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第24話「初志活力」

「新選組の人たちってみんな美形なんだな」

「え、えぇそうね。漫画だし、ちょっと大げさにしてるところもあるとは思うけど、そういうものよ」

「そういうもんか。それとさ、何でこんなこいつら距離が近いんだ? これなんてちょっと間違えたら口が――」

「そういうものなのよっ!! 悪いっ!?」


 そ、そんな顔を真っ赤にして怒鳴らなくても。

 ちょっと疑問に思っただけじゃないか、別に悪いとか思ってないっての。


「それより! アンタが知りたそうなことはあったの!?」

「な、何を急にそんな起こってんのかわからないけどちょっと落ち着けって。なんか悪かったよ」

「わからないなら謝るなっ!」

「お、おう」


 新選組とやらが登場している漫画を数種類借りれたのはよかったし、なんだかんだ色々気になることはあっても、今の漫画ってこういうものなのかと楽しめたのも良かったわけだが。


「剣戟シーンとかがおまけもおまけな扱いだったから、なぁ」


 やったら美形な新選組隊士たちの友情物語だとか、とある現代に生きる女の子が幕末にタイムスリップして新選組隊士たちに可愛がられる話だとかだったし。

 面白かったは面白かったけど、狼についてを知るという参考になったかと言えば微妙ってのが正直なところだ。


「ったく、そういうの、先に言いなさいよね」

「そうだな、俺も先に言うべきだったと今思うよ。でも漫画を読むなんて小さい子供の時以来だったし、テンションあがっちゃって」


 素子が基本的に本を読まなかったからなぁ、漫画にしても小説にしても家にそういったものは一冊もなかった。

 温泉地の特集雑誌とか、旅行雑誌とかはあったんだけども、ありゃ本は本でもちょっと違うだろう。


「でも、ありがとうな、出雲鳴」

「何よ急に」

「参考になったならなかったは良いんだ、単純に楽しかったよ。細かいところとかをわかったなんて言えないかもだけど、面白いとも思ったし」

「うぐっ……」


 急に無い胸押さえて何にダメージを受けてんだこいつは。


 しっかしどうするかな。

 新選組、というより壬生浪士組は激動の時代を波乱万丈に生き抜いたことはよく、とまでは言わないがなんとなくわかった。

 同時に、壬生の狼なんて呼ばれていることに対して俺自身が、これも狼だ・・・・・と納得に近い何かを感じているところがある。


「多分、方向性は合ってると思うんだよな」


 だからこそ先生はフェンリルだなんだと口にしたんだろう。

 確かに神話上のあり得ない能力なんてものを身につけられたならと思うが、あんまりにも現実味がないから想像できなくて逆に難しい。


 想像力が豊かである自信や自負なんてない。

 それでもやっぱり神話だなんだを参考にするよりは、こういう人間の方が想像しやすいのは確かだ。


「なぁ、出雲鳴」

「はいっ!? やっぱり近沖が最強で鉄板だと思うわ! リバは許さない! でもでも可愛がられるっていうのならわたしはクールな斎藤様に――」

「何言ってるんだ?」

「――忘れなさいっ!!」


 忘れるも何も、あぁいやうん、睨むな睨むな。


「ともあれ、何で新選組、いや、壬生浪士組は狼なんて呼ばれたんだ?」

「ん? んー……所説ある、わ。壬生の狼なんて呼ばれたのは後世で出た創作上の話だって意見もあるし」

「創作上、ねぇ」


 神話も信じてない人からすれば創作と思われて仕方ないだろうし、それはいい。


「ただ、壬生浪士組は各地の浪人が集まってできた組織であることに違いはないはずで、身なりもボロボロ、武士だなんだなんて風貌からはとても想像できなかったはず。だから蔑称として狼と揶揄されてもおかしくはないと思うわ」

「蔑称として狼が使われたのか」

「アンタとしては面白くないかもしれないけど、時代も時代だからね。あえてド底辺を意識させることで、よりドラマチックに名をあげる様を描写しやすかったとも言えるかもしれないわ。成り上がりって、お話としては爽快感があるし」


 わからなくもない、ってところか。

 俺よりこういう創作物へと触れている出雲鳴が言うならって部分はあるが。


「ともあれ、事実として言えるのはそうね、底辺を這うような身分の浪人が自分の剣術一本でのし上がるために集まって群れとなり名を挙げた。ここは多くの話で共通して取り上げられてるし間違いないと思うわよ」

「なるほどね」


 あるいはそうして群れていく様も狼として捉えられたのかもしれないな。

 そういうところなんだろう、俺自身も狼として新選組を捉えて納得できたのは。

 じゃあそんな新選組から何を学ぶのか、だけど。


「新選組って優れた剣術家、っていうのか? 剣客集団なんだろ? 何か剣術に関する逸話とかってないのか?」

「そうね、やっぱり有名なのは沖田総司、かしら? 剣の天才って言われていて15歳の時に師匠の腕を超えていたそうよ」


 剣の天才なぁ。

 流石に俺に剣というか刀の才能なんてないだろう、そもそも手に入れられないだろうし。

 あー、いや、初音さんに言ったら用意されそうで怖いな……。それはともかく。


「そこんとこ詳しく」

「え? そ、そう、ねぇ。沖田総司と言えば三段突きかしら? 無明剣なんて言うそうだけど。こっちはネットで動画を探した方が分かりやすいと思うわ」

「三段突き、無明剣な。わかった、ありがとう。調べてみるよ」


 仮に刀が手に入って練習すれば、なんて悠長が過ぎる。

 ならこれぞまさに、稀人としての俺がどうにかできないかというところ。

 試してみる、価値はある。


「何? 三段突きの練習でもするの?」

「近いけど、そういうわけじゃないかな」

「じゃあ沖田さ――沖田総司みたいになりたいとか? ぷっ、やめときなさいアンタには似合わないわ。どちらかと言えばさいとう……うん? 忘れろぉっ!!」

「意味わかんないっての!? あーもうっ! ぼちぼち素子の病院に行ってくるからあとは任せたからな!」


 ぎゃーぎゃー何を騒いでいるんだかわからないが、さっさと行くとしますかね。いや、逃げてねーし。




 毎週日曜日の午後は素子の面会へとやってくる。

 本音の部分を言えば毎日どころかずっと傍にいたいと思うんだけど。


「お疲れ様です、長野様」

「い、いや、その。来たくて来てるだけ、ですし。こっちこそお世話になっています」


 来るたびに病院のお偉いさまがやってくるのはどうにかして欲しい。

 出雲鳴が俺と素子のことをどういう風に伝えたのかわからないが、このVIP扱いは正直たまったものではない。


「とんでもありません。お姉様の容体は変わりない、と言わざるを得ないこと申し訳なく思います」

「や、やめてください。ほんとに俺は感謝しています。素子だけじゃなく稀人の俺にも親切にして下さっていますし」


 自分で言って悲しいが、疎ましがられるということに慣れてはいるんだけど。

 こんな丁重に扱われるのは正真正銘初めてで、ものすごく気まずいんだよ。


「ありがとうございます。何かお困りごとがございましたら、いつでも気軽に申し付け下さいね」

「は、い。ありがとう、ございます」


 ただこの病院関係者さんは上も下も問わず、俺を通して出雲鳴、あるいは出雲議員を見ている。

 ある意味それこそが居心地悪く思ってしまう最大の原因かもしれないが、気にしても仕方ないんだろうな。


「お互い様、っていうか。持ちづ持たれずってことなんだろうな」


 素子の病室に向かいながら考える。

 裏社会のことも大概まだまだ理解していないが、表社会のことだって全然わかっちゃいなかった。

 こうして大人の世界、その一端でも味わってしまえば自分がまだまだ世間知らずの域に在ることを自覚してしまう。


 あるいは、だからこそなのだろうか。

 素子が自分の仕事に関することを俺に一切話さなかったのは。


「頼ってくれ、なんて言ってたのを恥ずかしく思うことになるとは、なぁ」


 世間知らずのガキが何を偉そうに。

 そんな風に今までの自分を思ってしまう。

 けどこの想いに嘘はないし、恥ずかしく思っても揺るぎない想いで願いだ。


「――ただいま、素子」


 病室の扉を開ければ、やっぱりチューブに繋がれた素子がベッドで眠っている。


 あぁ、そうだ。

 ここ・・が俺のいる場所で帰ってくる場所だ。


 少し瘦せてしまったか、以前ほどぷにっとしなくなった頬を撫でる。


「今日も色々、話したいことがあるんだよ。聞いてくれな? 素子」


 明日からも、頑張るから。

 頑張るための活力、充電させてくれな?

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