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第3話 スキル派生の差異


 昼食をいただいてからログインし、セカンドルナを集合場所として孫と合流する。本当はユーノ君も来たがっていたらしいが、遠慮してもらったそうだ。別にそこまで気を遣ってくれなくてもいいのにね?


 でもせっかく彼女達が私なんかのために気を遣ってくれたのならとそこに世話になるのは吝かではない。彼女達のもてなしがどんなモノなのかを堪能してみるのも悪くないだろう。


 セカンドルナはファストリアに比べて街の規模が大きい作りになっている。

 街の周辺にはマナの大木を始めとする大森林がぐるりと囲っており、さらにその周囲を大自然の山々が見下ろしている形だ。

 いいね、いつかその頂から見る風景を写真に納めたいモノだよ。

 木がそこにあれば登りたくなるのと同様に、山もまた同じモノだと私は思う。


 さて、それはさておき緊急メンテナンスで何がどう変わったのか確かめてみる必要があるな。

 そういえば前回ログインした時はくま君のインパクトが強過ぎてそこら辺完全ド忘れしていたものなぁ。

 まずは自分のスキルを確認してみるか。


・ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー・

【アキカゼ・ハヤテ】

LP:100%

SP:100%

ST:200%【+100%】

 ダッシュ 【消費−10%】

 垂直・木登【消費−40%】【毎秒3%回復】【移動+30】

 水中・深海【消費−10%】【毎秒3%回復】【移動+10】

 登山・壁 【消費−20%】

 消費タイミング【毎秒→10秒置き】

EN:100%

<アタックスキル:0>

ーー

<サポートスキル:0>

ーー

 <パッシブスキル:21>

【持久力UP】ST上限+20%

【持久力UP中】ST上限+30%

【ST消費軽減】ST消費−10%

【持久力UP大】ST上限+50%

【持久力維持】STが消費される時間+10秒

【木登り補正】木登り時ST消費−10%

【クライミング】垂直時移動力+5

【垂直移動】垂直移動時ST消費−30%

【壁上り補正】壁を登る時のST消費−10%

【★水中内活動】水中内で陸と同様に活動できる

【水泳補正】水中内の移動力+5

【潜水】水中内のST消費に−10%

【古代泳法】水中内の移動力+20

【水圧耐性】深海へと侵入が可能になる

【海底歩法】海底を地面と同様に歩ける

【低酸素内活動】登山時、ST消費−10%

【木の呼吸】木登り時、ST回復毎秒3%

【水の呼吸】水中内、ST回復毎秒3%

【命中率UP】命中、クリティカル+10%

【必中】一回だけ命中率100%

【クリティカル】クリティカル発生確率30%上昇


【未確定】4

<重力無視【30/100】:落下ダメージ無効>

<ST消費維持【1/150】:30秒間ST消費なし>

<EN消費維持【1/150】:30秒間EN消費なし>

<石の呼吸【10/150】:登山中、ST回復毎秒3%>


【称号】3

【妖精の加護】妖精の目視が可能

【木登りマスター】木登り時移動+10

【古代の代弁者】★古代言語理解

・ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー・


「おじいちゃーん」


 増えたスキルに夢中になっていたら孫が走って駆け寄ってきた。側にユーノ君は居らず、本当に一人で案内してくれるようだ。少し不安な気持ちを抱えつつ、それで身楽しみにしている私がいた。

 さて行きますかね。


「おお、マリン。スキルは確認してみたかね?」

「うん。みたけど思ってた通りのものだったよ」

「そうかい、私は新しい発見があったよ」

「見せて見せて!」


 せがむ孫に苦笑しながら、まずは散策を開始しようかと背を押して促した。やはり何処かから視線を感じるのだ。


「後でね。それよりも今日はマリンが私を案内してくれるんだろう?」

「そうだった」


 さっきまで準備で大忙しという感じだったのに、この子ときたら私の顔を見るなり忘れてしまうんだから。


「それじゃあ、お願いするよ?」

「うん、最初はこっち」


 駆け出す彼女の背を追って、私も足に力を込めるのだった。


 マリンからの情報を一身に受け、それらを纏めるために私達は最寄の喫茶店で気分を休めていた。

 各々がドリンクを注文し、受け取った側から喉を潤す。

 私は孫ほど疲れていないが、これがパッシブ極振りの強みなのかもしれないね。

 先導を買って出た孫の方が疲れてしまったのでこうして食事をしているというわけだ。


「うーん、フルーティー」

「マリンはそれ好きだねー」


 このゲーム中、彼女はそのマンゴージュースしか口にしてない気がする。


「うん。味もいいけどメインは付与だね。食事バフってやつ」


 ほう?

 彼女のドリンクを事前に許可を取ってスクリーンショットをパシャリ。すると出てきた詳細には、こういった文面が書かれていた。


[スタミナドリンク・マンゴー風味:飲んでから消費するまでスタミナを消費しない]


「へぇ、一時的にST消費維持と同等の効果を持つのか。知らなかったな」

 そう言った私の言葉にマリンは眉を顰める。

「え、お爺ちゃん今なんて?」

「ST消費維持?」

「うん、それ」

「私の派生スキルの一部だね。しかしこれ、どうやって見せればいいだろうか?」

「他の人に見せたくないなら情報開示のチェックを外してからスクリーンショットでフレンドにメール添付で一応送れるっぽいよ。私もユーノから聞いただけなんだけど」


 へぇ、これも新しい機能かな?

 今までは情報開示がONだけだったが、すぐ横にあるチェックを外した途端にマリンから私の派生スキルの文字が見えなくなったそうだ。

 こういう配慮は嬉しいね。

 では早速写真を撮って彼女にメールで送ろう。

 一回こうしておけばユーノ君にも後で渡せるし、その場にいなくても渡せるのでありがたいね。


「受け取ったよー」

「どうだい、なかなかに文字だけじゃ読み取れない面白いスキルばかりだろう?」

「うん、見たことのないものばかり……って、呼吸系の効果が破格すぎるんだけど……」


 マリンでもそう思うか。そうだよね、だって彼女はただでさえ消費の激しいスタミナの回復を望んでる。

 そのために喫茶でこのドリンクを飲み続けてるんだ。

 彼女にしてみたら喉から手が出るほど欲しいんじゃないかな?

 でも同時に今のビルドを捨てられるかと言ったら無理だと思う。

 それこそ二度と手に入らない可能性もあるかもだし。


「私と同じ事をすれば取れるよ?」


 そういうと孫の目は急に座り出した。半眼、もといジト目というやつだ。呆れられているのかな? でも私はそこまで対した事をした覚えはないんだけどなぁ。


「お爺ちゃんは自分の行動を他の人が真似できると思ってるの?」

「全く同じじゃなくても、似通ったことぐらいならできるとは思ってるね。ただ、私はこのスキルビルド以外を全然知らないからなぁ。どれほど苦労するのか想像もつかないよ」

「だよね、だと思った。正直これはお爺ちゃんだから生えてきたモノだと思うの。ちょっと待ってね、考察班で纏めたブログがあるからそこからお爺ちゃんの持ってるスキルの他人視点での派生を写して送るから」

「なるほどね、情報共有はブログをスクリーンショットする事でも共有可能なのか。勉強になるなぁ。そうやってフレンドじゃなくても私のブログを見ることができたんだね?」

「前はURLを繋げれば見れたんだけどね? メンテ後はそれができなくなっちゃったみたいなの。でもこれはこれで便利だから結構使われてるテクニックだってユーノが言ってた」


 へぇ、たった一回のログインでそこまで検証できちゃう彼女は優秀だね。それを聞いてすぐ実行して自分のものにしてしまえるマリンも凄いよ。私はすぐにスタイルを変えられないから羨ましいな。

 これが若さか。


「送ったよー」

「ん、受け取った。どれどれ、むっこれは……」


 孫から受け取った情報群に、私は目を丸めることになる。


 ◎持久力UP

 持久力UP小

 持久力UP中

 持久力軽減


 ◎木登り補正

 足場確保

 命綱

 クライミング


 ◎水泳補正

 水中戦闘

 素潜り

 潜水


 ◎低酸素内活動

 ???

 ※未検証、価値の有用性がわからないため後回し


 ◎命中率UP

 命中力UP中

 命中力UP大

 クリティカル



「えーと……」


 言葉が続かない。まさか本当にこれは自分だから獲得できたスキル群なのだとこの検証班の情報によって知らされたからである。


「この水中戦闘というのは?」

「多分だけどお爺ちゃんが戦闘スキルを全く持ってなかったから生えなかったと思うの。普通の人はそこから武器によって補正が入るらしいよ」

「本当かい? まさか持ってるスキル構成でも派生先が決まるなんて……ちなみに検証班へ情報を提供する場合はどうしたら良いとか解るかい?」

「へ? お爺ちゃんはそれを守るためにボディガードを雇ったんじゃないの? おかあさんはそう言ってたよ?」

「いいや、あれはジキンさんが勝手にやった事で私はなにも関与してないよ。でもここまで他人と違うとなると、教えるのも難しいなと思ってね。だったら自分の身を守るためにも情報提供は吝かではない。実際に教えるとしても、他人のスキル構成まで知らないので私にはどうにもできないんだよ」

「そっかー。実は私のクラスメイトにもそこに所属してる子が居てね、しつこく追求されてそれをどう振り切ろうか迷ってたんだよね」

「そうだったのか。見えないところでマリンに迷惑をかけてたんだね。それは済まなかった」

「いいのいいの。私が好きでやってた事だもん。じゃあちょうど今ログインしてるみたいだし呼んじゃっていいかな?」

「うん。ついでにその子とフレンドになった方が早いかな?」

「えー、私はあまりお爺ちゃんのフレンド増えて欲しくないんだけど?」

「おいおい、信用がないね。私だって選ぶ権利はあるよ? でもね、ずっと追いかけ回されるのはお互いに疲れるだろう? だったら同じゲームで遊ぶ同士、歩み寄って協力をしていこうじゃないかと思ってる。もちろん、情報を渡すんだから同じくらいの価値を持つ情報は聞くけどね。それぐらいの譲歩はしてくれるんだよね?」

「多分、でもあの子は少し強引なところがあるし」

「大丈夫、パープルで慣れてるよ」

「それもそっか。おかあさんお爺ちゃんの前では本当に凄いもんね」


 おいおい、娘にまで言われてしまっているよ?

 母親の威厳を落としてしまったのは私の責任だけど、これは回復できるんだろうか?

 少しして、マリンのクラスメイトらしき少女がやってくる。


「おっまたせー、マリン! さっきのメールは本当? あたしダッシュでファイベリオンからかっ飛んで来ちゃったんだけど?」

「うん、本当だよ。紹介するね、この人が私のお爺ちゃん」

「お初にお目にかかります、アキカゼ・ハヤテです。いつも孫が迷惑をかけていると思うけど、これからもよろしくしてくれると嬉しいね」

「ほわーっ、これはこれはご丁寧にどうも。あたし、時雨シグレって言います。一応検証班のメンバーですけど、メインはジャーナリスト希望で───」


 一息にペラペラと繰り出されるマシンガントークに気圧されながら、まずは席に座るようにと促した。


「遠くの街からわざわざ御足労かけたね。まずは席に座って喉でも潤したらどうかね?」

「ゴチになりまーす。いやー、いい人だねマリンのお爺ちゃん」

「自分の飲み物くらい自分でお金出してよ?」


 私と向かう形で座ったマリンの横にシグレ君が腰掛ける。

 元気が服を着て歩いてるような存在に対して孫は必死に牽制しているが、私はそこまでケチじゃないんだけどなぁ。


「ドリンク代くらい私が出すよ。今回は私の申し出で来てもらったんだから」

「お爺ちゃんがそう言うなら」


 不満そうに口を尖らす孫に、参ったねと思う。

 すぐその横ではシグレ君は孫と同じドリンクを注文していた。

 性格こそ違うものの、スキルの方向性は結構似通っているのかもしれないね。

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