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第44話 真シークレットクエスト④

 階段を降りた先にあったのは何かのコントロールルームだった。

 そして鳴り響くワールドアナウンス。

 今までこんな事は体感したことがないので変に焦ってしまう。


[プレイヤー:アキカゼ・ハヤテによりファストリア真シークレットクエスト:古代からの伝言がクリアされました]


[ワールドストーリーが進行されました]


[ワールドストーリーにアクセスしています……]


[大型レイドイベント:破滅を呼び起こす災獣の存在を確認……]


[連続シークレットクエスト:分霊せし大魔の分身の封印を確認……]


[アーリークエスト:災獣ウロボロスの侵攻を確認……]


[ファストリア防衛システム起動、電磁バリアを展開します]



 流れる様な文字列と、自分の起こしてしまった今までのフラグに戸惑う。そして唐突に今まで静かだったコントロールルームに照明が灯る。


『ようこそ我らが子孫よ。君達の来訪を歓迎する』


 君達? やはり複数人でクリアする前提のクエストだったか。

 実際に私一人ではここまで来れなかったのも事実。


「ハヤテさん……」

「ええ」


 古代人からの問いかけを無視し続けるのも悪いと思い、私はパネルの前に置かれた席に腰を下ろした。

 背に状態を預けると不思議な浮遊感の後、頭に声が響いた。


[データスキャンを開始……登録者:アキカゼ・ハヤテ。システム実行の全権代理の申請……許可。続いて称号の獲得条件を申請……許可。おめでとう、アキカゼ・ハヤテは古代の代弁者の称号を獲得した。それに伴い古代語のインストールを開始する……]


 それは早口に捲し立て、私の反論を許さぬように勝手に受理された。

 まるで傲慢な上位者のように、我々人類に抗う術などないと言いたげだ。しかしもらえるのならもらっておこう。

 頭痛にも似た痛みが情報を飲み込むたびに発する。

 みやればLPがみるみる削れていっているではないか。

 私は慌てて娘から渡されたLP回復ポーションを飲み始めた。


 丁度二瓶開けたところで情報の流入は落ち着いた。

 続いて古代語で記されたメッセージが網膜内に日本語に変換されて写される。すかさずスクリーンショットでで写してスズキさんにメール受信。


「これは……あのストーリーの最後に関する部分でしょうか?」

「おそらくは」


[災獣ウロボロスの攻撃を確認、バリアのエネルギーが30%減少……0%になったらバリアは消滅し、この街に直接被害が起きます]


 それは絶対に回避しなければならない。


「何か対策はないのか?」

「古代のストーリーの解析が各フレンドから帰ってきました。そっちに情報を送ります」

「お願いするよ」


 スズキさんの言葉に我に帰り、古代文字を写したあとだんまりのスクリーンはブルーライトを発しながらまるで私の命令を待っているようにしている。

 命令も何もこちらには支持する知識も説明文もない。

 まるで引き継ぎ作業が完了してないのに明日からその仕事を任されるような気分に陥る。


 少しの葛藤を経て、スズキさんから送られてきたメールを読み込んだ。


「古代の光?」


 私の言葉に、その言葉を待っていたとばかりにブルーライトが明滅する。少しの画面の乱れのあと、私の前に映されたのは新しい古代語だった。


[対災獣兵器:古代の光]

 封印した災獣の分身をエネルギーに変換したのち、最大出力で照射する。その光はエネミーの強化装甲を剥ぎ取り、弱体化を促す。


 これだ!

 だがどうやって操作すればいい?

 それにコントロール方法も記されていない。


「ハヤテさん、僕も一緒に悩ませてください」


 一人で頭を抱えるすぐそばで、彼女の気遣いに触れる。

 そうだ、ここまで一緒に来た彼女を置いてけぼりにするなど私らしくもない。

 突然のことに自分一人で責任を負っていたが、そもそも自分はこういう責任を被りたくないから娘達に強い言葉を使ってきた。

 この世界で自由に生きるために。

 だからこそみんなの力でこれを利用してやればいい。


「お願いします、私一人では荷が勝ちすぎる」

「お任せください」


 そう微笑むスズキさんは魚人であることを忘れさせるほど魅力的に見えた。


 彼女との数分のやり取りで、結局ここはあくまでも情報を読み込むための施設であり、コントロールできる場所は別にあるのではという考えに至る。


「やっぱりそうなんですかねぇ?」

「そもそもここに僕たちは何をしにきたんでしたっけ?」

「ストーリーのかけらを探しにですね」

「全部見つかりましたよね?」

「……まぁ」

「じゃあ、もうここに用ないんじゃないですか?」


 そう言えば、と思い至る。

 物凄い情報量にパニックになっていたが、そう思い直せば確かに私がここにいる意味ってないような気がしてきた。

 言われなきゃこんなことにも気づけないあたり、自分はダメなやつだよなぁと気づく。

 思えば勤務中も一つのことに没入しやすかった。

 没入しすぎて周囲のことが疎かになってしまうのだ。


「ありがとうございます。思わず自分を見失うところでした。そうですよね、ここで正義感に囚われるなんて私らしくない」

「どういたしまして。ここでハヤテさんに正義感を出されてしまっても僕、困ってしまってたとこです」

「いやはや面目ない。ではあとは情報なんかを娘達に放り投げて……」

「僕たちは優雅に海中遊泳と洒落込みましょう……モンスターさえ襲ってこなければとっくにそうしていたはずなんですけど、なんでこんなことになってしまったのやら」


 スズキさんは呆れたように肩を竦めてため息をついていました。

 魚人なのに、なかなか様になってるのがまた愉快です。


「でも戦うスズキさんも格好良かったですよ?」

「やめてくださいよ、その気にさせるような台詞は。僕、勘違いしちゃいますから」

「そう言ったつもりは全くなかったんですが……私はスズキさんを友人として尊敬しています。そこで男女がどうこうとかは不問にしませんか? 私はもう若くないし、そういうのは疲れます。ここへはあくまでもリアルを忘れるために来ています。それでいいじゃないですか」

「そうですね、そういえばそうでした。僕ったらこういうところがダメだなぁ。旦那様に飽きられないようにしないと」

「苦労されるのはこれからですよ。私も妻を結構な頻度で振り回していましたから」

「ひええ、怖いこと言わないでくださいよ」


 そう言いながらもスズキさんは黄金宮殿を後にした。

 なんだかなぁと思いつつも先に行く彼女に背を追いかける。


 後のことは頼んだよと娘に特大の情報を載せたメールを送信した。

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