ミューラを王都の孤児院から連れ帰った男爵夫人・イルダは、旅の疲れがとれたところで、久しぶりにお茶会を開くことにした。
懇意にしている同じ男爵家や近隣領地の上位貴族を呼んだ。
なお、表向きは交流会ではあるが、イルダの真の目的は、王都の有名店で購入してきた服飾品の自慢だ。
「あら、イルダさん、そちらはとても素敵なお帽子ね? そういえば靴も……あら、最近流行のものではなくて?」
伯爵夫人がイルダの身につけているものを話題に取り上げる。
「ええ。この間王都に行ってまいりまして……。私は家にあるもので良いと言ったのですが、せっかく来たのだから主人がどうしても、と申しまして無理やり……」
困り顔で笑顔を浮かべるイルダ。その発言は真っ赤な嘘である。
ハミルトン男爵は、予算外の買い物だったので渋い顔だったのだが、イルダが押し切って買ったのだ。
彼女の浪費はわりと激しい。
「まあ羨ましいわ。ハミルトン男爵は懐の深い御方ですわね。私なんて、度々せがんでもなかなか買ってもらえませんのよ? うちの旦那様は予算の中でやりくりしろ、とうるさいんですの。まあ素敵なお色……」
他の男爵夫人が、イルダの夫を称え、さらに服飾品を褒める。
「あら、靴も。……ああ、これは王都のお城近くの通りのブランドではなくて? 一等地のお店ではないですか」
「そうだったのですか? 私は田舎者ですからそういうのに
招待主だけあって、持て
現在、世界で一番幸せなのは、きっと自分。
イルダにとって思惑通りで、気分が最高のお茶会が進行していた。
しかし、しばらくすると――。
「そういえば、イルダさん。今日はエレナさんはいらっしゃらないのね? いつも同席させているのに」
伯爵夫人がそう切り出した。
「――あ、ええ。今日は……今、お勉強の時間ですの」
嘘だ。
エレナが本当の子どもではなかったと発覚したせいだ。
ここにいるメンバーはそれを知っている。
何故ならここのメンバーからエレナが本当の子どもではないという事を突き止めたメンバーだからだ。
ただし、それをイルダは知らない。
産院に誰が調べたか口止めさせ、産院から知らせたからだ。
伯爵夫人の扇子の向こうの目が細くなる。扇子で見えない口元はおそらく嗤っている。
――ここのメンバーの子ども達の中でエレナは郡を抜いて美しかった。
夫人同士の集まりに子どもを参加させるなど、あまりない。
だが、イルダはエレナが可愛いと褒め称えられたくて、またその子を産んだのは自分だ、ということを誇示したいがため、自分の家のお茶会だけでなく、招待された他家のお茶会にまで連れ歩いていた。
他家のお茶会に参加した時は、エレナが行けば、その家の子も相手として呼び出されるため――口に出さずとも比較される。
『エレナさんは可愛いですわね』
他の子よりも、たくさん褒められて、イルダは鼻高々だった。
だが、他の夫人方も仕方なく褒めている状態で、面白くなかった。
しかも、自分の子どもと比較されているのがわかる。
彼女らは、いつもエレナを連れてくるイルダにフラストレーションが溜まっていき、そのうち、イルダ抜きのお茶会が秘密で開かれるようになった。
そこはイルダの悪口大会であった。
「ねえ、私思ったんですけど、ハミルトン夫妻とエレナさんって全然似てませんわよね?」
――誰もがそう思っていて、それまで誰も口にしていなかったこと。
それを、ついに誰かが言ったのが、始まりだった。