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【37】救出

 ――ミューラの姿が見えない。


 メイド長のマァラはじめ、他の使用人も、ミューラの姿が見えないので、仕事の隙間時間に探していた。


 男爵が病気だと言っていたので、心配して部屋を見に行った使用人が何人かいたのだが、ミューラが部屋にいないのだ。


 使用人の間に心配と不安が広がっていた。


 探してないのは、あとこの廊下と――


 ミューラを探して、人通りが少ない地下室への通路階段前をメイド長が通りかかった時――ちょうどガエルが地下から上がって来た。


 地下には地下牢と、めったに使用されない道具が置かれているだけだ。

 普段、訪れることはまずない。


 不審に思ったメイド長のマァラが声をかけた。


「あら、ガエルさん、地下になんの御用だったの?」

「メイド長……」

「……どうしたの?」


「……」


 ガエルは俯いて黙った。


「……まさか、地下にミューラお嬢様が?」


「――っ」


 ガエルの目からポタポタと涙が落ち――罪の意識に押しつぶされた彼は、地下で起こっていることをマァラに話した。


「なんてこと……!」


 マァラは、ミューラがメイドになってから、彼女の孤児院の話しなどをよく聞いていて、エドガーのことも知っていた。


「(私達では止められない……!)」


 マァラは、血相を変えてエドガーに知らせに行った。






「……っ(あと一歩遅ければ、ミューを殺されていた!!)」


「エド……」

「もう、大丈夫だ」



「判断が甘かった……。ここまでひどかったなんて。もっと警戒する必要があった……。ごめん、ミュー……準備整え次第、すぐにこの屋敷から出ていこう。お前をここに置いておいたら殺されてしまう……!」


 ミューラはガタガタと震えている手でエドガーの首に手を回した。

 それは、肯定の返事だった。


「そんなこと、勝手にできないわよ! その子はこの家の本当の子なんだから!!」


 エレナが身を起こしながらそう叫んだ。

 そのエレナにエドガーは侮蔑の視線を送る。



「そうか。だが、この件は通報する。――君の両親も含めてだ。ただでは済ませない」



「私は領主の娘よ! 逮捕されるわけないじゃないの! なにが勇者よ! 孤児院出身の平民のくせに!! あなたなんかこっちから願い下げだわ! 困るのはあなたの方よ! 私を突き飛ばした罪で通報してやるんだから!! 」


「そうか。言えばいい。ただお前がやった、殺人目的の暴力の救助の為だ。罪になったとしても大した罪にはならんと思うがな。ミューラの治療を急ぐから失礼する」


 エドガーには響くことのない誹謗中傷を喚き散らすエレナを置いて、エドガーはミューラを仲間たちのところへ連れて行った。





「通報は、ご勘弁ください……! エレナ、謝りなさい!!」


「どうして私が!!」


「もう、どうしてあなたはそんなに我が儘なの!?」


 男爵夫妻は、通報というと珍しくエレナに謝罪するよう促したが、それを聞くエレナではなかった。


「では、通報しないかわりに、ミューラをオレにください」


 エドガーは譲歩のつもりでそう言った。しかし男爵は一瞬笑顔になった。


「そ、それで良いのでしたら! ミューラ、粗相そそうの無いようにするのだぞ!!」


 今後、高位貴族になる勇者とのつながりができる、と思ったようだった。

 だが、エドガーはそれも一刀両断した。


「二度と俺達に近寄るな。それも通報しない条件に含む」


 男爵は苦い顔だったが、事情を知ったエドガーの仲間たちにも、凄まじい形相で睨まれ――萎縮いしゅくし了承するしかなかった。


 その間、ミューラはエドガーの仲間に治療を受け、その様子を見ていたが、


「(こんなに私が酷い状態になっても……結局、私の心配ひとつ……してくれなかった)」


 ほんの少しだけ、両親にすがる気持ちが、まだあったなど自分でも思わなかったが、それを限りに両親への思いは今度こそ、すべて消え去ったミューラだった。



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