ハミルトン一家が待ちに待った勇者一行が到着し、エントランスで屋敷の全員が集まり頭を下げて迎える。
彼らは男性ばかりの6人パーティで、みんな体格も良く、見るからに屈強だった。
年齢は少年から初老まで幅広い。
そして、その旅姿は綺麗なものではない。
ハミルトン一家は、その薄汚れた姿に一瞬眉を潜めたが、これから彼らは――少なくとも彼らのリーダーである勇者は高位貴族に、そして他のメンバーもそれなりの爵位や報奨を受け取る栄誉をうける団体なのだ……と思い我慢した。
だが、その男たちの中で1人。
端正な顔立ちに加えて、目を引く濃紺の髪に、同じく深い青の瞳の青年がいた。
――それが勇者ジークであった。
名声に加えて素晴らしい容姿の彼に、エレナはひと目で食いついた。
一方、勇者のほうは、厳しい顔をして、エントランスを見回していた。
「勇者ジーク様ぁ! よくいらっしゃいましたあ!!」
父親が口を開く前に、黄色い声を出すエレナが、勇者の腕にまとわりつく。
「ああ、エレナ。お行儀が悪いよ。すみませんね、ジーク様」
「だって……!」
「いえ、お世話になります。ところで……ご家族はここにいらっしゃる三人だけですか?」
「えっ」
急に勇者が思ってもみなかったことを男爵に聞き始めた。
「あー……っとそうですね……」
「そ、そうですわね。三人……ですわね」
男爵と夫人は歯切れが悪くなった。
ミューラは最後方で頭を下げながら、それを聞いていた。
「(やはり私は、家族の数には入ってないのね。わかってたけど)」
わかっていても聞きたくはない言葉ではあった。
しかし、勇者は何故家族の数を確認しているのだろう。
「そうですか……。ミューラ、という娘さんがいらっしゃったかと思うのですが」
勇者は次に、ミューラの名前を口にした。
「ミュ、ミューラですか!?」
男爵が慌てた声をあげる。
ミューラは思わず頭をあげた。
「(どうして、勇者が私のことを? ……いえ、待って、彼は……)」
男爵たちの後方で控え、頭を下げていたミューラが顔をあげると、男爵達と対面していた勇者ジークと目が合った。
「――」
ミューラは口元を抑えた。
――すっかり声変わりしていたから、声だけでは、気が付かなかった。
「……ミューラ!!」
勇者はエレナの手を振りほどき男爵たちの横をすり抜け、ミューラの傍へ駆け寄り抱きしめた。
「……っ」
ミューラはしばらく何が起こったのかと目を白黒したが――勇者からは、間違いなく知っている懐かしい匂いがした。
脳内に浮かんだ数年前に別れた大事な幼馴染。
そのかつて幼かった顔と抱きしめてきた男性の顔が合致する。
「……エドガー?」
「そうだ! 俺だ! 会いたかった!!」
ずっと会いたかった幼馴染。
いつか会いたいと夢を持ちながら、諦めていた相手。
それが、今ここにいる。
あまりの出来事に、ミューラは
思い出の中の彼よりも、背もずっと高くなり、声も低くなった。
すっかり大人の男性になった――確かにエドガーだ。
「でも勇者ジークって……」
「いや、本名で話が広がったら暮らしにくそうだったから、偽名にしてくれ、と無理矢理頼んだ。平民の名前なんてあってないようなものだしな」
「そっか……」
ミューラは、伝えたいことがたくさん頭に浮かんでいるものの、泣き出して喋れなくなりそうだったので、それを言うのが精一杯だった。
「……綺麗になった」
エドガーが耳元でポツリと言った。
「えっ。会っていきなり、な、何を言って……」
泣いていながらも、慣れない事を言われて、ミューラはカーッと赤くなった。
それを見てまたエドガーがミューラの頭を撫でくり回す。
そんな2人だけの世界が続きそうになったが。
――そこに割って入る声があった。