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第4話 外ではスーツ、家では全裸?

 お酒が体内で分解されるまでの時間は、種類によって違う。日本酒は血中アルコール濃度が下がるまでに、かなりの時間を要すことで知られる。対して麦酒は四、五時間と言われているが、酔いが醒めたと勘違いして飲酒運転で逮捕される人は数知れない。


「もう、酔いは醒めたはずなのだけど」


 ――なんだかとても長い時間寝ていた気がする。


 食欲が無く、身体に気だるさはあるが、意識は明瞭だ。寝台脇のデジタル時計には【7月8日 9:00】と表示されていた。今日は日曜日。休日出勤の無い日で本当に良かった。


「アップルさん。そこで何をしているんですか」

「何って……添い寝? 心配で」


 状況を改めて確認しよう。


 食あたりで昨夜から寝込んでいた私が目を醒ますと、となりに外国人が寝ていた。


 昨夜病院で見たもの聞いたものが夢ではないのなら、この外国人は「エドワード・アップルレード」という変わったお名前なのだそうだ。


 英国人であった彼は「前世の私の恋人で、守護霊だ」と自己紹介した。そこまでは私の頭が生み出した妄想、もしくは極めて突発的に始まった精神疾患として、問題は隣に寝転がっているこの幽霊の容姿だ。


「なんで半裸なんですか」

「服着て寝るの、暑くない?」

「なぜ肉体が無いのに五感があるんですか」

「神のみぞ知る」


 神に回答を任せて、逃げたな。


「脱いだ服はどこにあるんですか」

「ん~、守護霊の五次元ポケット的な?」

「オカルトなの? SFなの? ごちゃ混ぜ禁止です。目のやり場に困るから早く服を着てください」

「はいはい」


 もういいだろうと振り返ると、まだ半裸。パンツ一丁だ。


「半裸禁止! 外国人なら、パジャマを着てくださいよ」


「なんで日本人は夏にもパジャマを着るの? 英国紳士だって、外ではスーツ、家では全裸なのに」


「ここは日本です!」


 枕をつかんでアップルさんに吹っ飛ばす。けれども私の枕は彼の身体をすり抜けていった。


「全裸じゃなくて俺は半裸! まだ、まともだと思わない?」

「思わんわい。添い寝を許した覚えもありません」

「つれないなぁ。前世ではお互い、ありのままの姿で……」

「そんなの憶えていません」


 調子に乗ったアップルさんの下ネタをスルーする。


「ああもう、私ったらなんで幽霊と会話しているの? 守護霊とか、前世の私の恋人だとか、信じられるもんですか。はたから見たら、私はひたすら宙に話しかけている変な人だし」

「自分をメタ認知するって、本当に大切なことだよね」

「なんで貴方がメタ認知なんて心理学用語を知っているんです?」

吉楽きらと一緒に勉強していたからさ。守護霊としてどこへでも同行していたからね」

「まさか私が学生の頃からずっとそばに?」

「そんなとこ。でも正直……医療従事者は吉楽きらに向いていないと思うよ。それはずっと前から思っていた」


 嫌なことを言う。この幽霊は本当に嫌な男だ。


「向いていないなんて簡単に言わないで。貴方が悪魔か幽霊か分からないけど、とにかく私のそばから消えて! 出ていってください!」

喉元のどもと過ぎれば熱さを忘れる。二度あることは三度ある。やけ酒と、食あたり。この悲劇を二度と繰り返さない為に、これまで通り、君のボディーガードを務めさせてもらう」

「幽霊に何ができるの? 私を助けたのは救急隊員よ!」

「まぁまぁ、そう言わず。これでも役に立つんだから」


 嘘だ。私の眉間に力がこもった。


「今までも、結構影ながら、君を助けてきたんだけどなぁ。見えて聞こえ始めたらこれなんだから」


 アップルさんは、困り顔で肩をすくめた。


【つづく】


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