学校にミューラの魔力封印がバレたことにより、案の定――。
その日、夕食の席につく前に、男爵夫人・イルダの強烈な平手打ちが飛んできて、ミューラは床に転がった。
「……っ!」
「おまえのせいで! おまえのせいで!!」
ハミルトン男爵夫人・イルダは拳を握りしめた。
「魔力封印のことは話してはいけないと言ったでしょう!」
「は、話してません。すみません、着替えの時に見られてしまって……」
ミューラは頬を抑えながら思った。
今回はわざと見せたが、肩にある封印など、いつかは気づかれるだろう、と。
「(もっとわかりにくい場所にされなくてよかった)」
着替えの時にいつも見られないように気を使っていた。
「……っ。あんたがそれを見られたせいで、お茶会で私、恥をかいたのよ! たかが人形を壊しただけで魔力封印した非道な母親とか、本当の娘を無下にして血統を守らない母親とかヒソヒソと!! 事実と違うことを遠巻きに!!」
「私は一切……しゃべっておりません」
本当だ。
しかも、封印は見られたが、喋らないで、と口止めもした。
「お母様ぁ、私も学校で最近、クラスメイトが冷たいの! ミューラに宿題をやらせてるとかって!」
「まあ、エレナ……可哀想に」
「お母様ぁ、私もう、ミューラと学校行きたくない!」
「そうね、この子が学校に行くとろくなことがないわ。ね、あなた。学校へ行かせるのはやめましょう!」
「ああ、うん。まあそうなんだが」
しかし、ハミルトン男爵の歯切れは悪かった。
いつもならここですぐに賛同し、ミューラに学校を辞めさせるところだ。
「実はな、魔力があると発覚したせいか、ミューラに急に釣書がくるようになったんだ」
「……なんですって」
エレナの顔が青ざめた。
「でも、あなた。こんな素朴な娘よ? どうせろくでもない家門ばかりなんでしょう?」
「それが、侯爵家、伯爵家からも着ているんだ。恐らく嫁がせれば破格の金が入る。我が家の財政を考えるとだな……」
エレナの顔も青ざめたが、ミューラも青ざめた。
「(嫁ぐのは……いやだ)」
そんな風に考えるミューラの脳裏にはエドガーの顔が浮かんでいた。
「あと、魔法学の先生からミューラに魔法授業を選択させないかと、推薦が来ているんだ」
――魔法学。
魔法学を選択すれば、魔法を学べる。
将来は王都にある魔法施設に就職できる可能性が広がる。
しかも高給取りだ。
恐らくかなりハイレベルな学業を収めなくてはならないだろう――だが、嫁ぎたくはない。
ミューラは思わず言った。
「が、頑張りますから、魔法授業、受けさせてください……! もし将来王都で魔法施設で働けたら、家にお金を入れます!」
「ほう、お前がそんな主張するなど珍しいな」
金が絡むせいか――珍しく男爵がミューラの言葉に耳を貸しそうではあったが、そんなことはエレナが許せるはずもなく。
「(そんな華やかな世界にミューラを行かせるものですか!!)」
「ミューラは、いいわね……。すごい家門からお見合いの話しがきて、さらに魔力があって、王都で働ける可能性もあって……私、私は跡取りなのに、なにもないわ!! わああ!!」
エレナが、大きな声を張り上げ泣き出した。
「エレナ……だが、お前も最近パーティ出席が多くてそのたびにドレスをこさえているだろう? 小物類も高級なものばかり、毎回だ。それに、ミューラにもドレスその他は買わねばならん。それを将来に渡って維持するためには、新しい金策を増やさねばならなくてだな」
しかし、今回の男爵はエレナを
「うああん、お母様!! お父様は私のこと、もうどうでもいいんだわ! やっぱりミューラのほうがいいんだわ!!!」
「え、エレナ。お父様はそんなこと思ってはいないよ! ただ、お前のために……」
「あなた! エレナがこう言ってるのよ? こんなに泣いて可哀想に……。だいたい学校の成績も良くないのに魔法学なんて無理に決まってます! それに貴族作法も覚えられない子が上位貴族に嫁げるわけないわ。返って我が家の恥になる! ……そうだ、ミューラが学校をやめて、社交界デビューしなければいいのではないかしら?」
イルダ夫人がとんでもないことを言い始めた。
「そうすれば、ミューラの学費は浮くし、学校に行かなければ学校で必要なドレス・小物類などもいりません。社交界デビューにいたってはする必要もありませんよ。そうよ! この家で家事手伝いをさせれば費用が浮くでしょう?」
「(それって……私を使用人にするってこと? 娘、なのに……?)」