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第17話『ナギサの秘密』


「ナギサ、無事かい!?」


 駆けつけてくれたルィンヴェルは、その力強い腕でボクとおばあちゃんを家から助け出してくれた。


 その直後、おばあちゃんの家は大きく傾き、濁流の中へと沈んでいった。


「お兄様、こちらです!」


 呆然とその様子を見つめていると、アレッタの声がした。

その声に反応するように、ルィンヴェルはボクらを近くの建物の屋根まで運んでくれる。


 安全な場所で一息ついたところで、ボクの意識もしっかりしてきた。おそるおそる後頭部に触れてみるも、頭の怪我はたいした事なさそうだ。


「ルィンヴェル……助けてくれて、ありがとう」


「間に合ってよかったよ。それにほら、見て」


 ルィンヴェルは微笑んだあと、周囲を指し示した。ボクは暗がりの中、目を凝らす。


「大丈夫ですか! 助けに来ました!」


「皆さん、こちらへ!」


 すると、水の中から無数の人影が飛び出してくるのが見えた。


 白いサンゴの鎧を身にまとったあの姿は、アクロネシア王国の兵士たちに間違いなかった。


異海人いかいじんたちだ……ルィンヴェル、本当に助けを呼んできてくれたんだね」


「もちろん、約束は守ったよ」


「勇敢な騎士たちよ。その全力をもって、地上の人々を助けるのだ!」


 その時、吹きすさぶ風の中、凛とした声が響く。


 見ると、波間にヴェルテリオス王の姿があった。見事な装飾が施されたイルカに乗っている。


「すごい……王様まで来てくれるなんて。ルィンヴェル、本当にありがとう」


「お礼を言うなら、アレッタに言うべきだよ。この子が機転を利かしてくれなかったら、この救援は実現しなかったんだ」


「そうなんだね……アレッタ、ありがとう」


「いえ! お二人のためでしたら、アレッタはどんなことでもいたします!」


 胸を撫で下ろしながらアレッタにお礼を言うと、満面の笑みを返された。


 あれだけたくさんの異海人たちが助けに来てくれたのなら、多くの人が救われるだろう。


「それじゃ、僕たちも救助活動に参加してくる。アレッタ、行くよ」


「はい!」


「あ、ボクも行くよ!」


「ダメだよ。ナギサはここで、おばあさんを守ってあげるんだ」


 立ち上がったボクを、ルィンヴェルはそう静止する。それから安心させるように、優しく抱きしめてくれた。


「安心して。僕にはこのお守りがあるから、必ず戻ってくるよ」


 そう言って、彼は首から下げたイルカのアクセサリーを見せてくれた。


 それを見たボクが驚嘆しているうちに、ルィンヴェルはアレッタとともに、再び荒れ狂う水の中へと飛び込んでいった。


「……ナギサ、あの二人は誰なんだい?」


 屋根の上で立ち尽くしていると、おばあちゃんがそう訊いてきた。


「あの二人は、ボクの大切な人たちで……異海人なんだ。今、街の人たちを助けてくれてるのも、みんなそう」


 言葉を選びながら、そう説明する。


「ははぁ。前に言っていた、ナギサが恋した男の子というのは、あの子だね」


「じ、実はそうなんだ。彼は海の底にある国の王子様でね。色々あって、お付き合いすることになったの」


 おばあちゃんに言われ、ボクは頷く。


 本当はこんな形じゃなくて、きちんと伝えたかったんだけど。


「おばあちゃん、驚いた?」


「そりゃあねぇ。はぁ、これも運命かねぇ」


「運命?」


 ボクが尋ねると、おばあちゃんは目をつぶって、何かを考えるような仕草をする。


「ナギサ、今から話すこと、驚かないでよくお聞きよ」


 しばしの間があって、おばあちゃんは静かに口を開いた。


「……ナギサ、あんたの父親はね、異海人なんだよ」


「え?」


 続いた言葉に、ボクは耳を疑う。


「つまり、あんたは異海人と人間の混血なのさ。ずっと黙っていたんだけどね」


 いつものように優しい表情で、だけど、真剣な瞳で、おばあちゃんは言う。


「……そうだったんだ」


「今まで、黙っていてごめんね」


「ううん。なんか、薄々そうじゃないかって思ってた」


 正直にそう口にして、ボクはおばあちゃんに笑顔を向ける。


 今になって思えば、誘拐されそうになったアレッタを助けた時……海の中を呼吸もせずに高速で移動できたのは海魔法の力じゃなく、異海人の血が関係していたのだろう。


 アレッタと念話ができるのだって、ボクに異海人の血が流れているのなら説明がつく。


「ナギサの海魔法も、本来は異海人特有のものなんだ。父親から力を引き継いたんだろうね」


 おばあちゃんは続けて言う。


 マールさんと初めて出会った時、地上人で海魔法が使えるのは珍しいと言われた。ボクの海魔法は、お父さんの力だったんだ。


「そんなナギサが、あの異海人の子に惹かれた。これを運命と言わずして、なんと言うんだい」


 おばあちゃんは終始笑顔で、ボクの肩を抱きながら諭すように言う。


 その優しさに、ボクは涙が零れそうになるのを必死に堪え、何度も頷いたのだった。


 ◇


 ……朝日が昇る頃になって、ようやく嵐は過ぎ去った。


 雲の合間から姿を見せた太陽を、その場の誰もが安堵の表情で見上げている。


 そこには異海人も人間も、平民や貴族も関係なくて。


 ただただ純粋に抱き合い、喜びを噛みしめていた。



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