病院を辞めろと幽霊たちが口を揃えるので、転職を検討することにした。とはいえただでさえ多忙な業務の合間に、新しい職場を探して応募するのも大変だ。医療と全く関係のない職場にいくと、面接官は口を揃えてこう言う。
「せっかく心理士の資格をお持ちなのですから、医療機関に勤めたらよろしいのではないですか」
これを言われた時点で、不採用は確定だ。
さらに別の応募先では、
「ひょっとして、僕の心も見抜ける? どんな性格だと思う?」
面接に来たのに、なぜかカウンセリングをする羽目になった。私が採用担当を面接してどうするんだ。あべこべだ!
不採用にした者たちが口を揃えて「医療の資格を活かせる場所に行きなさいよ」と勧めるので、障害のある子供たちのデイケア施設に応募した。これらの施設は現在、死亡事故等が問題になり、度々ニュースで取り上げられている。嫌な予感がしつつも応募したが。
「どうして精神科をおやめになりたいの? トラブル?」
変な勘ぐりをされてしまった。
「精神科の院内薬局、それも調剤助手でしょう? 厳しいことを申しますけど、そこでも難しいと感じたのなら、うちで勤めるのは無理ね」
調剤助手は直接患者と関わらない。精神科の中でもとりわけ楽な職場にいたのに限界を感じるなんて「その程度の人材は求めていない」と遠回しにはねられたようなものだ。
「転職活動……辛い……キツい……」
転職活動は難航を極めていた。
中庭のベンチでお昼を食べたあと、スマホで転職サイトの情報を漁る。だが良さそうな募集が見つからない。
「やめた、やめた。今のまま、この病院で頑張るわ、私」
「いや……早く辞めた方がいい」
隣に座るアップルさんの言葉に、苛立ちを覚えた。
「そんなに私を辞めさせたいなら、打開策を見つけてちょうだい。逃げ道も用意されていないのに、逃げろというのは反則よ」
「吉楽の命に関わるんだよ?」
「大げさに
アップルさんは黙った。ほらね、大事なこととなるとだんまりなんだから。
「溜まっていた仕事があるし。ちょっと早いけど仕事に戻るわ」
「吉楽、怒ってる?」
「これが楽しそうに見える?」
「いいえ」
アップルさんは私から少し距離をとって後ろを歩く。地下の一件のようなことがあるので、離れられるよりも良いけれど、この微妙な距離感、なんだかもやもやする。私に嫌われたとでも思っているのかしら。
「おや、喧嘩かい?」
四階と五階をつなぐ踊り場で、ニカさんとすれ違う。
ニカさんの隣にいる人物を見て、ぎょっとした。
――クリーニングルームのおじいさん!
「ニカさんに聞いたよ。あんた、見えるし聞こえるんだって?」
おじいさんはにやりと黄ばんだ歯をのぞかせた。
【つづく】