目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第14話「動向」

 ディアパピーズへの帰り道、これからどう動いていくべきかを考える。

 初音さんは先生にも仕事として依頼したって言っていたし、最初に連携を取るべく情報のすり合わせはするべきだろう。


 ただ、ディアパピーズを放っておいて調査に乗り出すって言うのは取れない選択だ。

 その辺りの解決には鳴の協力が必要だろう、俺が自由に動ける時間を作るためにディアパピーズを任せなければならない。


「限度はある、だろうけど……どうしたもんかな」


 当たり前に鳴は学生だ。

 何なら議員を親に持つビップと言って良いお嬢様だし、時間の都合をつけろと言われても難しいだろう。


「人手不足、だなぁ。こんなことで困るとは思わなかったよ」


 単なるアンダーカバーだったはずなのに、この少ない期間でここまで無視でないものになるとは思わなかった。

 ちょっと前ならこれを煩わしいと思っていただろうに、今となってはこれも重要だと思える自分に思わず苦笑いが浮かんでしまう。


 ギンさんに言われたちょろいってのは、案外どころか正鵠を射ていたらしい。


「……土曜日の爺さんに稽古つけてもらうのを何とかするあたりが無難か。んでやっぱ22時以降の街を調査するなら夜型の生活にも慣れないとな」


 カイル君含めてうちにいる皆は賢いし、ご飯の問題さえ何とかなれば最低限大丈夫だとは思う。


「あとは、真紀奈との約束……というか取引か」


 相原さんのことに関しても考えておくべきだろう。

 いや、普通に生活してくれたなら何の問題もないだろうけど、ちょこちょこディアパピーズに顔を出してくれるし、妙なことに巻き込んでしまわないかが心配だ。


 鳴の友達らしく、彼女もお嬢様であることは間違いないだろうし、表裏関係なく何かに使われる可能性が無いとは言い切れない。それこそ鳴がそうだったように。


「いっそのこと、近い位置に囲ってしまえたのなら良いのかも知れないけど……現実的じゃねぇよなぁ」


 鳴とニコイチで考えられたのならとは思う。

 かといって本当にニコイチ扱いが出来るわけでもないよな、俺の裏の顔を多くの人に明かすわけにもいかないだろう。


「悩ましいところだな」


 いっそのこと相原さんに関しては初音さんに協力をお願いしてみるか?

 あぁいや、そんなことしたら後が怖い。フラットな関係と言うか間に先生がいるからこそ、強引な手を使ってこないだけだろう初音さんは。


 直接繋がっちまえばそれこそ問答無用でモノにされてもおかしくない。

 そう思ってしまうだけの迫力というか、凄味が初音さんにはあったんだから。


「まぁ、何にしても鳴に相談は必要だな。それ次第で――ん?」


 ディアパピーズが見えてきた、と同時に人の気配も中から感じる。


「鳴……に、相原さん? もう結構な時間だぞ? 遅くなるだろうしカイル君たちのご飯が終わったら帰っていいって言ってたんだけどな」


 スマホで時刻を見れば20時を過ぎたくらいだ。22時過ぎは歩ける外じゃないってのは知ってるだろうに。

 鳴はともかく、相原さんの家が何処にあるかは知らないけれど、こりゃ帰りは送った方が良いな。


「ただいま。こんな時間まで一体どうし――」

「長野様っ!!」

「あ! ちょっ!? 待ちなさい智美っ!!」

「え、あ、はい?」


 ドアを潜れば、何やら顔を真っ赤にしていた相原さんが詰め寄ってきて。


「わたくしを! ここで雇ってくださいましっ!!」

「え、えぇ……?」


 一体何が何やらって話をぶっちゃけてきた。




「で、だ」

「……あによ」


 ひとまず時間も時間だしと相原さんを家……というか、大豪邸まで送ってから。


「俺が留守の間に何があったんだよ」

「黙秘権を行使するわ」

「取り調べじゃねぇっての」


 カイル君と一緒に、鳴を家まで送っている途中でお話タイムである。


「じゃあ何があったとかは良いよ。相原さんは、その、なんだ。マジなのか?」

「多分どころか本気、だと思うわ。それこそ、代取の仕事より優先しても良いと思ってるんじゃないかしら」

「だいとり?」

「代表取締役の略よ。ロジータってわかる? ファッションブランドの代表取締役をしてるのよ、あの子」


 ロジータは知ってるけど、むしろ知らない人のほうが少ないだろう。

 って、あれ? 何か引っかかるな。


「ロジータ、知らない?」

「いや、知ってる、けど――あ」

「あ?」


 鳴が監禁されてた倉庫の持ち主がロジータ、じゃなかったっけ。

 ……え? いや、えぇ?


「マジでか」

「早くも二回目ね? でも、言葉を借りて言うならマジよ」


 多分鳴が言うマジの意図は俺が考えているのとは違うんだろうけど。


 ……マジ、かぁ。

 妙なところで妙な繋がり方をするもんだ。世間は狭いとでも言うべきかね? こういう繋がり方はほんっと勘弁してほしいよ。


「一応、フェアじゃないのはイヤだからちゃんと言うわ。雇ってくれるなら、色んな支援・・・・・も期待できると思うわよ。智美自身がそう言ってたというか、匂わせてたし」

「色々おかしいだろそれ。仮に雇うにしても、何で雇ってる側が養われることになるんだよ」


 面白くなさそうに、口を尖らせて言う鳴へと苦笑い。


「で? どうするの? 雇うの?」


 何を怒ってるのかはわからないが、とりあえずそのジト目は止めて欲しい。


 しっかし、ロジータの代表取締役、か。

 鳴は気づいていないみたいだけど、あの倉庫の持ち主が本当にロジータだと言うのなら、相原さんが認知しているかは別として、ロジータは裏社会と繋がりを持っているということだ。


 繋がっている先の組織規模はわからないが、多分。


「メリットが、大きいな」

「うん?」


 リスクに対するメリットが大きい。

 ロジータを洗うことで別の角度から裏社会を調査できるし、相原さんが何かに脅かされるかどうかもいち早く察知できる。


「鳴」

「な、何よ。きゅ、急にそんな目で見ないでよ、もう」


 微妙な繋がりのままでいるくらいなら、帰る途中にも思ったがちゃんと結ばれた方が良い。

 雇う以上雇われた人の身辺を確かめるのは、範囲にもよるけど普通のことだろう。

 俺の裏顔を明かせはしないが、そこは鳴が上手くやってくれるはずだ、何せ俺の助手なんだから。


「少し、探偵の方の仕事が忙しくなりそうでな」

「っ……何か、あったの?」

「先に言っておくけど、非治安区域に関してのことじゃない。一歩手前段階の話ではあるかもしれないけどな」

「そっか……はぁ、まぁそう言うことなら仕方ないわね」


 多くの意味で何が言いたいのか理解したんだろう。

 個人的な感情を加味している場合じゃないんだと、少しだけ困ったように笑って。


「わかった、これでもわたしは仁の助手だし。納得しておくわ」

「ありがとう。けど、相原さんとは友達なんだろう? なんでちょっと嫌そうなんだ?」

「嫌、というわけじゃないのよ。アンタが帰ってくるまでにこのわたし・・・・・もバレちゃったから、そうね、仁の言う通り友達だけど、うん。ライバル、でもあるから」

「ライバル?」


 思わず聞き返せば曖昧に笑って鳴は誤魔化すようにそっぽを向いた。


 ライバル、ねぇ?

 何だろうな、何か競争とかでもやってるのかな?

 二人とも社会的なビップには違いないし、社交界だなんだでの関係もあるのだろうか。


「言っとくけど。わたし、負ける気はないからね。智美にも、素子さんにも」

「はぁ? なんで素子が出てきたよ?」

「自分の胸に聞きなさい。ともかく、わかったわ。改めてディアパピーズに来るように言っておいてあげる」

「お、おう」


 意味不明加減が増したんだけど? いやほんとなんで素子が出てきた?


「安心しなさいな。ちゃんとアンタの探偵業に関しては隠すようにする。忙しくなるんでしょ? そっちに集中できるようにはしてあげるわよ」

「そりゃ、助かるけど」

「でも、そうね。条件が二つあるわ」

「条件て……いや、まぁそうだな、伺いましょうか」


 協力関係ってだけだし、これも取引の一つか。

 取引ばっかりで大丈夫かね、風呂敷ちゃんと畳めるかなと、若干不安になりながら指をふりふり得意げに話そうとする鳴を促すと。


「一つ、ちゃんと非治安区域に関することも調べること」

「あぁ。忘れてないから安心しろ、任せておけ」

「うん、ありがと。そして、もう一つ」


 そこで鳴は勿体ぶるように溜めて、何故か頬を少しだけ赤くしながら。


「わたしのこと、もっと大事にするように!」

「え? い、いやこれでも――」

「うるさいっ! ちゃんと約束する!」

「え、あ――ちょ、ちょっと待て! 大事にしろって言った相手が一人でさっさと行くなって!」


 これでも結構大事に想ってるんだけどな、なんて言う前に鳴はずんずんと先に歩いて行ってしまった。


 何だろうね、これは。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?