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悩める王太子の癒し係~貧しさゆえに身売りをしたら、お忍びの王子様に買われました。
七瀬 みお
異世界恋愛ロマファン
2024年09月20日
公開日
51,607文字
連載中

【月曜・木曜 00:03am更新予定、原稿モード推奨】

一夜の身売りから始まった恋は、あの日の約束に勝てますか?


••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••


町娘のレティアは、
幼い日に結婚を誓った初恋の記憶を大切にしている。
貧しさ故に一夜の身売りをするが
美しい青年にその身を買われて……?!

青年への想いと初恋の記憶の狭間でレティアの心が揺れ動く。

レティアが追われる理由、真の黒幕。
そして彼女自身も知らなかった「秘密」。

オルゴールが繋ぐ、身分違いの恋の結末とは……。


••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••


ネオページ様オンリー。
時代背景などはご都合主義です。
細かいところはご容赦ください。


Prologue*



 黄金色きんいろの光──

 陽光を背負ったあのひとをはじめて見たときそう思った。


 私はまだ幼い少女だった。

 背高いあのひとは私の前にひざまづき、指先にそっとキスをして……穏やかに微笑んでこう言った。


『私の妻になってもらえませんか』


 淡く霞む記憶のなかで、けれどこれだけははっきりしている。

 翼のような睫毛に縁取られたあおい瞳は宝石が嵌め込まれたように美しかった。

 幼心をくすぐる甘やかな声にうちのめされて、気付けば訳もわからぬままにうなずいていた。


 これはほんとうにだろうか。

 それとも幼い日に見た、おぼろな夢……?


 今、この時に思い出してしまったのは何故だろう。

 私を抱こうとしている青年の瞳が、あの人と同じ蒼色あおいろだから?


 あの日の大切な記憶を、心のかてを……

 私は自分の手でけがそうとしている。



 * * *



 青年は重そうなマントを肩から剥ぎ取ってスツールの背もたれに掛けると、見られているのをものともせずに着衣を脱いでいく。

 薄いシャツの下には端正な顔立ちからは想像できないほどたくましい背中があって、初めて見た大人の男の裸体にレティアの鼓動が落ち着きをなくして狼狽えはじめた。


「何をしている?」


 レティアが動けないでいると、少し呆れたような表情かおをして歩み寄った青年が目の前に立つ。まるで壁のように大きな影が、威圧的にレティアにのしかかった。

 伸びてきた指先に顎を持ち上げられ、射抜くようなあおい瞳にレティアの視界がとらわれる。


「私は君の身体を買ったのだ。それがどういうことか、わかっているだろう?」


 燭台の灯火を映した青年の虹彩が炎のいろを宿して揺らめいている。自分のもこんなふうに揺れているのだろうかと、ふと思った。


 この美しい青年から見れば、自分はいったいどんな女に映るのだろう。


 ──初めて仕事をしようとしている、惨めな《売春婦》……。


 途端に恥ずかしくなって強引に顔を背けた。どこを見ていいのかわからず、視線を泳がせる。


「これは契約だ」


 突然に両脚が宙に浮いたので「あっ」と声をあげれば、真上に青年の顔があって、抱え上げられたのだとわかった。

 そのまま寝台に運ばれて簡素なマットレスの上に降ろされると、頭の上に手が置かれ、もう片方の手は耳元に添えられる。


「は……」と熱い吐息が耳にかかるのを感じて肩が跳ねた。

 レティアの身体に覆い被さる青年の顔は、息遣いがわかるほどに近い。鼻腔をくすぐる清らかながらもどこか甘美な香りは青年の色香だろうか。


 ──ああ……これから抱かれるのだ、この人に。


 ほぼ同時に柔らかなものが首筋に触れる。

 ぞくりと震えた背中がもたらしたのはこれまで経験したことのない奇妙な感覚……身体は冷え切っているはずなのに、腹の奥にじわりと熱が灯る。


『君が大人になったら迎えに行く。それまで待っていて。』


 目頭に熱いものがあふれた。

 辛くなったとき、何度もレティアを支えたこの声を、今だけは聴きたくなかった。




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