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第10話 もう一人の妖精発見者


 その後も順調に山を登っていくと、山脈の中腹で先に来ていたであろう人達に追いついた。


「あれ? どちら様ですか?」


 私の存在に気がついた人物が会釈をしながら近づいてくる。


「はじめまして、私はアキカゼ・ハヤテと申します。つい先ほどナガレ君からお誘いされてこちらへ参加しました」

「なるほど、ナガレの連れてきたお人でしたか。おーい、どんさん警戒解いて大丈夫だぞー。と、先にご挨拶頂いたのに返さずに失礼しました。僕はクライムって言います」

「クライムさんですね、よろしくお願いします。それとこんな軽装でこんなところに来られたらびっくりされますよね、配慮が足りずに申し訳ありません」

「いやいや、こういった場所で人に会うのを想定していなくて誰だろうって。私は平気なんですけど、どんさんは特に人見知りが激しい方なんで」

「なるほど」

「それで、ナガレは?」


 私はそこで後ろを振り返り、一緒にスタートしたのに随分と後方に置き去りにしてしまったナガレ君の姿を見やる。

 垂直に切り立った崖は霧がかかっており、遥か後方はもはや点になっている。そこでクライムさんに向き直った。


「まだ来られないみたいですね」


 木の呼吸の有無がここまでの差を生みましたか。実に便利ですよねぇ、呼吸系。何で誰も取らないんだろう?

 いや、検証班のデータからは未知数すぎて情報がないんでしたか。

 と、なると私のように簡単には取れないのかもしれませんね。


「はぁ……えっと、アキカゼさんは本日山登りに興味があってここへご参加なされたんですよね?」

「はい」

「に、しては何というかナガレよりも揃いすぎてる気がします。ここまで来るにしても、アイツを抜く速度にしても……何者ですか?」


 ああ、これ私疑われてますね。


「何者、と言われましても一週間前に孫から誘われて始めたばかりの撮影が趣味の年寄りですよ? 因みによく聞かれるんですが初期スキルは持久力UP、木登り補正、水泳補正、低酸素内活動、命中率UPです。特に隠すことでもないんでお伝えしておきますね」

「初心者じゃないですか! なのにパッシブ特化とは思い切りましたね?」

「家族からは当然反対されましたね。ですが自分のワガママを通すのに必要なのがこっちに偏っていまして。この際思い切って戦闘は捨てました」

「なるほど、そういう事でしたか。疑いをかけてすみません」

「いえいえ。こちらこそ疑いをかけられるような行動をしてすいませんでした」


 お互いに頭を下げあい、なんだかその姿が滑稽でどちらともなく笑い始める。こういう雰囲気も悪くない。なんだかんだ類似点も見られるし。


「悪いな、うちの若いのが」

「どんさん、お知り合いでしたか?」


 クライムさんのすぐ後ろからさっきまで何かの準備をしていた方が出てきてお詫びをしてきました。

 くま君程ではないにしろ、一般的サイズの人間より上半身が肥大化していて威圧感が凄い方です。これは何かの種族なんでしょうか?


「知り合い、というよりはこっちが一方的に知ってるだけだ。本当につい先日起こったイベントがあっただろう?」

「ああ、大型レイドボス討伐とかいうやつですね。僕は仕事の関係上参加しませんでしたけど、確かどんさんは参加されてたんですよね」

「それそれ。そのトータルMVPを取ったのがそこにいるアキカゼさんなんだよ。参加者としては非常に興味をそそられれたし、同時にその人物像を探る動きも見られた。けど運営クランの身内だから突撃するなら参加権を剥奪すると言われて誰もその正体を探ることができなかった御仁でもある」

「すごい人じゃないですか! でもパッシブ特化でMVPって取れるものなんですか?」


 クライムさんはどんさんなる人物に語りかけながらも視線はこちらへ寄越していた。これは説明をした方がいいですね。


「私の場合は周囲に助けられて偶然取れたというのが大きいんで、個人の力というよりは、仲間に恵まれた感じですね。そのおかげで名前だけが売れちゃって、実のところ迷惑してるんですよ。検証班とかにつけまわされたりしてまして、家族が便宜を図ってくれて今に至ります」

「なるほど、このゲームシステムの被害者って訳か。イベントを踏んだのもアキカゼさんだった訳だしな。ならばそれ関係の伏線の回収者の優先度もアキカゼさんになる訳だ」

「そういう事なんですかね?」

「多分な、俺もよくはわからん。ああ、ここまで話しておいて自己紹介をするのを忘れてた。どざえもんだ。みんなからはどんさんて呼ばれてる。今日はこちらの催しにご参加いただいて、それに登山に興味を持っていただいてありがとう」


 熊のような体格と名前はさておき、良い人のようで安心する。


「アキカゼさん、置いていくなんて酷いじゃないですか?」


 先遣隊と打ち解けていると、その空気を読まずにナガレ君がようやく到着した。


「ナガレ、先導して追い抜かれるとか恥ずかしいな?」

「んなっ、なんてこと言うんですか! クライムさんだって一緒にスタートすればわかりますよ。この人見た目に反して結構ヤバイ人ですよ!? 僕たちの努力を嘲笑うようにサクサク進んでいってしまうんだもの!」


 ヤバイって、初めて会ったばかりなのにひどい言われようだ。

 でも言いたいことはわかるよ。だって家族全員が私のことをそういう目で見るからね。

 ジキンさんやスズキさんにもそう思われてるんだろうか?

 だと思うと結構ショックかもしれない。


「知ってるよ。それでも置いていかれた理由はなんだと思う?」

「そんなもん僕が知りたいですよ」

「それは私からお応えしますよ。手の内の明かすことで信用を得られるのなら、こちらも吝かではありませんし。その前にフレンド登録宜しいですか?」


 クライムさん、どざえもんさんに許可を取ってフレンド申請を交わし、受諾してもらう。

 そこで以前マリンに送ったデータを再度三人に当てて送った。

 受け取った三人の表情はそれぞれ。

 ナガレ君は何回もこっちの顔を見ては手元のデータと見比べ、反してクライムさんは達観したように違いを見比べる。

 どんさんは概ね理解したような態度で二人の様子を見た後、言葉を発した。


「まさかアキカゼさんが呼吸系の所得に至っていたとはな、驚いた。そしてアキカゼさんにならこちらの手の内も明かしていいだろうと判断する」


 どざえもんさんから送られてきたのは一通のメール。

 山登りに特化したであろうスキル群。

 派生ルートは大きく違い、しかし見知ったスキルから同じ系統のスキルが生えていることに気付いて称号を見て確信する。

 この人は自分と同じタイプのフラグを踏んだ人だと。


「改めて自己紹介する。俺の名前はどざえもん。ドワーフで、地下世界の第一人者だ。空に逃れた妖精の発見者よ。地下に逃れた妖精の発見者としてあなたを歓迎しよう」


 彼の称号欄に有った『妖精の加護』はそういうことか!

 しかし地下世界にも妖精の国があるとは恐れ入った。あの子達は過去にどんなことがあって地上から姿を消したのだろう?

 それはさておき、こちらも返事を返さねば失礼に当たるな。


「こちらこそ、よろしくお願いします。アキカゼ・ハヤテ、ヒューマンです」

「この出会いは偶然か、必然か。俺も行き詰まったクエストがいくつかあるんだが、そのうち声をかけるかもしれない。その時は協力してくれないか?」

「私なんかで良ければ幾らでもお手伝いさせてください!」

「謙虚なんだか、ガツガツしてるんだかよくわからんが、期待はさせてもらうよ」

「ええ、こちらこそお手伝いを頼んでも?」

「お安い御用だ。今までは同じスキルを持つものが居なさすぎて警戒心を強めてたが、ようやく肩の荷が降りたよ」

「なるほど。だから人見知りという体で逃げてたんですね」

「まぁな。こんな見た目で人見知りなわけないのにな?」

「ああ、それは思ってました」

「ひでー」


 状況について行けずに呆れた二人組を置き去りに、私とどざえもんさんは大声で笑い合う。

 なんと言っても彼は私が持ち得ない石の呼吸の持ち主だから。

 なので仲良くしといて損はないだろうと確信していた。

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