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第44話 水着姿

 前回のあらすじッ!

 真夏と呼ぶに相応しい三十度を超えた快晴の日。

 俺は双葉とふたりで三日月町から少し離れた場所にあるプールの施設へとやってきていた。

 先に着替え終え、待ち合わせ場所である更衣室出口で双葉の到着を待っていた俺の名前を呼ぶ声に振り返ると、そこには水着に着替えた双葉がいて、俺はその姿を見て思わず目を見開いてしまったのだったッ!

 回想終わり!


「お、お待たせ。上村君」


 恥じらうように体の前で腕を組みながら、ちらちらと俺の様子を伺うように双葉が言う。

 フリルのついた黒のビキニ。水着を見るまでもなくスタイルがいいことは知っていた。決して裸でエンカウントしたからとかそういうのではなく、そもそも服を着ていても主張が激しかったからだ。


 それでも、普段は服というヴェールに封印されていたその破壊力抜群兵器が世に放たれたのだから驚くのも無理はない。たわわに実った果実、なんて表現をすることがあるけれど、俺はその表現をした人間を褒めたいと思った。だって、まさにそうなのだから。実際に目の当たりにすると、実に言い得て妙である。


 自らの魅力を遺憾なくアピールしてくる胸元から視線を僅かに下ろせば見えてくるのが腰回りだ。普通、これだけ胸が大きければそれなりに肉づいたウエストラインになるはずなのに、どうしてか細い。グラビアモデルも大人しくそのポジションを譲るに違いない。きゅっと引き締まった腰回りに目が行くが、そこにある小さなおへそがこんにちはしているのも実にキュートだ。


 そして、男として見ないわけにはいかない胸から腰、そして最後に下半身だ。ぷりっとしたお尻はビキニに守られているが、そこから伸びるスラッとした脚。程よく肉づいた太ももは思わず飛びつきたくなる魅力をこれでもかと放つ。俺は決して脚フェチではないけど、断じてそんなことはないけど、踏まれても怒らなさそうだ。


 髪はお団子にして一つにまとめていた。一応、恥ずかしいのか白のパーカーを羽織っているけれど、その程度では隠しきれていない。むしろちょっと隠しているせいでエロさが増しているまである。


「ちょっと、見すぎよ」


 そんなつもりはなかったけど、俺があまりにもじいっと見ていたらしく、双葉は体をよじりながら恥ずかしそうに主張した。


「おう、悪い」


 俺は慌てて視線を逸らす。

 見るなというほうが無理だ。目の前にこんな魅力的な水着美少女がいるのだから、これで見なけりゃ男じゃないよ。


「……」


 さて、どうしたものか。

 実のところ、俺も友達とプールに来るという経験はないようなものなので、合流後にどうすればいいのかはよく分かっていない。なんとなくその場の空気というか、ノリで進めりゃいいだろうと昨日は考えていたけど、双葉の水着姿を見て場の空気は変な感じになってしまった。


 俺は双葉とは違う方向を見ながら口元に手を当て考える。


「ねえ、ちょっと」


 顔を逸らし、且つ考え事をしていたので彼女の接近に気づかなかった俺は手をぺちんと叩かれて思わず「うおッ」と驚いて双葉の方を向き直ってしまう。


 すると想像以上に接近していて、目の前に彼女がいて、水着姿のインパクトに二度目の「うおッ」が炸裂した。それに関しては、双葉も怪訝な顔を見せる。


「ど、どうした?」


 ドキドキと激しく動く心臓を落ち着かせながら尋ねる。


「感想、訊いてないんだけど。こういうとき、男は水着の感想を言うものでしょ?」


「そういうもの?」


 双葉はこくりと頷くわけでもなく、イエスとかうんと肯定することもなく、ただじいっと俺の目を見つめてくる。俺、一応あなたのこと好きだって自覚したところなんですけどね、あんまりそういうことされると心臓に悪いというか、いろいろ我慢できなくなるから控えてほしいんですけど。


 しかし、こういうところは女の子だな。

 買った水着が似合っているかを気にしているのだ。昨日、買うときも結構考えてたもんな。


 そしてここで重大なお知らせなのだが、実は俺は昨日の買い物の時点では双葉の水着姿を拝見していないのであった。何着かのチョイスはしたけれど、試着後の意見は店員さんに求めていたので、俺はどの水着を買ったのかさえ知らされていなかった。


 なので、双葉の水着姿を見てあれほど驚いたのだ。


「似合ってる。お金払ってもいいくらい」


 女子の褒め方なんか知らないって。

 商品として成立するくらいのクオリティだという意味を込めて言ってみたけど、俺の感想を聞いた双葉はじとりと半眼を向けてきた。やらかしたか、と思ったけど、次の瞬間には彼女はぷっと吹き出した。


「なにそれ、ふふ」


「いや、べた褒めなんだけどね?」


「だとしたらセンスなさすぎ。そんな褒め方じゃ誰も喜ばないわよ? っふふ」


 言って、双葉はまた思い出したように笑う。

 それ、喜んでいるんじゃないの?


 だとしたらどういう感情なの?

 俺にはもう女心というものが分かりませんよ。


「行きましょう?」


「あ、おう。ていうか、それ着てたらプールに入れないのでは?」


「脱げと?」


「そうは言ってない。ただ意見を述べただけ」


 隣同士、歩きながらそんな言葉を交わす。

 こういう軽口を言い合えるのも、いつの間にか心地良いと感じるようになった。


「まあ、あなたの言っていることは尤もね。上村君がえっちな目で見てくることは我慢するわ」


「いや別に見ないけど? 健全な視線だけを向けるけど?」


「見はするのね?」


 からかうように言ってくる。

 しかし、今日の俺はここで負けたりしない。


「可愛い女子が目の前に水着でいて、見ないなんて男じゃないし。そもそもそんなの相手に失礼だし」


 言い返してやったぞ。

 どや、と思い双葉の様子を伺ってみる。


「……」


 彼女は口を噤み、なにやら複雑そうな顔をしていた。


「それどういう顔?」


「言い表せないわ」


 まじでどういう顔なんだよ。


「あっちのほうに荷物置きあったぞ」


 双葉はカバンを持っていた。それくらいロッカーに置いてくればよかったのに、とは思ったけど女子の荷物はデリケートなものだったりするので触れないでおいたのだ。


 ということで荷物置きにそのカバンを置き、そのあとに双葉は羽織っていたパーカーを脱ぐ。


 なんだろう。

 この、目の前で服を脱いで布面積が減るという事実。

 水着だと分かっているのに、どうしてもドキドキしてしまう。


「……すけべ」


「すけべですがなにか?」


「認めた!?」

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