その日から俺の部員探しが始まったが、クラスメイトへの声掛けを始め、部員募集の張り紙を貼るなどの行動を取ってみたが結果は芳しくない状態にあった。
このまま同じ行動を続けていてもきっと事態は好転しない。
「上手くいってない感じ?」
昼休み。
机に突っ伏して新しい案を考えていた俺は、話しかけられた声に顔を上げる。
心配したような顔の玲奈が俺を見下ろしていた。彼女は前の空いている席に腰を下ろし、体をこちらに向けた。
「まあ、そだな」
校内で特別仲がいいのは五十嵐と玲奈だろう。だから、彼女にも早々にこの件については訊いてみた。その答えとして、バスケ部があるからちょっと難しい、とのこと。そりゃそうだ。
「そんなにその……ボランティア部? ていうのが大事なの?」
「支援部な。申請に当たって名前を変更したんだ」
別にそこまで大きな意味はなかったけれど、活動の本当の……というか裏の意味は感謝されることにある。ボランティアだと見返りは求めず、相手を助けるというふうに捉えられる。そうなると、感謝の気持ちを抱かない相手だって現れるかもしれない。
だから、あくまでも困っている相手を助けるという意味で支援という言葉を選んだ。
「俺はなんとかしてこの部活を設立したいと思っている。理由はまあ、いろいろあるけど」
「そう、なんだ」
玲奈は複雑そうな表情を見せる。
優しい女の子だ。困っている友達の力になれないことを歯がゆく思っているのかもしれない。
「心配しないでいいぞ。まだまだ手はあるからな」
「そうなの?」
「ああ、うん。あるぞ。あるはず。思いついてないだけで可能性は無限大」
「ダメなやつだ!」
玲奈が驚きツッコんでくる。
そして、笑顔を取り戻してくれた。
「けど、本当に大丈夫だから」
「……わたしにもできることがあったら、言ってね?」
「ああ」
まあなんとかなるだろう。
八方塞がりというにはまだまだ手は尽くしていないのだし。最悪の場合、五十嵐に名前だめでも借りるとしよう。活動そのものは別に俺と双葉がすればいいわけだし。
「上村君」
そのとき。
名前を呼ばれ、俺と玲奈は声の主の方を向く。
玲奈はその女子生徒の顔を見て今日一番の驚き顔を見せた。
「んな、なななな、なんで双葉さんが紘くんの名前を!?」
そこまで驚くことはないと思うんだけど。
これまで接点という接点はなく、話しているところを見たこともない二人なので少しくらいは驚いてもおかしくはなかったけど。
「えっと、部活の話で」
「ぶぶぶぶ部活?」
玲奈は目を見開いたまま、なんのこっちゃとこちらを向く。
明らかに答えを求めている顔。俺はそれに答えないわけにはいかない。
これに関しては双葉とも相談済みだ。
「支援部。今のところの部員は俺と双葉なんだよ」
校内では極力目立たずにいる、というのが双葉の考えだった。
だから誰とも関わろうとはしていなかったし、現に俺は校内で彼女と会話することはなかった。
けれど、部活動を一緒に設立するとなると話は変わってくる。そして、そうなるとどうしても話さなければならない機会は訪れる。そのために、いろいろとすり合わせをしておいた。
「なん、ど、え?」
玲奈は動揺のあまり語彙力を失っている。
驚きすぎだろ、絶対。
「俺が誘ったんだよ。双葉は何の部活にも入ってないらしかったから」
まず最初に、部活の設立に至る理由について。
双葉の呪いに対するケアとして、というのが本来の理由だけど、もちろん彼女が魔女だということはトップシークレットだ。だから、俺がこの町に馴染むために校内、校外の人に関わりたいというのが表面上の設立理由とすることにした。
双葉は時間があるから、それを手伝ってくれるという体だ。
「そんな感じね」
それに伴い、双葉のスタンスも設定変更。
あくまでも俺に付き合っている感じを装うらしい。
「それで、部員の方はどう?」
双葉にはこのプロジェクトの進捗は逐一報告していた。
彼女のためのものなのでそれは当然といえば当然だけど。
復帰はしたものの、これまでの行いから中々自分から声はかけづらいらしく、この時点では彼女は力になれないと言っていた。どうやら申し訳ないという気持ちはあるらしい。いつも、どこかツンとした態度だったので気分は悪くない。
体調を崩したとき以降、少しだけ態度が柔らかくなったように感じる。
「進捗なし。とりあえずもうちょっと当たってみるけど」
「悪いわね。力になれなくて」
「別に。このあとで活躍してくれればいいよ」
「期待に応えられるように頑張るわ」
そんな感じで現状報告をする。
校内だからか、いつもの刺々しさもマシだ。
「なんか、仲良くない?」
俺と双葉のやり取りを見ていた玲奈がじとりと半眼を向けてくる。
これはまた随分と訝しまれている。
「こんなもんだろ」
「……」
「玲奈ともこんな感じで話すだろ?」
「わたしとはこれまでの積み重ねがあるじゃん! けど、双葉さんとは最近話し始めたばかりでしょ?」
「そりゃそういうこともあるって」
同じ屋根の下にいる分、一緒にいる時間は多い。
それぞれが自室でゆっくりする時間はあるけど、基本的に飯は一緒に食ったりするから必然的に会話の量は増える。気を遣うのもバカバカしいってことで肩の力も抜けてきて、そうすると自然と接し方もフランクになってきた。
「むう」
玲奈はどうにも腑に落ちないようでふくれっ面を見せた。
彼女はちらと双葉の方を向く。
「何かしら?」
「……んーん、なんでも」
絶対なにかあるだろ、と言いたくなるような視線を双葉に向けていた玲奈は何を考えているのか難しい顔をしたのち、意を決したように拳を胸の前で握る。
「わたし、入る!」
「ん?」
一瞬、何のことを言っているのか理解に遅れ、俺はつい訊き返してしまった。
玲奈はこちらにまっすぐな瞳を向け、もう一度、口を開く、
「わたし、応援部に入る!」
「支援部な」