それから1年経過し――エレナとミューラは14歳となる。
エレナは親と婚約者に隠れて火遊びし続け、ミューラのほうといえば、相変わらず家でも学院でも異物だった。
唯一の楽しみだった、ホエルとの雑談も、彼のアルバイト期間が終わってしまい、会えなくなった。
結局、ホエルと会っているその間、エドから連絡がくることはなかった。
ホエルもそろそろ結婚するらしく、ミューラも彼にあまり迷惑をかけられないと思い、明るい笑顔で去る彼を見送った。ホエルのほうもミューラを気にしてはいたが、貴族に対抗する手段も持たないため、なにもできなくてすまない、と言っていた。
ただ、ミューラは彼に何かしらの被害が行かず、良い関係のままこの期間が終わったことが嬉しかった。
かつての親切なメイドのようなことになるのではないかと、ヒヤヒヤもしていたからだ。
――そしてまたミューラは1人ぼっちに戻った。
しかし、明るいホエルとたまに話しているうちに、ミューラもすこし気分が前向きになった。
もう二度と会うことのなかっただろうホエルに会うことができた、ひょっとしたらエドガーともいつか会えることがあるかもしれない。
なにより、エドガーは一度会いに来てくれていたのだ。
今までは幼かったこともあり、もう自分には希望はなく、このまま異物として生きて死ぬ運命だと絶望してただ息をするだけだったのだが。
「そうよ……。ずっとこの家門を出たいと思っていたのに、どうして出る方法を考えようとしなかったのかしら」
学校に行って、貴族の世界を多少なりとも知ったこともその考えに至らせた。
孤児で平民だったミューラにとって一番末端の貴族とはいえ、ハミルトン男爵家は強大だった。
上位貴族も下位貴族も違いが感じられなかった。
しかし、学校で見かける様々な位の貴族たちを見て、ハミルトン男爵家にはあまり力がないのではないか、と思えるようになってきたのである。
あくまで他の上位貴族と比べたら、ではあるが。
最近、エレナが令息に弄ばれていることを、ミューラは気がついていた。
「(エレナの学校での人間関係、弱まってきてるよね)」
何か
こんなことをされるのは、囚人だ。
魅了のような危険なパッシブでもないのに、封印されるのはおかしなことだと、今ではもう知っている。
これが、世間に知れれば――何かが変わるのではないか。
体育の時間。
更衣室で着替えていたミューラは、今まで隠すように言われていた、肩の魔力封印をわざと見せるようにした。
目ざとい令嬢は、それに気が付き――めずらしく、話しかけてきた。
「あら……? ミューラさん。それはなんですの? 魔力封印に見えますが……」
この数年で用事がある以外で始めて話しかけられた。
「あ……。そうです。あの、見なかったことにしてもらえますか」
慌てて隠すようにする。
「え、どうしてです?」
好奇心旺盛な令嬢は興味津々だった。
「わかりません……」
一定の情報をしか与えず、相手の想像にまかせる――。
この貴族学校の子どもたちがたまにやってる情報操作だ。
正直こんなことはやりたくはない。
しかし、なりふり構わないことも必要だと、思い直した。
だって自分にある手段は少ないのだから。
なんでもやってみるべきだ。
私は喋っていない。
『事故』で魔法封印を見られてしまった。
それが、勝手に広まってしまうのは、しょうがないことだ。
結局は、かなり怒られるんだろうけど。
もし、これを糸口に、私が置かれている状況が『事故』で漏れれば――。
おそらく貴族達にとっては『美味しい餌』。