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第2話 孫と合流

 暗転した意識が覚醒した時、私の肉体は街の中にあった。

 道をゆく人々は多種多様で、それに倣って足元もただ踏み固めた土という斬新さ。歩くたびに土埃がたつが、それもまたここの流儀なのだろう。

 鳥獣人などは石畳の上では爪が痛んでしまうのだろうか?

 詳しい事はわからないが、往来の住民がその事を気にしているようには思わなかった。


 街の周囲には遠目に大きな壁が見える。それがぐるりと町全体を覆っていた。あれが外敵から身を守る壁なのだろうか?

 普段生活している限りではまずお目にかからない高さだ。高層ビル程ではないが、あれは一体何を警戒した高さなのかも判明していない。空を飛ぶ種族でもなかなかに届かない距離ではないだろうか?


 太陽が中天に登る時間帯であるからこそ、こうして日の光が町全体を覆っているが、傾けばその限りではないだろう。

 やがて意識はその壁の上に向けられる。登ってみたい。きっとそこからならこの街が一望できる景色が見える事だろう。

 しかしどうやってその場所に行くか。足掛かりは未だ掴めずにいる。


 物思いにふけっていると、頭の中で電子音がピコンと音を立てる。

 みやれば視界の先に赤いランプがチカチカと光っていた。

 確かこのゲームは網膜タイピング形式だったか?

 パソコンと言えば手打ちの時代の人間なので少しもたつきながらゲーム内システムのコールの欄を開く。

 そこには、


 [ミサキ:お爺ちゃんもうゲームにログインした?]


 孫娘の美咲からの個人コールだった。

 ゲームにログインしている最中でもこうしてリアルとのやりとりができるのは時代の変化と言うやつだろう。

 開いた時と同様に文字を打ち込んで送るが、これも時間がかかってしまう。今の時代の子はこれを巧みに操れるというのだから凄いものだよなぁ。


 [ユウジロウ:今チュートリアルを終えたところだ。街の中にいるよ]

 [ミサキ:ファストリア? じゃあ街の中心にある噴水前に集合!]


 ファストリアと言うのが今のこの場所を指すのかわからないが、道ゆく人に道を訪ねて目的の場所へと歩いていく。

 見た目こそ違うのに日本語が通じると言うのは不思議なものだ。

 日本から出たことがないから異国の人に対して必要以上に気を使ってしまう私にもみんな優しく接してくれた。いい街だな。

 そんな風に思っていると、こちらに向かって手を振る金髪ロングの少女が噴水の前で騒いでいた。その横には見慣れぬ格好の少女達もいる。


 彼女がゲーム内の孫娘だろうか?

 確認のためにも再度コールを鳴らす。


「ちょっと待って、お家からコール来ちゃった」


 案の定金髪ロングの少女は慌ててコールを受け取った。どうやらあの子が目的の孫娘の美咲であるようだ。随分とまあリアルより盛っている。

 何がとは言わないが、彼女の名誉のために私はそれ以上の言葉を慎んだ。


「こんにちわ、お嬢さん。いいお日柄ですね」

「え、あ、はい?」

「私の名はアキカゼ・ハヤテ。本日ここに来たばかりの新参なのですが見たところお嬢さんはこの世界に詳しそうだ。少し案内してもらえませんか?」

「えと、ごめんなさい。今日は人待ちをしてるので、ここから離れられないんです」

「そうでしたか、無理を言って申し訳ありませんでした」

「いえ、こちらこそ申し訳ありません」


 少し意地悪して素性を明かさず訪ねてみる。すると孫娘は少し困ったようにしながらペコリと頭を下げて人待ちをしていることを告げた。

 娘は過保護に育てていたので悪い男に引っかかってないか心配していたようだが、なんだ随分と礼儀正しい子じゃないか。

 ここでネタバラシをしながらお茶を誘う事にしよう。お互いの自己紹介もある。さっきから横でぽやっと見ているだけの少女のことも気にかかるしね。


「冗談だよミサキ。私だ」

「え?」

「君の祖父だと言えばわかるかな?」


 顔を赤くしながら瞳に涙を溜める孫娘の攻撃を受け止めながら、私達は最寄の茶店に入った。

 店内は吹き抜けのテラスでこの街の様々な人種が寛げるスペースが確立されている。中には種族に対応したテーブルや椅子があり、ドリンクや軽食も様々だ。匂いは独特だが、不思議と腹が減るのだから食欲は人の三代欲求の一つであることを思い出させる。


「ひどいよー、知ってて揶揄うなんて」

「ごめんごめん。由香里も君の事を心配していたからね」

「お母さんが? え、じゃああそこで私がホイホイついて行ってたら?」

「事細かく伝えるつもりだったよ。ゲームのログイン時間も減らされていたかもしれないね」

「横暴だー」


 喚く孫娘をあやしながら注文を取りに来たウェイトレスさんに注文を頼んでいく。

 私はまだこのゲームのことを色々わからないから、そのことを聞きながら今回は奢る事にした。

 孫に奢るのは祖父の楽しみの一つだ。娘からは甘やかしすぎないでくださいねと言われているが、孫にいいところを見せたがるのは老後の楽しみの一つなんだ。諦めてくれ。


「それで、お爺ちゃんはどんな風なビルドを組んだのー?」

「私かい?」

「うん」


 だらっとしながら美咲ここではマリンが食後のドリンクをストローで啜る。ビルドというのはスキルの組み合わせのことを指すのだろう。このゲームは基本的にスキルの組み合わせ次第で職業という概念が存在しない。

 基本骨子の三つ「アタック」「サポート」「パッシブ」の系統からいくつかを選択していくゲームである。

 どれか一つに特化してもいいし、まばらにとってもいい。非常に特色のあるスタイルだって求められるのだとか。

 ここら辺はチュートリアルで妖精ネコのミーから詳しく聞いていた。


 そんな中、孫娘は私のスタイルが気になったようだ。

 それというのも私が数十年ゲームに触れてなかった人間だからだろう。彼女なりの気遣いに触れ、すべてを語る事にした。

 別にこのスキル群で目立ちたいわけではない。ただ写真を撮るためだけの、それだけの基本骨子。


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【アキカゼ・ハヤテ】

LP:100%

SP:100%

ST:120%

EN:100%

<アタックスキル:0>

ーー

<サポートスキル:0>

ーー

<パッシブスキル:5>

【持久力UP:ST上限+20%】

【木登り補正:木登り中のST消費−10%】

【水泳補正:水中内の移動力+5】

【低酸素内活動:登山時ST消費−10%】

【命中率UP:命中、クリティカル+10%】

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「なにこれ? 全然戦えないじゃん」


 それが私のスタイルに対する孫娘の忌憚のない意見だった。


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