やけ酒に至った
私は【クロサギ精神科病院】の院内薬局に【
そもそも私は、この精神科の【児童のケアサービス職員】に応募したのだ。学校に通えない子供たちに勉強を教えたり、悩みの相談を受ける者である。応募要項には「心理士の資格を有する者」と書いてあった。
「
電話口で人事部長にそう告げられた。心理臨床の世界は「経験」が物を言う。どれだけのクライエントと
「
心理臨床では患者のことを「クライエント」と呼ぶ。これは「クライアント」が
――でも、私は落選なんでしょう?
「
それが院内薬局の
心理学を何も活かせない職種を勧められたことに抵抗はあったが「面接時の印象が大変良かった」という言葉は私の心を揺さぶった。とりあえず話だけでも聞いてみようということで、再び病院を訪れた。
「ここだけの話、
驚いた。落選した場所に、まだ私の希望があるのか。
「今後のことは未定ですが、
うまい話には裏がある。薬室に採用が決まったが、すぐに【現実】に直面した。なんと薬室にいた先輩の調剤助手も【新婚】で「子供を望んでいた」のだ。
「妊娠二ヶ月目でしたぁ~」
先輩助手の村井さんは、私が薬室に入って三ヶ月目に妊娠が分かった。これは単なる偶然だろうか。
「貴女のような独身が入るのを待っていたのよ。貴女がいれば、私は安心して子供を作れるわ」
直接そう言われたわけではないけれど、顔に本心が書いてあった。
「
既婚女性のマウント取りほど醜いものはない。なんでみんな同じことしか言わないのだろう。結婚したらそんなに偉いのか、子供を身ごもったら神なのか。これ見よがしに結婚指輪をこちらへ向けるの、やめろや。
――児童ケアに異動したい。でも、お声がかからないことには。
もやもやしていると、院内でこのような会話を偶然聞いてしまった。
「そういえば、児童ケアの春川さん、妊娠したって」
「新しい人を募集するって聞いたよ」
――私が優先的に配属じゃなかったんかい!
最初から私を空き枠に入れるつもりはなかったのだ。醜い感情が生まれては爆発寸前だった。
――いや、落ち着け。こんなことで心を乱してどうする。
自分の感情を制御できなくては心理士として形無しではないか。
――迷った時には酒だ! 今夜は美味しいのを飲むぞ!
魚にあたったのは、想定外としか言いようがない。
「だから、この時期に
外国人の幽霊は診療台に頬杖をつき、溜め息を吐いた。
【つづく】