「あの!! どういうことですか!? 2人はどういう関係なの!」
エドガーに腕を外されて、恥をかかされたと思ったエレナが顔を真っ赤にし大声で怒鳴った。
「あ……。孤児院にいたときの友達……幼馴染なの」
とミューラが説明すると、エレナが一瞬考えるような顔をし、
「……。(ミューラの……幼馴染……)」
エドガーを見る目が、さらに貪欲になった。
「……(え、なに?)」
ミューラは、ゾクリと背筋に悪寒が走った。
エドガーのほうは、なにも気にしてないようで、彼は彼で男爵夫妻を振り返って言った。
「――ところでお伺いしたいことがあるんですが」
「は、なんでしょう」
「どうしてミューラがメイドの格好をしているんですか? 俺はこの男爵家の本当の娘だと判明したから引き取られたと聞いたのですが?」
「そ、それはその!」
男爵は言い淀んだが、エレナはこういう場合、機転が利く娘で口を挟んだ。
「勇者さま、誤解なさってますよね!? ミューラが望んでメイドになりたいと言ったのですわ! 自分に当主は務まらないからメイドになって奉公に出たいって!」
「この男爵家の跡取り娘はミューラになるんだ、と昔、俺は孤児院の先生から聞いていたんだが……ところで君は誰だ」
「ミューラと取り違えられはしましたが、そのままこの家門の跡取り娘になりました、姉のエレナですわ」
エドガーが自分をまっすぐ見たのでここぞとばかり、微笑むエレナ。
「ああ……君がエレナか……」
エドガーは、何か知っている様子だった。
「はい!! 私をご存知だったのですか!? やだ……。 あの、……別に跡取りじゃなくても私は……」
エレナは、頬を染め可愛らしさを演出し、さらに――
「血は引いておりませんが、長年愛してきて、手放すことができませんでしたの……でも、勇者さまがお望みになるならば、エレナをあなたの花嫁にしても……」
と、男爵夫人・イルダもエレナの援護に回ろうとした。
「どうして急に縁談の話になるのですか……。それは、お断りです」
そんな彼らに、きっぱり言い放ったエドガーは男爵に向き直った。
「ミューラがメイドだというのなら、ここにいる間、オレにミューラをつけてください」
「あ……はあ、まあいいですが……」
「お父様!!」
恥をかいたエレナは、さらにエドガーがミューラを自分付きに、と言ったので顔が真っ赤だ。
だが、エレナが反対したところで、この状況ではエドガーの要求が通った。
「(……嘘みたい。エドガーが屋敷に泊まるだけじゃなくて、側仕えさせてもらえるなんて。 滞在する間はきっといっぱい話ができるし、やっとバンダナを渡せる……。)」
ミューラは、抑えきれない嬉しさに、表情を保つのが大変だった。
「じゃあ、メイドさん。部屋に案内してくれるか?」
昔と違ってすっかり目線の位置が高くなってしまったエドガーはすこしかがんで、ミューラのひたいをツンとした。
「も、もう……。あ、いえ。こちらです、どうぞお客様」
使用人たちが客人の荷物を持ち、それぞれの部屋へ案内するのだった。
その様子を、エレナがどす黒い顔で見ていた。