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著者後書き

 皆様こんにちは。碓氷シモンです。


「マルベリーの木の下で、あなたはわたしの全てを奪う」(以下、マルベリー)は、これにて完結となります。

 たくさんの応援ありがとうございました。今はまず無事に完結できたことにほっとしています。


 実はこの作品は当初、公開するのを迷っていました。

 なぜならば、異世界恋愛のジャンルは今、溺愛ブーム真っ盛り。それに対してこの「マルベリー」は、そういった要素が皆無です。令嬢も王太子も婚約破棄も出てこないし、それに何よりハッピーエンドではありません。果たして受け入れられるだろうか……不安でいっぱいでした。


 ところがいざ公開してみると、予想以上にたくさんのPVや応援を頂きました。溺愛ハッピーエンドだった前作(「導く者に祝福を、照らす者には口づけを」)と比較すると、さすがにPVは半分程度ですが(これはそもそもの話数が半分程度のボリュームだからだと思われます)、★はほぼ同数、♥に至っては倍です。これは嬉しい驚きでした。改めて感謝申し上げます。※完結時のデータです。現在カクヨムでは本作は非公開となっています(2025年2月追記)。


「マルベリー」は架空の国を舞台にしたヒストリカルロマンスですが、史実としては第一次世界大戦(1914-1918)とそれ以降のドイツの混乱をベースにしています。


 その中で今回、私が描きたかったのは一言で言うならば『滅びの美学』でした。


 西洋史がお好きな方なら共感して頂けるかと思いますが、第一次世界大戦はそれまでのヨーロッパの価値観を大きく覆すものでした。多くの国で革命が起き、国の在り方が変わり、数えきれない悲劇が生まれました。サライェヴォでの皇太子夫妻暗殺やロマノフ家の最後など、列挙のいとまがありません。そしてこの時のドイツの敗戦がやがてナチスの台頭と第二次世界大戦に繋がっていきます。その滅びゆく古き良き時代の中で、市井の名もない人々はどんな日々を送ったのか、を私なりに考えているうちにこのストーリーが頭に浮かんで来ました。ですから最初からハッピーエンドは全く考えていませんでした。


 けれど実際に書き始めてみると、これは相当に大変でした。本当はエレノアと復員してきたヴィルヘルム(リヒャルト)の絡みや疑惑のエピソードはもう少し詳細な内容にしたかったのです。でも残念なことに、自分のメンタルがもちませんでした。そこは少し後悔が残ります。


 その反面、キャラクターに関しては満足いくものになったと感じています。


 参考までに、構想段階のプロットから変更された部分を書いておきたいと思います。


 まず、当初ヴィルヘルムは腹黒キャラでした。弟に劣等感を募らせ、強引にエレノアを奪い、そのせいで殺されてしまう、そういう人物で考えていました。

 ちなみに、当初考えていたヴィルヘルムがリヒャルトに殺されるきっかけのセリフはこうです。


「子供の頃から何をやってもお前には敵わなかったけど、男爵家を継いだのは僕だ。それに何より、お前が一番大切にしていたエレノアを僕は奪ってやったんだ。どうだ、悔しいだろう? ざまあみろ」


 ……嫌なヤツですよね?


 でも書き進めていくうちに、なんとなく違和感を感じるようになりました。えー、こんな性悪男をエレノアが愛するだろうか? それにこのキャラだとヴィルヘルムは殺されて当然の存在になってしまう。それでは『滅びの美学』から外れてしまうな、と。それで最終的にヴィルヘルムはとことんいい人にしました。だからこそエレノアはヴィルヘルムと結婚することを選ぶし、彼を愛したことでリヒャルトへの罪の意識に苦しむ、そのほうが悲劇性が高まると思ったのです。


 それから、一番大きく変更したのはリヒャルトの死に方です。

 拳銃で自殺、は変わっていませんが、当初はリヒャルトがヴィルヘルムになり替わって全てを片付けて、マクシミリアンを首都の音楽学校に送り届けた後、崖の上のマルベリーの大木の下で自らの命を絶つ、という構成で考えていました。ですが、それだとあまりにマクシミリアンが可哀想だな、と思い始めて、それで最終的に新大陸に行ってもらうことにしたのです。……韓流ドラマでよく見る、アメリカに留学していなくなるパターンですね(笑)。これに関してはどちらがより読者の皆様の心に残ったか、機会があれば訊いてみたいと思っています。


 この「マルベリー」に関しては、外伝やスピンオフを書くことは考えていません。これで完全に終わりです。そして、「大陸の恋三部作」のVer.3 に物語は移ります。今のところまだ大枠しか固まっていませんが、舞台はおよそ15年後のローレンシアで、「導く者」と「マルベリー」が繋がる予定です。とは言え、しばらくはまた幽体離脱です(笑)。資料もVer.1 とVer.2 の比にならないレベルで必要でしょうし、何より自分自身がガス欠で、今はエネルギーが足りません。それほどこの「マルベリー」はまさに血肉を削って書いたのだな、と、今になって実感しています。


 ただ、いつ、どういう形になるかはまだ未定ですが、三部作は必ず完成させるという意思だけは固く固くありますので、皆様気長に待って頂ければ幸いです。


 長くなりましたが、最後に改めて読者の皆様の応援に心からお礼を申し上げます。

 新しいエピソードを公開するたびに皆様が寄せて下さるコメントに、本当に励まされました。救いのほとんどないバッドエンドを心折れることなく書き切れたのは、皆様の後押しがあったからだと思っています。ありがとうございました。


 それでは、次回作でまた皆様にお会いできることを楽しみにしております。



碓氷シモン






※最後におまけ的に私のインスピレーションの源をちょっとだけ紹介させて頂いてます。ご興味ありましたら次のページをご覧下さいませ。


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