ちゃんだったか。神保さんにそっくりで職人気質な子だったなぁ。今でもアクセサリー作りに没入しているんだろうか?

 由香里ともまだつながっているみたいだし、たまには話題を振ってみるかなぁ。


「こちらも仕事が楽しい人間らしくて、とんと男っ気のない生活を送っていますよ」

「うちの娘もそうでしたけど、なんとかゴールさせました」

「うちの子にも見習わせたいもんですが、由香里ちゃん程愛嬌が良くないからなぁ。私に似て堅物に育ってしまった。なんでそんなところばかり似てしまうんだろうねぇ。もっと良いところが似てくれれば良いのに、どうにもうまくいきません」


 当の紘子ちゃん本人は気にもしてないでしょうねぇ。

 それでも親というのは心配が尽きないものなんだ。

 そこへ満を辞して寺井さんがようやく口を開く。


「実際のところ、子供なんて親の言うことを聞かない生き物ですからね、気にしすぎても仕方ありませんよ」

「男ばかりの子沢山はいうことが違いますね」

「そうなのですか?」

「寺井さんのところは確か五人兄弟だとかで」

「うわぁ、それは大変だ。さぞかし奥様はご苦労されたことでしょう。ウチは二人でも手一杯だってのに」

「私なんかより笹井さんの奥様の方がご苦労された事でしょう。なんせこんな大きな子供がいるんですから」


 またこの人は私を悪者扱いして。


「神保さん、寺井さんは隙あらば私を貶めようとしてくるんです。気をつけてくださいね?」

「よく言いますよ。散々私たちを振り回しておいて。この人は全く悪気なくそれを言い切るんですよ?」

「あはははは、笹井さんは変わらず探究心が強いのか。向こうで会うのが俄然楽しみになってきたなぁ」

「では向こうで。集合場所はどこにします?」

「今はサードウィルでお仕事をもらってるところなんです。まだこっちまで来てないのでしたらこちらで合わせますが?」

「生憎とようやくセカンドルナにたどり着いたところで。そうしてもらえると助かります」

「ではそういう事で」


 こうして私は実家の同窓会をAWO内で行うことにした。

 完全新規の寺井さんを誘っても本当の意味で同窓会にならないしね。

 神保さんは一体どんなキャラを作ったのか、今から楽しみだ。

 職人キャラだというが、もしかしたら秋人君も知っていたりするのだろうか?

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