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第13話 口をすべらせた守護霊

 宗教ごとに輪廻転生の概念は異なる。前世退行療法の施術者はしばしば、宗教的理由で「前世」を認めない集団から非難されることもある。なぜ寛容になれず、排他的行動に出るのか疑問だ。日本のライトノベルは「前世」がキーワードの西洋風小説が出回っている。あれらも全て弾圧対象になるのだろうか。


「前世はあるよ。間違い無く存在する」


 守護霊アップルさんは断言した。そもそも「前世」と最初に口走ったのは彼なのだ。


「どうして貴方あなたの魂は生まれ変わらずに、私の隣にいるの?」


 ある晴れた日のお昼休み、いつもの中庭で私はアップルさんに訊ねた。


「ノーコメント」

「なんで?」

「霊界的事情です。いろいろ規定があるんだよ」

「なんだか会社みたいね」

「まぁ……そんなとこ」

「生まれ変わって私ともう一度恋人になりたいと思わなかったの?」

「えっ」

「前世で恋人同士だったのでしょう?」


 夢で見たことが本当なら、私とアップルさんは幼なじみだったようだ。けれども私は物語を書く人間である。「既婚者のマウント取り」に疲れ果てた私の無意識はこう考えたのではないだろうか。


『誰か、ステキな人と結婚できたら、独身だからとなめられることもないのにな。もういっそ、恋人が幽霊でも構わないよ』


 無意識が一つの物語を頭の中で作り上げ、幻を見せているのかもしれない。


「私が別の人と恋し合ったら、貴方あなたは離れてしまう?」


 答え次第によっては、この幻は消えてしまうかもしれない。一線を越えた質問だということは分かっていた。


 ――けれど彼は守護霊だから。


 君の幸いを祈るとか、君が愛する人を見つけたのなら、と言うだろう。今、頭の中に浮かんだ言葉を、アップルさんが私の目の前で唱えたのなら「妄想と幻視」確定だ。私は私の頭の中で、現実と架空を織り交ぜている、と。


「その言葉だけは……吉楽の口から聞きたくなかったなぁ」


 なんとアップルさんは私の隣で、大粒の涙をぼろぼろこぼし始めたのだった。幽霊の大泣きなんて予想外。妄想の域を超えている。やはりこれは幻ではなくて本当に……。


「吉楽。もしかして……好きな人がいるの?」

「いや、いやいや、いないから」

「嘘だ。好きな人いたじゃん。チョコレートあげようとしたじゃん。めっちゃチビを好きになってたじゃん、日焼けしたサッカー部のガキを目で追ってたじゃん。そして全部失恋したじゃん!」

「ええそうよ、全部片思いで玉砕したわ!」

「だって俺が邪魔し……ハッ」


 アップルさんは両手で口をパッとふさいだ。


「邪魔? 今、俺が邪魔した、って言いかけましたよね?」

「言ってないよ? 吉楽の聞き違いだよ」

「いいや。言った。つまりなに? 今まで私の恋路こいじにことごとく邪魔が入ったのは、貴方あなたが関わっていたということ?」

「誤解です。自分は守護霊です。常に貴女の最善を指導する立場です」

「アップルさん、口調が変わっているわよ?」

「だ、大体、守護霊がどうやって恋路を邪魔するっていうのさ」

「ポルターガイストとか?」

「そ、そんなのできないよ」


 ――怪しい。目が金魚のように泳いでいる。


「あら。エドワードさんはポルターガイスト得意でしょ?」


 ニカさんが私たちの座るベンチの後ろに立っていた。


【つづく】


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