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第37話『シンシア救出作戦! その②』


 気がつくと、ボクは薄暗い部屋に倒れていた。


 じんじんと痛む頭をさすりながら体を起こすと、目の前には頑丈そうな鉄格子。


 そこでようやく意識がはっきりしてきて、それまでの経緯を思い出す。


「……ボク、捕まっちゃったんだ」


 鉄格子の向こうに人がいないことを確認して、立ち上がる。


 縛られてこそいないけど、この鉄格子は素手でなんとかできるものじゃない。


 ボクの海魔法は海水がないと使えないし、どこかに海水がないかな。


 そう考えながら室内を見渡すと、壁際に丸窓を見つけた。


 張り付くようにして外を見るも、真っ暗な海が見えるだけだった。


「さすがに、ここから出るのは無理だよね……」


 本当に小さな丸窓で、腕ぐらいしか通りそうにない。


「海にも……届かないか」


 思いっきり手を差し入れてみるも、外壁に触れるだけで海には届かなかった。


「うぅ……シンシアを助けに来たはずが、逆に捕まっちゃうなんて……」


 ボクは吐き出すように言って、その場に力なく座り込む。


「……その声、ナギサさんですか?」


「へっ?」


 その時、壁の向こうから声が聞こえた。


「もしかして……シンシア、隣にいるの?」


「は、はい。そうですわ」


 思わず壁に密着して声をかけると、どこか安堵したような声が返ってきた。


 彼女が無事でいたことに、ボクは胸を撫で下ろす。


「ナギサさん、どうしてここに?」


「シンシアを助けに来たんだよ。逆に捕まっちゃったけど……」


 彼女の問いかけに声を弾ませるも、しりすぼみになってしまう。現状では脱出手段がないのは明白だし、虚勢でしかない。


「と、ところでシンシアって、モンテメディナ伯爵様の娘さんだったんだね。ボク、知らなかったよ」


 現実逃避というわけではないけれど、ボクはそんな話題を振ってみる。


「あら、魔法学園の入学式の時にお伝えしましたわよ?」


「そ、そうだったっけ?」


「そうですわ。覚えておいてくださいませ」


 壁の向こうから、半分すねたような声が飛んでくる。すっかり忘れてたよ。


「そうだ。魔法学園に通ってたってことは、シンシアも魔法が使えたはずだよね? それで海賊たちの手から逃れられなかったの?」


「それが……わたくしは生まれつき魔力が少なくて。家宝のブローチで魔力を増幅しないといけませんの」


「そ、そうだったんだ……」


 学生時代、やけに豪華なブローチを身に着けてるなぁとは思っていたけど、あれって魔力増幅装置だったんだ。


「そのブローチは? 取られたの?」


「いえ、島にいる間は必要ないと思って、自室のドレッサーの引き出しに……」


「うわぁ……」


 ボクは思わず頭を抱える。こういう時に身を守るための魔法だと思うんだけどなぁ。


「そ、それより、お父様がナギサさんの活動を応援しているという話は、ちょくちょく聞いておりましたわ。今回も、お父様に頼まれて助けに来てくださったんでしょう?」


「それもあるけど……ボクは、シンシアが友達だから助けに来たんだよ!」


 続いたシンシアの言葉にボクは声を大きくするも、壁の向こうからは沈黙が返ってきた。


「……ありがとうございます。けれど、わたくしは友達と呼んでもらえる資格はありませんわ」


「どういうこと?」


 やがて返ってきた言葉は、憂いを帯びていた。


「わたくしは自分のプライドを守るために、ナギサさんを退学に追い込んだんですよ? 学園でのあの事故、覚えておいででしょう?」


「もちろん、覚えてるけど……」


 シンシアの言葉を受けて、ボクは魔法学園での出来事を思い返す。


 事故があったあの日、ボクはシンシアと同じ班になって、様々な液体を使った魔法の実験をしていた。


 そして海水と同じ成分に調合した液体にシンシアが魔法をかけた時、属性反発による魔力暴走が発生。実験棟を半壊させるほどの爆発が起こってしまったんだ。


 それから先生が責任を追求してくると、シンシアはボクがやったと嘘をついた。


 他にも見ていた学生がいたはずだけど、貴族というシンシアの身分もあって、誰も本当のことを言えず。結果、ボクは全責任を負わされて、退学処分となってしまったのだ。


「……本当に、ごめんなさい」


 シンシアは震える声で謝罪を口にする。


 この状況だし、彼女も遺恨を残したくないという思いがあったのだろうけど……ボクの中に怒りの感情は一切湧いてこなかった。


「いいよ。許してあげる。貴族様も世間体とかあって、色々大変だったんだろうし」


 そう伝えると、壁の向こうからかすかに鼻をすする音がした。


「それにさ、島に帰ってきたことで、ボクは学園の勉強より大事なことを学べたんだ」


「そ、そうなんですの?」


「うん。たくさんの人がボクを必要としてくれるし、それに応えることで、身も心も満たされて……すごく充実した日々を送っている。そんな気がするんだ」


「素敵な体験をされたのですね」


「……シンシアも、ボクを必要としてくれている一人に入ってるんだよ?」


「え? わたくしもですか?」


「もちろん。だから、何がなんでもここから脱出しよう。島の皆に、ボクたちの元気な姿を見せてあげなくちゃ」


「……ほう。早くも脱出計画を練っているとは、威勢の良いネズミだ」


 ボクが立ち上がって握りこぶしを作るのと時を同じくして、立派なあごひげを蓄えた男性が明かりを手に部屋に入ってきた。


 彼は漆黒の衣装を身にまとい、頭のキャプテンハットには立派な羽飾りまでついていた。


「……誰?」


「キャプテン・イグロース。この船の船長ですわ」


 思わず尋ねると、本人の代わりにシンシアがそう教えてくれた。



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