「ナギサ、無事かい!?」
駆けつけてくれたルィンヴェルは、その力強い腕でボクとおばあちゃんを家から助け出してくれた。
その直後、おばあちゃんの家は大きく傾き、濁流の中へと沈んでいった。
「お兄様、こちらです!」
呆然とその様子を見つめていると、アレッタの声がした。
その声に反応するように、ルィンヴェルはボクらを近くの建物の屋根まで運んでくれる。
安全な場所で一息ついたところで、ボクの意識もしっかりしてきた。おそるおそる後頭部に触れてみるも、頭の怪我はたいした事なさそうだ。
「ルィンヴェル……助けてくれて、ありがとう」
「間に合ってよかったよ。それにほら、見て」
ルィンヴェルは微笑んだあと、周囲を指し示した。ボクは暗がりの中、目を凝らす。
「大丈夫ですか! 助けに来ました!」
「皆さん、こちらへ!」
すると、水の中から無数の人影が飛び出してくるのが見えた。
白いサンゴの鎧を身にまとったあの姿は、アクロネシア王国の兵士たちに間違いなかった。
「
「もちろん、約束は守ったよ」
「勇敢な騎士たちよ。その全力をもって、地上の人々を助けるのだ!」
その時、吹きすさぶ風の中、凛とした声が響く。
見ると、波間にヴェルテリオス王の姿があった。見事な装飾が施されたイルカに乗っている。
「すごい……王様まで来てくれるなんて。ルィンヴェル、本当にありがとう」
「お礼を言うなら、アレッタに言うべきだよ。この子が機転を利かしてくれなかったら、この救援は実現しなかったんだ」
「そうなんだね……アレッタ、ありがとう」
「いえ! お二人のためでしたら、アレッタはどんなことでもいたします!」
胸を撫で下ろしながらアレッタにお礼を言うと、満面の笑みを返された。
あれだけたくさんの異海人たちが助けに来てくれたのなら、多くの人が救われるだろう。
「それじゃ、僕たちも救助活動に参加してくる。アレッタ、行くよ」
「はい!」
「あ、ボクも行くよ!」
「ダメだよ。ナギサはここで、おばあさんを守ってあげるんだ」
立ち上がったボクを、ルィンヴェルはそう静止する。それから安心させるように、優しく抱きしめてくれた。
「安心して。僕にはこのお守りがあるから、必ず戻ってくるよ」
そう言って、彼は首から下げたイルカのアクセサリーを見せてくれた。
それを見たボクが驚嘆しているうちに、ルィンヴェルはアレッタとともに、再び荒れ狂う水の中へと飛び込んでいった。
「……ナギサ、あの二人は誰なんだい?」
屋根の上で立ち尽くしていると、おばあちゃんがそう訊いてきた。
「あの二人は、ボクの大切な人たちで……異海人なんだ。今、街の人たちを助けてくれてるのも、みんなそう」
言葉を選びながら、そう説明する。
「ははぁ。前に言っていた、ナギサが恋した男の子というのは、あの子だね」
「じ、実はそうなんだ。彼は海の底にある国の王子様でね。色々あって、お付き合いすることになったの」
おばあちゃんに言われ、ボクは頷く。
本当はこんな形じゃなくて、きちんと伝えたかったんだけど。
「おばあちゃん、驚いた?」
「そりゃあねぇ。はぁ、これも運命かねぇ」
「運命?」
ボクが尋ねると、おばあちゃんは目をつぶって、何かを考えるような仕草をする。
「ナギサ、今から話すこと、驚かないでよくお聞きよ」
しばしの間があって、おばあちゃんは静かに口を開いた。
「……ナギサ、あんたの父親はね、異海人なんだよ」
「え?」
続いた言葉に、ボクは耳を疑う。
「つまり、あんたは異海人と人間の混血なのさ。ずっと黙っていたんだけどね」
いつものように優しい表情で、だけど、真剣な瞳で、おばあちゃんは言う。
「……そうだったんだ」
「今まで、黙っていてごめんね」
「ううん。なんか、薄々そうじゃないかって思ってた」
正直にそう口にして、ボクはおばあちゃんに笑顔を向ける。
今になって思えば、誘拐されそうになったアレッタを助けた時……海の中を呼吸もせずに高速で移動できたのは海魔法の力じゃなく、異海人の血が関係していたのだろう。
アレッタと念話ができるのだって、ボクに異海人の血が流れているのなら説明がつく。
「ナギサの海魔法も、本来は異海人特有のものなんだ。父親から力を引き継いたんだろうね」
おばあちゃんは続けて言う。
マールさんと初めて出会った時、地上人で海魔法が使えるのは珍しいと言われた。ボクの海魔法は、お父さんの力だったんだ。
「そんなナギサが、あの異海人の子に惹かれた。これを運命と言わずして、なんと言うんだい」
おばあちゃんは終始笑顔で、ボクの肩を抱きながら諭すように言う。
その優しさに、ボクは涙が零れそうになるのを必死に堪え、何度も頷いたのだった。
◇
……朝日が昇る頃になって、ようやく嵐は過ぎ去った。
雲の合間から姿を見せた太陽を、その場の誰もが安堵の表情で見上げている。
そこには異海人も人間も、平民や貴族も関係なくて。
ただただ純粋に抱き合い、喜びを噛みしめていた。