嵐が収まると、すぐに街の復興が始まる。
その船の引き上げ作業にも、異海人たちが力を貸してくれた。
島民だけでは、どれだけ時間がかかるかわからなかったし、本当にありがたかった。
「よーし、穴はしっかりと板で塞げ。使いもんにならなくなった船でも乾かして分解すりゃ、木材として使える。無駄にするなよ」
「オヤジ、
「そいつは助かるな。どの船もすっかり塗装が剥げちまってるし、いくらあっても足りねぇ」
引き上げられた船の修繕作業は船頭ギルドを中心に行われ、ブリッツさんやラルゴが忙しそうに駆け回っている。
ボクはギルド前の水路で作業をしながら、その会話を聞いていた。
「これが船というものか……すまないが、我々にも修理を手伝わせてもらえないだろうか」
その時、何人もの異海人たちが手伝いを申し出てくれる。
「おっ、いいぜ。仕事は山のようにある。さっそく解体作業を手伝ってくれ」
ブリッツさんはニヤリと笑うと、彼らを案内していく。
復興作業を通じて、島民たちも異海人とすっかり打ち解けているようで何よりだった。
「危ないから、水路の近くから離れてね! いくよー!」
次にボクはそう叫ぶと、海底の
先の高潮によって家々から流された家財道具は、その多くが水路や運河の底に沈んでしまっていた。
このままでは船を直したところで満足に航行できないので、島の物資輸送の要である運河と水路の再整備は、船の修復と並行して行っている。
「ナギサさん! 向こうの水路、あらかたきれいになりました!」
その時、海界人の青年がボクに声をかけてくる。
彼はアクロネシア王国の騎士ではないけれど、自ら進んで島の復興作業を手伝ってくれている。
「ありがとう! じゃあ、次は向こうの水路をお願いできる? あ、疲れたら休んでいいからね!」
「ありがとうございます! ナギサさんも、無理をしないでくださいね!」
彼はそう言うと、笑顔で別の水路へと向かっていく。
その力に差はあれど、異海人は基本海魔法が使える。本当に心強かった。
◇
午後からは貴族街へと向かう。
もちろん貴族街も高潮被害に遭い、一階部分は水没。それによって数多くの調度品や高級家具がダメになってしまった。
「マリアーナ、島民たちへの食料支援はどうなっている?」
「ご指示の通り、水に浸かっていないものを中心に、可能な限りの備蓄品を吐き出させています。繁華街の商店にも、同じ指示を出しております」
「お父様、食べ物があればいいという話ではありませんわ。この寒さを乗り切るための衣服や、温かい寝床も必要です」
そんな中、シンシアとモンテメディナ伯爵様は泥まみれになりながら、お屋敷そっちのけでマリアーナさんに復興の指示を出していた。
「あら、ナギサさん。こんなところで油を売っていて大丈夫なんですの?」
その責任感の強さに驚愕していると、ボクに気づいたシンシアが声をかけてくる。
「水路の復旧作業は全力で続けてるよ。こっちの水路はどう?」
「ルィンヴェル様とアレッタちゃんが作業してくださっていますわ。おかげで、この辺りの水路はかなり綺麗になりましたのよ」
シンシアが水路に視線を送ると同時に、ルィンヴェルとアレッタが水中から姿を現した。
「あれ、ナギサも来てたんだ」
「うん。ルィンヴェルもアレッタもお疲れさま。大変だったよね」
「いいえ! まるで宝探しみたいで、楽しかったです!」
二人に労いの言葉をかけるも、アレッタは手に持った袋を広げてくる。中には色とりどりの宝石が入っていた。
「……もしかしてこれ、水路の底で拾ったの?」
「はい! どこかのお屋敷から流れ出てしまったものだと思います。落とし主にお返ししたいのですが、名前が書いていなくて」
「それならば、しばらくこちらで預かろう。持ち主が現れなければ競売にかけ、復興資金の足しにするというのはどうだろうか」
残念顔をするアレッタに、伯爵様がそんな提案をする。
「それはいい考えだね。アレッタ、お渡しして」
「はい! よろしくお願いします!」
それに納得したのか、アレッタは持っていた袋を伯爵様に手渡した。
中には思い出の品もあるだろうし、一つでも多く持ち主のもとに戻るといいな。
「ナギサ、貴族街の水路なんだけど、明日には小型船くらいなら走らせられると思うよ」
「そうなんだ。ルィンヴェルたち、さすがだね」
「僕たちの力うんぬんじゃなく、貴族街の水路は平民街に比べて瓦礫が少なかったんだ。復旧作業が早いのも、そのためだよ」
「……貴族街の建物は平民街のそれに比べて頑丈だ。家具も重い物が多く、流出被害も少なかったのだろう」
ルィンヴェルが首をかしげていると、伯爵様がそう教えてくれる。
なるほど。拾うものが少なければ、それだけ復旧も早いわけだし。
「お父様の要請を受けて、明日には近くの島の人々が救援に来てくれることになっていますわ。使われていないお屋敷を開放して、避難所も開設されますのよ」
続けて、シンシアが嬉々として言う。
ボクのおばあちゃんもしばらくそこでお世話になりそうだし、本当にありがたい話だった。
「ありがとう。シンシアたちがいてくれて、本当に助かるよ」
「……普段偉ぶっているぶん、こういう時にこそ働きませんと」
「そういうことだ。ナギサ君も、困っていることがあったら何でも言ってくれ」
ボクがお礼を言うと、二人は顔を見合わせて微笑む。
その姿に、ボクは無類の頼もしさを感じたのだった。
◇
それからボクはルィンヴェル兄妹と三人で運河を南下し、ベルジュ商店へと向かう。
「中央運河もかなりきれいになったと思うけど、まだ船は走れないのかい?」
「うん。潜ってみるとわかるけど、まだまだ瓦礫が沈んでるんだ。それを全部回収しないと、大きな船は走らせることができないよ」
海上を駆け抜けながら、ボクはそんな言葉を返す。
海魔法使いであるボクたちは問題なく移動できるけど、大きな船が安全に通れるようになるのは、まだまだ先の話だろう。
そんなことを考えながら運河を進んでいると、やがてベルジュ商店が見えてきた。
「イソラー! 手伝いに来たよ!」
「あ、ナギサ、ありがとう!」
お店の前に泥だらけの荷物を運び出しているイソラに声をかけると、彼女は安堵の笑みを返してくれる。
その近くにはロイもいて、大量の紙束を必死に運んでいた。
……ちなみにロイの家は島でも比較的高台にあるということもあって、そこまで被害を受けていない。
実家は母親のステラさんに任せて、ロイはベルジュ商店の片付けに駆り出されたらしい。
裏を返せば、それだけベルジュ商店の被害が大きいということになる。
ナッシュさんいわく、救援物資の発注はなんとか行えたそうだけど……一階の店舗スペースと倉庫はひどい有様で、家族総出で片付けに追われている。
本格的な営業再開には、まだまだ時間がかかりそうだった。