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第14話 ナイスアイデア

 授業中に、俺はぼうっと昨日、双葉から聞いたことを頭の中で反芻していた。


 魔女は三日月山の神様に呪いをかけられている。

 その呪いにより、魔女は謝儀なるものを受け続ける必要がある。


 そのための力として『記憶』に関する魔法を使うことができる。

 これがこの数日で俺が魔女に関して得た情報だ。


『結局、その謝儀ってのを受け続けないとどうなるんだよ? 呪いとか言ってるくらいだし、まさか死んだりするんじゃないだろうな?』


 昨日、双葉と話しているときに、俺はそう尋ねた。

 彼女は受け続けなければならない、とは言ったけど、だったら受け続けることができなくなったらどうなるのかを話さなかったからだ。


 あるいは、彼女自身もそれを知らない可能性はあった。

 けれど、俺はそうは思わず、意図的に話していないだけのような気がしてならなかったのだ。

 こちらから尋ねて、それで伏せられたら俺から言えることはもう何もなかった。

 が。


『そうね。呪いによって、その命を失ってしまう……らしいわ』


 双葉閑は至って真剣に、冗談とは微塵も思えないような真面目なトーンでそう言った。

 表情は固く、口元に笑みはない。

 俺はそんな彼女を見て、なにも言うことはできなかった。


「……死ぬ、か」


「うわ、びっくりした!」


「うおッ、ビックリした」


 気づけば目の前に玲奈がいた。

 彼女の驚いた声に俺までビックリしてしまう。


 どうやら授業が終わっていたらしい。最近、授業中に考え事をすることが増え、それにより知らない間に授業が終わっていることも多くなった気がする。これは期末テストが危ないぞ。死ぬ気で勉強しないと。


「なにを物騒なこと考えてたの?」


「というと?」


 玲奈の突然の話題に俺は首を傾げる。


「いや、さっき死ぬとか言ってたから。もしかして自殺とか考えてる? やめてね。そんなことする前に相談してくれたら力になるから」


 さっきの声に出してしまっていたのか。俺はしまったと思いながら口を塞ぐ。

 それにしても、ここまで心配してくれる玲奈は本当にお人好しだな。


「いや、そういうんじゃないんだ。心配しないでくれ」


「ほんとに?」


 眉をへの時に曲げて上目遣いを向けてくる。本当に心配してくれているんだな。

 困ったことがあったら相談しようかね。


「ああ。昨日してたスマホゲームのこと考えてただけだからさ」


 誤魔化すにしては適当すぎたかもしれないけれど。


「そっか。ならいいんだ。紘くんが死んじゃったら悲しいからね」


 玲奈は誤魔化されてくれた。

 その言葉に嘘はなく、本心からきている言葉だというのは表情と声色で伝わってくる。

 自分がいなくなって、悲しんでくれる人がいるっていうのは、何ていうか、幸せなことだよな。


「じゃあ、わたし部活行くね」


「部活?」


 高校生は放課後に部活に勤しむものだ。それは都会であっても、田舎であっても変わらない。

 しかし、ここにやってきてから一ヶ月の間に部活動の話題があまり出なかったことからすっかり忘れていた。ていうか、玲奈も部活に入っていたんだな。


「玲奈って何の部活に入ってたんだっけ?」


「え、いまさら!? わたしに興味なさすぎない? さすがにショックなんだけど」


「いやだって、放課後とか普通に遊びに行ったりしてたから。そういう感じ匂わせてなかったじゃん」

そうなんだよな。


 少なくとも毎日部活動に行っているという感じはなかった。

 ということは、毎日活動する部活ではないということか。放送部とか、文芸部とか、そういう文化系の部活なのかな。


「わたしが所属してるのはバスケ部だよ」


「まさかの運動部……」


「わたしのこと、運動音痴だと思ってる?」


「そうじゃなくて。毎日活動してるわけじゃなさそうだったから、てっきり文化系の部活なのかなって思ってたから」


 俺が言うと、玲奈ががっくりと肩を落とし盛大な溜息をついた。


「グラウンドや体育館には活動できる限度があるからね。毎日は難しいんだよ」


「現実的な問題だった」


 けど、まあ、そりゃそうだよな。

 グラウンドでは他にも野球部とかサッカー部か活動しているだろうし、体育館ではバレー部やバドミントン部が活動しているはず。あればだけど。だとしたら、オフの日もあるか。


「気が向いたら練習とか見に来てくれていいよ。わたし、頑張ってるから」


 玲奈は力こぶを作るように腕を上げて、にししと笑った。

 その笑顔にはリストラされたサラリーマンでさえ一瞬で笑顔にしてしまうような明るさがあった。


「じゃあ、部活行くね」


 またねー、と手を振りながら玲奈が元気いっぱいに教室を出ていった。きっとあの調子の彼女がいるバスケ部はさぞかし賑やかなんだろうな。


「部活、か」


 俺もなにかに入ろうか。

 そういうこと全然考えてなかったな。けど、部活動といえば青春の一ページの代名詞と言っても過言ではないだろうし。運動部はこんな中途半端な時期に入ると邪魔になるだろうか、でも文化系に興味が唆られる部活があるだろうか。


 などと、ウキウキしながら考えていたけど、思考が巻き戻される。


「そうじゃない」


 部活のことは置いておいて。

 そんなことより、今は魔女のことを考えないと。


 なにせ、双葉の言っていたことが本当なのだとすると、彼女の命に関わる問題なのだ。手遅れになる前に、先手先手を打っていかないとな。


 双葉は呪いのせいで謝儀を受け続ける必要がある。

 だから休日を返上してボランティア活動をしているということか。

 どれくらいのペースで、どれくらいの謝儀を受ける必要があるのかは分からない。けど、感謝をされるということは困っているところを助けたり、悩んでいる問題を解決したりする必要がある。つまり、どうあっても相手依存なのだ。


 だから、もっといろんな悩み事が見つかれば良い。もっと言うと、こちらから探すのではなく、あちらから来てくれるような環境があればいいんだよな。


 そんな理想的な解決策があるとは思えないけど……。


「……あ」


 部活動だ。

 なんか漫画とかでも見たことがある。人のお悩みを解決するみたいな部活。そういうのがあれば、わざわざ探しに行かなくてもあちらから来てくれるのではないだろうか。最悪、来なかっても探しに行けばいい。手段は多いに越したことはないからな。


 こんなグッドアイデアを思いついてしまうとは、これは双葉に感謝されるに違いない。

 そう思い、俺はその日の晩の食事時に双葉に話してみた。


 すると。


「結構よ。言ったでしょ、私、学校では目立ちたくないの」


 と、一蹴されてしまった。

 せっかく考えたのになあ。


「けど、私のために考えてくれたことは感謝するわ」


 そう言って、双葉は笑った。






 その二日後。

 双葉は体調を崩して学校を休んだ。


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