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第14話 現実主義は、心の防波堤

「あら。エドワードさんはポルターガイスト得意でしょ」


 ニカさんが、私たちの座るベンチの後ろに立っていた。


「私、何度か見たわよ。アップルさんのポルターガイスト」

「ニカさん、そこんとこもっと詳しく。うちの守護霊が、どこでなにをやらかしたんですか」

「ニカさん! 言わないでください! 一生のお願いです!」

「死んでいる人が一生のお願いってなによ。ニカさん、教えて!」

「死人のお願いです! 言わないで」

「私はどっちにつけばいいの? エドワードさん? 吉楽さん?」

「女性の味方になってください!」

「守護霊の味方になってください!」


 ニカさんは「やれやれ」と苦笑い、私とアップルさんを交互に見た。彼女は果たしてどちらにつくのか。


「どっちについても味方を失いそうだから黙秘するよ。死んだ私とまともに話してくれるのは、二人だけなんだ」


 ニカさんはベンチの空いたところに腰を下ろした。


「吉楽さんに一つだけアドバイス。貴女あなたはもう少し、自分に自信を持った方がいいよ。貴女は人気があるんだから」

「私が? いやいやそんな馬鹿な。それならもっとこう、アプローチがありそうなものじゃないですか。告白されたり、デートに誘われたり。今までそういうのと縁が無かったんですよ」

「たくさん告白されて、デートに誘われたから、モテているというのは間違い。吉楽さんは、思いを胸に秘めるムッツリタイプに好かれやすいんだね。たとえばエドワードさんみたいに」

「エドワードさんが? 思いを胸に秘めるタイプ?」

「ほら、エドワードさんのふてくされた顔を見てみなよ」

「別に。これがいつもの顔ですよ」


 アップルさんは腕組みして、ぷいっと顔を背けた。


「お言葉ですが、ニカさん。私の隣に座る守護霊は、猥談と皮肉が大好きで、人をからかうのが生き甲斐ならぬ死に甲斐の、ふざけた性格ですよ。死に字引として、創作に役に立つ情報もくれますけど、好きだとか愛してるとか言われたことはありません」


「素直じゃないねぇ。そういうところだよ、エドワードさん。そんなつれない態度じゃ、吉楽さんを誰かにとられちゃうよ」


 アップルさんはガクッと前屈みになり、深い溜め息とともに肩を落とす。


「嫌……です。吉楽きらを誰にもとられたくない」


 聞き取れないくらい小さな声だった。


「幽霊なのに独占欲だけはあるんだから。かっこ悪いよ、エドワードさん」


「どうとでも言ってください。俺はその……吉楽きらがくだらない男と付き合わないか心配だっただけですから。恋の傷はなかなかえないものですし。大体、俺以上の運命の相手がいると? そりゃ死んでますけど!」


 ――大した自信だわ。こんなに自己主張の強い守護霊がいるのね。


「私は小説に恋をしているから、誰かと付き合う余裕はないわ、アップルさん」

「ほ、本当?」

「もちろん幽霊と愛し合う予定もないけれど」

「ガーンッ」

「私はね、リアリストなのよ」


 幽霊に恋をしても、傷付くことは分かっている。アップルさんの優しさも博識さも理解しているけれど、このまま私の霊感が消えることなく、付き合いが長くなって「愛や恋」に変わった時が辛い。現実主義は自分を守る為の盾であり、心の防波堤なのだ。


【つづく】


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