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第2話『謎の声と、見つけた少女』


 そんな出来事から数日が経ち、ボクは今日も仕事をこなしていた。


「依頼をお受けいただき、ありがとうございます。ナギサさんに、神のご加護がありますように」


「あ、ありがとうございますー。それじゃあ、いってきまーす」


 荷物を運ぶぐらいで大袈裟だなぁ……なんて思いつつ、ボクは水上教会をあとにする。


 その日はなんと、牧師さんから依頼があったんだ。


 配達先は島の貴族街で、水上教会との位置関係から、運河を通らず島の西側に沿って北上するルートを選ぶ。


 荷物の中身は特注のロザリオだって言ってたけど、牧師さんってそういう細工も作るのかな。


「やあ、ナギサちゃん!」


 そんな疑問を思い浮かべつつ浜辺沿いの海を走っていると、ミックスフライ屋のお兄さんが声をかけてくる。


「仕事の合間にどうだい? 秋の新作だよ!」


 そう言って手を振る彼の隣には看板が立っていて、『カナーレ島名物ミックスフライ!貴重な白トリュフパウダーと天日塩で味付け!』と書かれていた。


「おいしそうだね! 今配達の途中だから、帰りに寄らせてもらうよ!」


 もう白トリュフが採れる時期になったのかぁ……なんて考えつつ、大きな声で返事をする。


 新しいの、揚げとくよー! なんて嬉しい声を背に、ボクは貴族街へ向けてひた走ったのだった。


 ……やがてたどり着いた貴族街の一角。ノークロック家のお屋敷の前で、荷物を執事さんに手渡す。


「……ふむ。確かにお預かりいたしました。ナギサ様、今後ともご贔屓ひいきに」


「こ、こちらこそー。ご利用ありがとうございましたー」


 深々と頭を下げる執事さんに、ボクも何度もお辞儀をする。


 海上パレードの時にシンシアが大々的に宣伝してくれたおかげで、最近は貴族様からの依頼も増えていて、それ自体は喜ばしいことなんだけど……毎回緊張しちゃうんだよね。


 なんともいえない脱力感に襲われながらお屋敷をあとにし、ボクは水路へと飛び降りる。


 ここから一旦北上して海に出て、西回りで舟屋に帰ることにしよう。


 配達料金も多めにもらえちゃったし、お昼ごはんにミックスフライを買って帰ってもいいよね。


 秋の新作、気になるなぁ……キノコもカボチャもおいしい季節になったし。


 そんなことを考えながら海上を走ることしばし。いつしか島西部に広がる岩礁地帯に差し掛かった。


 もちろん、これまでさんざん通り慣れた道だし。岩にぶつかるなんてヘマはしない。


 まるで踊るように岩を飛び越え、先に進んでいく。


 ――うう、誰か助けてください……。


 ……その時、頭の中に声が響いた。


「え?」


 思わず立ち止まって周囲を見渡すも、それらしい姿はない。聞き間違えかな。


「うーん? なんか、ずっと前もこんなことがあったような……あの時は確か、マールさんの声で……ルィンヴェルを助けたんだっけ」


 初夏の出来事を思い出しつつ、速度を落として岩礁地帯を進む。


 ――誰か助けてください……。


 すると、再び頭の中に声が響いた。聞き間違えじゃない。


「ねぇ、どこにいるの!?」


 次の瞬間、ボクは叫ぶ。ややあって、同じような弱々しい声が頭の中に響いた。どうやら女の人みたいだ。


 その声を頼りに、ボクは岩礁地帯の中をくまなく探す。


 この辺りは大小さまざまな岩が不規則に海面に出ているので、死角になっている場所も多い。どこにいるのかな。


「――いた!」


 しばらくして、海面に突き出た岩の上に横たわる女の子を見つけた。


「ちょっとキミ、大丈夫!?」


 急いで駆け寄って声をかけるも、少女からの反応はなかった。


「ど、どどどどうしよう。息はしているみたいだけど、船が沈没して流れ着いたのかな。それより、お医者さんに連れて行ってあげないと……!」


 頭とか打ってるかもしれないし……なんて考えながら、ボクは少女の周囲を右往左往。怪我をしていないかどうか、顔を近づけてその子の体をくまなく見てみる。


 すると、少女の肩にうろこのようなものを発見した。


「……あれ? この子ってもしかして……異海人いかいじん?」


 そう気づいたボクは海魔法を発動。少女を海水で包みこんでみる。


 水の膜に包まれた彼女をおそるおそる観察していると、海水の中でも普通に息をしているように見える。以前のルィンヴェルと同じだ。


 ……それなら、このまま舟屋に連れて行って休ませてあげるべきかな。


 少し冷静になったボクはそう決めると、海水に包んだままの少女を慎重に自宅の舟屋まで運んだのだった。



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