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第十八集:拒む

「その物語は事実かもしれないのだな」

 昼前、紅葉山荘こうようさんそうへ到着し、杏花シンファ達三人はすぐに如昴ルーマオ茜耀チィェンイャォと合流すると、歌劇で観たことを話した。

「不老不死の力というのが本当なら、穢された今はどんな力になっているのかしら」

「そもそも不老不死という力が強すぎるよね」

 茜耀チィェンイャォ菫鸞ジンランの意見はもっともだ。

「厄介だな。たしか歌劇では女子おなごの名は灰虹フゥイホン、だったか。通常、『虹』は雄の龍を示す。だが、両親が満足な教養を身に着ける環境になかったとすると、女子おなごに名付けてもおかしくはない。そう考えると、『ニー』は雌の龍……。偶然にしては出来過ぎている」

 如昴ルーマオの険しい表情と言葉が、みんなの思考に危機感をもたらす。

「それに、琬琰ワンイェンという名前も。指輪は『琰櫻えんおうの指輪』……。これも偶然じゃない気がする」

「私達を正解へ導きたいのかしら。それがどんな得になるというの? 指輪を持つ者にとって」

 茜耀チィェンイャォの声が耳にこだまする。

 杏花シンファは自分の右腕を掴み、自分の中で生まれる不安をどうにか抑えようとした。

 瑞雲ルイユン杏花シンファの右手に触れる。

「……これは」

 瑞雲ルイユンの目に、杏花シンファの右腕に杏花きょうか紋が浮かんでいるのが映った。

 それは杏花シンファから仙力せんりょくを受け取った時の梅園の腕に似ている。

「何でもないよ。万が一のために、練習しているだけだから」

 愛おしい人の目に、憂色が浮かぶ。

「これは私の為でもあるし、瑞雲ルイユン菫鸞ジンラン、みんなの為でもある。だから、もう少し自信がもてたら話す」

「……わかった」

 瑞雲ルイユンが切なげに微笑む。

(私の勘が叫んでいる。これじゃ足りない、と)

 杏花シンファ瑞雲ルイユンの手を握った。

「二人とも、どうしたの?」

 菫鸞ジンラン杏花シンファ瑞雲ルイユンの顔を覗き込む。

「あら、可愛い子がいる」

「誤魔化さないでよ。親友の表情なんて観察しなくても読める」

 菫鸞ジンランの真剣な眼差し。

「私の秘密の実験を瑞雲ルイユンが心配しているだけ」

「秘密の実験? 私も心配した方がいいこと?」

 大きく美しい瞳が杏花シンファを真っすぐ見つめる。

「大丈夫。どちらかと言えば、私が健康でいるための実験だから」

「ふうん。怪しいから心配することにする」

「困った子だなぁ」

「それは杏花シンファでしょう」

 菫鸞ジンランが困ったように笑う。

 その笑顔が切なくて、杏花シンファの胸を締め付けた。

 如昴ルーマオが「蒼蓮ツァンリィェン兄さんの準備が出来たみたいだ」と三人を呼ぶ。

「おやおや、可愛い弟妹達。密談か? お兄ちゃんにも教えなさい」

 蒼蓮ツァンリィェンがみんなを白龍に乗せるために声を掛けに来た。

 そして杏花シンファの右袖からのぞく腕に杏花きょうか紋を見つけ、「ちょっとだけ妹を借りるね。みんなは先に行ってて」と言った。

 全員がその場からいなくなったことを確認した蒼蓮ツァンリィェンは、杏花シンファの右腕を掴み、袖を捲った。

杏花シンファ。俺を頼る気はないのか」

 あの時と同じ表情。

 鬼幻きげん祭祀に参加することを告げた時の、兄の顔。

「その場所がどこであれ、二時間以内に呼べる自信がないから」

 妹の決意は固い。

「『守りたい人を守れるように強くあれ』。この言葉は、俺達家族には適用されないのか? お前だって守られる側なんだぞ」

「わかってる。お兄ちゃんが何をどうやったかは知らないけれど、私の命を救ってくれたでしょう? もう充分に守られているよ」

 杏花シンファの言葉に、蒼蓮ツァンリィェンはあの時の光景を思い出した。

「気付いていたのか」

仙力せんりょくを使い果たして、霊力に手を出した。そんな状態で私が生き延びられたのは、私の霊力調整が抜群に上手かったか、幸運か、お兄ちゃんが駆けつけてくれたからか。その中で一番現実的なのは、三番目。そうでしょう?」

 杏花シンファは兄の手を右腕から外し、微笑んだ。

「私は私を守る。約束する」

 蒼蓮ツァンリィェンは大きくため息をつくと、「二時間以内に呼べなくても、呼べ。わかったか?」と言い、妹の頭を撫でた。

「うん。必ずそうする」

「一応、信じておこう。ほら、行くぞ」

 兄に背中を押され、二人並んでみんなの元へと歩いて行く。

「白龍は力持ちだねぇ」

 菫鸞ジンランが巨大な白龍の背を撫でながら言った。

「白龍はみなさんを乗せることが大好きです。荷物を持つことも楽しいです」

 白龍も嬉しそうだ。

 杏花シンファ蒼蓮ツァンリィェンも乗り込み、レイ夫妻に見送られながら飛び立った。

 風の中を進む音が心地いい。

 雲の中を抜け、髪が濡れる。

 後ろでは菫鸞ジンランが「みんな髪結い直さなきゃ」と笑っている。

 並走しようと頑張る鳥たちの間を通り抜け、徐々に高度を落としていく。

「そろそろ着くぞー!」

 蒼蓮ツァンリィェンの声に、全員が白龍にしがみついた。

 急降下が始まる。

 眼下では欒山らんざんに集まっている法霊武門ほうれいぶもんの面々が「りゅ、龍だ!」と叫ぶ声が聞こえる。

 その数は想像していたよりも多く、中小法霊武門ほうれいぶもんの宗主達も集まっているようだ。

「はい、到着。みんなは先に降りて待ってて。俺は門下生達と荷物を降ろすから」

 杏花シンファ瑞雲ルイユン菫鸞ジンラン茜耀チィェンイャォ如昴ルーマオは地上目指して舞い降りていった。

「わあ! 来てくれてありがとう」

 若蓉ルォロン扶光フーグゥァンが駆け寄ってくる。

 若蓉ルォロンの髪には蝶舞の簪ちょうまいのかんざしが。

 扶光フーグゥァンの手に指輪は無い。

ニー氏のこれは……」

 杏花シンファは遥か頭上を見上げた。

 急峻きゅうしゅんな峰々に建てられたいくつものどう

 まるで山そのものが街のようだ。

「我らニー氏の城、というか……。ここが欒岩宮らんがんきゅう杏花シンファに見せることが出来て嬉しい。ただ……」

 元々は美しいのだろう。

 しかし、イン氏とフォン氏の報復攻撃を受けたせいで、ところどころに焦げ跡があり、瓦は剥がれ、半壊してしまっている建物もある。

 扶光フーグゥァンが寂しそうな目で建物を見つめ、言う。

「まだ山寺に居ても良かったのだけれど……。義兄上が生まれ育った場所だから、なるべく早く修復したくて声をかけたんだ」

「これは声をかけてくれてよかったよ」

 ニー氏に対し疑いは抱きつつも、目の前の可哀そうな建物の数々に同情を禁じ得ない。

 若者たちが「どこから手を付けようか」と話していると、蒼蓮ツァンリィェンが駆け寄ってきた。

「支援物資が降ろし終わったから俺は帰っちゃうけど、みんな寂しくない?」

「うん。また呼ぶね」

「え……」

 妹の心がこもっていない言葉に、蒼蓮ツァンリィェンは胸を押さえた。

「ちょっと杏花シンファったら。大丈夫ですよ、蒼蓮ツァンリィェン兄さん。私達みんな寂しいと思っているけれど、我慢しますから」

 菫鸞ジンランの可愛い笑顔に心の傷をいやした蒼蓮ツァンリィェンは、「またいつでも来るから!」と、泣き真似をしながら空へと舞い戻って行った。

 若蓉ルォロン扶光フーグゥァンは次々と届く支援物資を確認するため、一度荷降ろし場へと向かった。

「とりあえず、焼けてしまった柱を……」

 如昴ルーマオ法霊雅学ほうれいががく学友組に指示を出そうと周りを見渡し、顔を顰めて声を落とした。

「多くないか」

 四人は続々と集まってくる武門ぶもんの数を見て頷いた。

「多い。多すぎるよ」

「対七綾チーリン戦で法霊武林ほうれいぶりん軍に加勢してくれていた数よりもね」

ジン氏、レイ氏、シュェ氏、リン氏は、一つでも多くの武門ぶもんに力を貸してもらい、法霊武林ほうれいぶりん大秦国だいしんこくの危機を脱しようと努力をした。

「ここにいる武門ぶもんの半分は、兄上達の必死の説得を聞き入れなかったんだよ」

 菫鸞ジンランの瞳孔が大きく開く。

菫鸞ジンラン、抑えろ。お前が拳を握ると死人が出る」

 如昴ルーマオが「みんな、一旦落ち着こう」となだめた。

「今信じられるのはお互いだけだ。私は茜耀チィェンイャォと動く。三人も用心してくれ」

「わかった」

 杏花シンファが頷き、瑞雲ルイユン菫鸞ジンランも同意した。

 三人はまず砕けた瓦の撤去を手伝うことにした。

 屋根の上に積み重なり、一斉に雪崩れてきたら怪我どころでは済まない。

 杏花シンファは梅園を召喚し、「白梅は瑞雲ルイユン、紅梅は菫鸞ジンラン、青梅は私を手伝って」と指示を出した。

 三人は手際よく瓦を集め、それを布にくるんだ梅園が下へと運んでいく。

 その時、どこかの武門ぶもんの門下生が脆くなった欄干を踏み外し、落下していく。

 杏花シンファ仙力せんりょくの渦を起し、その門下生の身体の下へ滑らすと、ゆっくりと地面へ降ろしていった。

「怪我はないですか!」

「だ、大丈夫です! ありがとうございます!」

 何故か菫鸞ジンランが得意げな笑みを浮かべ、「さすが私の親友」と言った。

「どうもありがとう。焼けた屋根を腕力だけで剝がしている菫鸞ジンランも素敵だよ」

「でしょう?」

 砕けて駄目になってしまった瓦をはがしたところ、その下にある基礎部分まで破壊されているのを発見した菫鸞ジンランは、何の道具も使わず己の力だけでそれを撤去している。

瑞雲ルイユン、あれ出来る?」

「……無理だ」

「私も。一生無理。来世でも無理」

 杏花シンファ瑞雲ルイユンは大人しく道具を使い、屋根を剥がしていった。

「皆さん! 陽が落ちて来ましたので、本日はここまでにしましょう! 欒山らんざんの街に宿を用意しておりますので、ゆっくりと休んでください」

 扶光フーグゥァンがあちこちを飛び回りながら作業中の人々に声をかけた。

 雅学学友組が合流すると、若蓉ルォロンが近付いてきた。

「みんなもご苦労様。五人は同じ宿にしてあるからね」

 如昴ルーマオが代表して場所を聞き、さっそく向かうことに。

「短い時間だったけれど、結構疲れるね」

 杏花シンファがあくびをしながら言うと、茜耀チィェンイャォもつられてあくびをした。

「建物を支えている柱の修復が大変そうよね。リン氏の霊木があって本当に良かったと思うの」

 如昴ルーマオも頷き、「明日は全員でとりかかるか」と、提案した。

「そうしよう。菫鸞ジンランの剛腕を上手に使わないと」

「みんなが柱を取り換えている間、建物を持ち上げとけばいいんでしょう? 楽勝だよ」

 何が楽勝なのかわからなかったが、疲れて頭の回転が鈍くなっている四人はとりあえず頷いておいた。

 今日は移動と作業で相当体力を消耗した。

 五人は食事もとらず部屋へ入ると、布団へ倒れ込み、そのまま寝入った。

 翌早朝、湯浴みを終えた五人は、食堂へ集まり朝食をとりながら周囲の様子をうかがった。

「気付いた?」

 菫鸞ジンランの問いに、四人が頷いた。

「あそこらへんの武門ぶもん、結託しているよね」

 昨日、視線を感じ、屋根から観察していた杏花シンファ

「小さいのが十と、中規模なのが五つ。私達を見張っていたのが中規模の面々ね」

 茜耀チィェンイャォは冷たい視線を向けながら言った。

若蓉ルォロンを目で追っていたのは小規模武門ぶもんの人達。かんざしを奪うつもりなのかも」

 菫鸞ジンランが会話の内容を悟られないよう、笑顔を作る。

「彼らからすれば、一番邪魔なのは私達だ」

 如昴ルーマオ瑞雲ルイユンと頷き合った。

 朝食を終えた五人はさっそく欒岩宮らんがんきゅうへと飛んで行った。

「私達は向かって東にある建物の柱を担当します」

 如昴ルーマオが雅学学友組の作業予定を伝え、大勢がそれぞれの持ち場へ向かう。

菫鸞ジンラン、頼んだ」

 正直、手伝いを頼まれると思っていた四人は、菫鸞ジンランが建物を持ち上げるのを見て悟った。

 彼を手伝えると思うなど烏滸おこがましい、と。

「じゃあ、柱外すからね」

 杏花シンファ茜耀チィェンイャォが傷んだ柱を引き抜く。

 そこへ、素早く瑞雲ルイユン如昴ルーマオが霊木で作った柱を入れていく。

 杏花シンファは「私も仙力せんりょくを使えば建物くらい持ち上げられるかも」と試したが、びくともしなかった。

 順調に作業を進め、五棟目が終わった。

「ちょっと休憩しよう。さすがに腕が痺れちゃった」

 建物を五つ持ち上げて腕が痺れる程度なのか、と、四人は思ったが口にはしなかった。

「甘いものもらってくる」

 杏花シンファが下へ降りていくと、不穏な雰囲気を感じた。

「あの人達……」

 食堂で見た武門ぶもんの門下生二人が、周囲を窺いながら岩肌に沿って歩いて行く。

 杏花シンファは後を追った。

 暗がりを進む。

 男達の前方に、人影が見えた。

「ちょっと、何をしているんですか」

 男達に対して発せられた声に、その前方にいた者も一緒に振り返った。

杏花シンファ……?」

 若蓉ルォロンが目を見開いて男達と杏花シンファを見た。

若蓉ルォロン兄さん、行った方が良い」

 杏花シンファに言われ、若蓉ルォロンは従った。

「で? あなた達は若蓉ルォロン兄さんの後を付けて何がしたかったんですか?」

「な、べ、別に……」

「お前こそ、何者だ」

 男の言葉に、もう一人が答えた。

「ほら、杏花シンファっていう、あの蓬莱から来た邪術使いですよ」

「ああ、あの怪しげな術を使うとかいう……」

 男達が身構えた。

「ふん。法霊武林ほうれいぶりんに関係の無い奴が出しゃばるな」

「蓬莱人に用はないんだよ」

 男達の左腕に、霊力花れいりょくかが光る。

「それはないんじゃないの?」

 杏花シンファの背後から菫鸞ジンラン瑞雲ルイユンが現れ、二人は杏花シンファを守るように男達との間に立ちはだかった。

「あの戦で私達を救ってくれたのは誰? 法霊武林ほうれいぶりんを立て直すために尽力してくれたのは誰?」

 菫鸞ジンランの目が鋭くなる。

「恩に報いるのではなく、仇で返そうとするなんて。本当、良い度胸だね」

 男達は菫鸞ジンラン瑞雲ルイユンの刃のような視線から逃げるように立ち去った。

「二人とも、どうしてここに?」

「それは……」

 瑞雲ルイユン杏花シンファの手を握り、少しうつむいた。

「この子、『杏花シンファが帰ってこない』って言って手当たり次第探そうとしたから、私がここまで連れて来たの。甘味を配っている人に聞いたら、こっちに行ったって言うから」

 瑞雲ルイユンが頬を赤らめて「すまない」と呟いた。

「でも、正直私も心配だった。だって、杏花シンファの前に『若様も同じ方向に行きましたよ』って言われたから」

 菫鸞ジンラン杏花シンファ若蓉ルォロンを追って行ったのかと思い、慎重に行動するよう瑞雲ルイユンに言い聞かせてくれたようだ。

「私達で若蓉ルォロンに警告しよう。狙われているって」

「いいけど……」

 菫鸞ジンラン瑞雲ルイユンが顔を見合わせて困った表情を浮かべた。

「どうしたの?」

 杏花シンファが尋ねたその時、如昴ルーマオ茜耀チィェンイャォがやってきた。

「帰ってこないから心配したぞ」

「三人とも大丈夫?」

 杏花シンファは二人に何があったのか話した。

 そして、若蓉ルォロンに警告してあげたいと。

「ううん……」

 二人も瑞雲ルイユン菫鸞ジンランと同じような反応をした。

蝶舞の簪ちょうまいのかんざしを破壊するまでの間、若蓉ルォロンが危険なことに変わりはないでしょう?」

「それはそうだが……」

 如昴ルーマオが言葉を濁す。

 杏花シンファが「じゃあ、一人で言ってくる」と言うと、菫鸞ジンランが慌てて「私達も行く。その方が扶光フーグゥァンも納得するだろうから」と言って三人に目配せした。

 五人は若蓉ルォロン扶光フーグゥァンを探し、居室の瓦礫集めをしているところを見つけた。

若蓉ルォロン兄さん、扶光フーグゥァン兄さん」

「あ、杏花シンファ。どうしたの?」

 杏花シンファは駆け寄ってきた二人に、先ほどのことを伝えた。

「気を付けた方が良いと思う」

 若蓉ルォロン扶光フーグゥァンと見つめ合い、頷いてから杏花シンファに向き直った。

「大丈夫だよ。いざとなれば簪の力で霊力を……」

「使わない方が良い」

 瑞雲ルイユンが言った。

「相手が誰であれ。状況がどうであれ、もう使わない方が良い。それはもう神器ではなく、呪物だ」

 瑞雲ルイユン若蓉ルォロンの視線がぶつかる。

「でも、霊力を少し吸い取るだけなら、ただの自己防衛だし……」

「呪物を使い続ければ、いずれ代償を払うことになる」

 若蓉ルォロンの目に、また、瞋恚しんいが浮かぶ。

「高名なリン氏養花天の言うことは常に正しいってことかな?」

 扶光フーグゥァン若蓉ルォロンの肩を抱きしめ、冷笑しながら瑞雲ルイユンを見た。

「これはニー氏の問題だ。君達には関係ない。もちろん、他の武門ぶもん連中にもね」

 「さぁ、行こう義兄上」と、扶光フーグゥァン若蓉ルォロンを連れてその場から立ち去って行った。

「……あの二人も杏花シンファ瑞雲ルイユンの祝言に来るの?」

 菫鸞ジンランが瞳孔を開いたまま聞いた。

「うん。でも、もう来てくれるかわからないや」

 得体のしれない者の手によって、友人が零れ落ちていく。

 若蓉ルォロンの前で扶光フーグゥァンに、お前は何者だ、と聞けばよかったのだろうか。

 それとも若蓉ルォロンに、あなたはどの皇統の血筋なの? と尋ねればよかったのだろうか。

 どちらにせよ、今と結末は変わらない。

 四人は杏花シンファの悔しそうな顔を見て、言葉に出来ない悲しさを感じた。

 かける言葉も、見つからないほどに。


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