陽光を背負ったあのひとをはじめて見たときそう思った。
私はまだ幼い少女だった。
背高いあのひとは私の前に
『私の妻になってもらえませんか』
淡く霞む記憶のなかで、けれどこれだけははっきりしている。
翼のような睫毛に縁取られた
幼心をくすぐる甘やかな声にうちのめされて、気付けば訳もわからぬままにうなずいていた。
これはほんとうに
それとも幼い日に見た、
今、この時に思い出してしまったのは何故だろう。
私を抱こうとしている青年の瞳が、あの人と同じ
あの日の大切な記憶を、心の
私は自分の手で
* * *
青年は重そうなマントを肩から剥ぎ取ってスツールの背もたれに掛けると、見られているのをものともせずに着衣を脱いでいく。
薄いシャツの下には端正な顔立ちからは想像できないほど
「何をしている?」
レティアが動けないでいると、少し呆れたような
伸びてきた指先に顎を持ち上げられ、射抜くような
「私は君の身体を買ったのだ。それがどういうことか、わかっているだろう?」
燭台の灯火を映した青年の虹彩が炎の
この美しい青年から見れば、自分はいったいどんな女に映るのだろう。
──初めて仕事をしようとしている、惨めな《売春婦》……。
途端に恥ずかしくなって強引に顔を背けた。どこを見ていいのかわからず、視線を泳がせる。
「これは契約だ」
突然に両脚が宙に浮いたので「あっ」と声をあげれば、真上に青年の顔があって、抱え上げられたのだとわかった。
そのまま寝台に運ばれて簡素なマットレスの上に降ろされると、頭の上に手が置かれ、もう片方の手は耳元に添えられる。
「は……」と熱い吐息が耳にかかるのを感じて肩が跳ねた。
レティアの身体に覆い被さる青年の顔は、息遣いがわかるほどに近い。鼻腔をくすぐる清らかながらもどこか甘美な香りは青年の色香だろうか。
──ああ……これから抱かれるのだ、この人に。
ほぼ同時に柔らかなものが首筋に触れる。
ぞくりと震えた背中がもたらしたのはこれまで経験したことのない奇妙な感覚……身体は冷え切っているはずなのに、腹の奥にじわりと熱が灯る。
『君が大人になったら迎えに行く。それまで待っていて。』
目頭に熱いものがあふれた。
辛くなったとき、何度もレティアを支えたこの声を、今だけは聴きたくなかった。