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第42話

 千枝さんから心配されつつ、僕は相手方の心情を知るべく約束の時間にログインする。

 アバターネームはアッキーとした。

 その方がカッちゃんにもわかりやすい。ただ、奥さんの名前と丸かぶりだ。

 向こうが僕と分かればそれでいいので髪型や髪色はムーンライトからかけ離れたものにする。顔は特別いじるほどでもない。

 それだけでわかる人には分かってしまうものだが、そこであえて身長を低くする手段をとった。

 景色が違うだけで普段通りにことが運ばなくなる。

 これでいいだろう。どうせ普段通りするつもりはないからな。


 場所はセドーイの街のログインスポット。

 ニャッキさんご自慢の噴水と、僕が仕込んだスライムの毒電波が怪しく彩るちょっとした広場。

 茶豆さんが端材で作ったベンチに腰掛け時間を潰していると、対象人物だろう三名が現れる。


「よう、来たな」

「アッキーか? 身長が縮んでいるようだが」

「ゲームの時くらい違う体格で遊んで見たいものだろ? そういうカッちゃんこそ普段よりだいぶ身長盛ってるじゃないか。お互い様だろ?」

「う、ううううるせー。ちょっとした願望だばかやろー」


 戸田克幸旧姓三葉ことカッちゃんは、当時からチビだのチョロ松だのと呼ばれていた事を今の今まで気にしていたらしい。

 背は163㎝あるが、170㎝は欲しかったそうだ。

 対して奥さんは大和撫子を思わせる容姿にそぐわぬ165㎝。

 奥さんの方が微妙に大きいのを、式で彼は髪型を上に伸ばすことで僅差で勝ってる事を式場に来た全員に意識づけた。

 あの奇抜な髪型は彼のちっぽけなプライドを満たすためだったのだ。


 その横でくすくす笑う女性が奥様のあきさんだろうか?

 アバターネームはオーたんと変化球を投げてきた。

 もしや季節の秋のオータムから取った?

 互いに変なあだ名で呼び合うカップルだったのだろうか?

 いや、詮索はするまい。


 それよりも香ばしいのが先輩だったからだ。

 筋骨隆々でありながらモヒカンヘッド。

 目元に星のマークを入れてまるで世紀末に出てくる悪漢だった。

 アバターネームはクロード。

 なんかでどこかで聞いたことあるな?

 これも詮索はやめておこう。厄介ごとに首を突っ込むのは僕の悪い癖だな。


「それで何すればいいんだ、このゲーム?」

「それは勿論、調べてきておりますよ」

「お、流石だなあき」

「こちらではオーたんでお願いしますね」

「お、おう。オーたん?」

「はい、カッちゃん」


 以降、名前を呼び合う儀式が始まった。

 なんとも異様な光景である。

 まるで付き合いたてのカップルのようだ。

 この二人が結婚しているだなどと誰が思うだろうか?


「お前は、アッキーはこのゲームに詳しくないのか?」

「噂だけは聞きますが、なにぶん競争率が激しいもので。買いに行くとだいたいログイン枠が埋まってるんですよね。こればかりは予約制なのでゲームのソフトを購入してもどうにもなりません」

「そんなに人気なゲームだったのか」

「今のところ90万人しかログインが許可されてないみたいです。今回僕たちは誰かが権利を放棄した場所に滑り込みで入れたようですね」

「詳しいな?」

「これに至っては他のゲームでもよくあることです。クロードさんはPCゲームをされたことは?」

「ない」

「そうですか。当時からあるシステムですのでそちらで回答を代用しようと思ったのですが、要はあまり大勢の人数を入れるとシステムの誤動作を起こす心配がある、というのが一つ」

「ふむ、同時に複数のことをさせると処理が重くなる感じか?」

「ええ、実際にログインしてわかりましたが、風の運んでくる匂いや、土を踏んだ感触、そして水の冷たさ、味。どれをとっても現実から一歩も引けを取りません。これらの処理を邪魔されたくないからこその人数制限ではないか? と僕は懸念します」

「成る程、的を射ている」


 親友夫婦が惚気から復帰するまでPCゲームの話題で話をしつつ、旅行会社の娘であるオーたんの行きたい場所を教えてもらう。


「まずは猛毒茶屋! これは外せません」

「えっ」


 オーたんの申し出に固まる僕たち。

 中でも声を出して否定したのはカッちゃんだった。


「茶屋なのに猛毒ってついてるぞ! そんなの口に入れて大丈夫なのか!?」

「大丈夫だから経営許可が降りてるんではありませんか。今回開始直後のゲーム内マネーでは心許ないので追加でコインを課金しております。NAFの料理を心ゆくまで堪能できますね!」


 この子、どこまで知っててそんな申し出を?


「いらっしゃいませー! 四名様ですか? 席にご案内いたしますね!」


 今日も元気いっぱいのミーシャが僕とは知らずに案内に精を出す。

 席は割と埋まってる。ここの常連になるやつなんて僕か、または毒の耐性を持つ者、毒耐性を金で購入したものくらいである。

 殆どが後者で、オーたんもその一人だった。


「可愛いアクセサリーですね。ねぇあなたこれを買っていきましょうよ!」

「ん、毒耐性付与? そ、そうだなじゃあ一番効果の高いやつを選んどこうぜ。大は小を兼ねるってな!」


 甘いなカッちゃん。このゲーム、大は小を兼ねないんだ。


「俺も二つ程いただこうか。この銀細工、見事なものだ。付与無くしてでも常用したい」


 先輩は先輩で銀座行くに一目惚れって感じで品を選んでいる。

 普通はそれで合ってるはずなのに、このゲームではあまりみない取り合わせ。果たして選んだそれらで対処できるものか。

 僕は適当に何個か選んで闇鍋を楽しむとしよう。

 なまじ一人だけ100%を選ぶのもアレじゃない?


 因みにアクセサリーの購入で随分な代金となった。

 初期ゲーム内マネー5,000に対し、出費は一人頭50,000〜70,000。軽く十倍である。


 席に通された後、早速メニューを選ぶ。

 ここも純喫茶アルバートに毒されてか、最近流行りの☠️を取り入れたみたいだ。


「あなた、☠️の数が多く成る程美味しさが増すそうですよ!」

「いや、死ぬじゃんそれ。絶対死ぬやつじゃん」

「なんと初めてすぐは死んでもその場で復活キャンペーンだそうです。これでしたら安心ですね!」


 カッちゃんは目だけで僕に救援要請を出してくる。

 安心しろ、味はいいんだよ、味は。

 死ぬし、苦しむがキャラロストまではしない。

 そこは保証するからさ。


「お待たせしました! あんみつをご注文のお方は! はい、どうぞ〜」


 ミーシャからの丁寧な配膳によって僕たちの前に毒物が現れた。

 オーたんはスイーツを前にした女子特有の笑み。

 対してカッちゃんは「死にたくない、死にたくなーい」とこの期に及んで震えている。普段の威勢の良さはどうした。


「まあまあ、まずは食べてみない事にはわかりませんわ。むしろそんなにたくさん買い込んだんですもの。きっと大丈夫ですわ」

「そ、そうだな。守ってくれよぉ、ええい! 男は度胸!」


 目の前に置かれたホットケーキにナイフで切れ込みを入れてかぶりつく。それは別に毒じゃないのでそう警戒するな。


「お、うまい。別に全然苦しくないぞ。なんだよびっくりさせやがって」


 そう言って続く勢いで乗せられたアイスクリームに手をつけた。

 残念、そっちが毒物なんだよな。それも特級の。


「なんだ? 買い込んだアクセサリーが光って……ぐわぁあ! HPゲージがみるみる減ってデッドゾーンだ!」

「あなた、ポーションよ!」

「ありがとう! ぐえ、まっずぅ! なんだこれ、まっずぅ!?」


 そうなんだよな、このゲーム。

 ポーションの不味さが際立つんだ。

 そのくせ対して回復効果はない。


「口直しにこちらもいかがです?」


 オーたんは次なる手でカッちゃんを追い詰める。

 先ほど頼んだドリンクのホットココア。

 もう匂いだけで美味しそうだが、残念そいつも毒物だ。


「あっ」


 叫ぶ間も無く、その場に昏倒するカッちゃん。

 テーブルに突っ伏す形で体の上に復帰するまでのカウントが課せられる。おおよそ60秒程か。


「わっ、こんな風になっちゃうんですね。知りませんでした」


 それにしては思い切りが良かったように思う。

 僕はこの店自慢の紅茶に口をつけつつ、ホットケーキをパクついた。


「アッキーは全然平気そうですね?」

「いや、後もう少しで僕もカッちゃんと同様に突っ伏すよ。カッちゃん程慌てないだけさ」

「まぁ大人!」

「こいつが騒ぎすぎるだけだ。よく一緒になろうと思ったな?」

「私の周りにはいないタイプでしたので」


 ああ、と妙に納得させられる。

 それはきっと物珍しさの方が勝るのだろう。

 その後しばらく死んだりその場で復活したりを繰り返した。

 オーたんだけは無傷だ。本人だけは運が良かったと言い張るが、その情報収集力から察するに、僕がどう出るか状況を見越していたように思う。

 この誘いに乗るかどうかが鍵だな。


 見込み違いで終わらせるか、本音を聞き出すか。

 僕が進むべきは後者だろう。


 決戦の地は純喫茶アルバート。

 そこで軽食でもどうかと誘われて乗る事にした。

 席に案内され、メニューを見てカッちゃんが途端に挙動不審になる。

 それもそのはず、そこには先ほどの悪夢が可愛く見えるほどの毒物を表す☠️が乱立する。そこへ躊躇なく切り込み注文していくオーたん。

 カッちゃんも負けじと選択する。

 だがあろう事か最後の最後にやってしまった。


 油断していたのだろう、食後のスイーツに☠️の多さに気後れせずお陀仏モンブランを選んでしまったのだ。先輩も同様に。

 僕は遠慮しておいた。

 先程のパンケーキで甘味の食欲は満たされている。

 そう言って断った。


 案の定、食事中にキャラロストする二名。

 その場での復活はありえない。

 僕は再びオーたんに確認を取るように話しかける。


「どうしてこんなに回りくどい真似を?」

「何のことでしょう?」

「僕がこの運営会社の人間だと知って接触してきたのだろう?」

「……バレていましたか」

「あの式も怪しさ満載だったからね。親友の立場から言わせて貰えば、彼は普通にいいやつだ。少し抜けてるし、すぐにビビるけど僕はあいつが親友で良かったと今でも思っている。もし僕に接触するためだけに結婚したというのなら──」

「勘違いなさらないでください。式へのご招待は偶然です。偶然向井さんの職場を知ってしまっただけ。それ以上でもそれ以下でもありませんわ」


 この期に及んでしらばっくれるのか?


「なら結婚そのものはフェイクでもダミーでもないと?」

「はい、私が決めてお付き合いさせていただいています。その上で結婚を決めました。彼ならきっとやり遂げてくれるだろうと」

「ならどうしてカッちゃんを騙すような真似を?」

「────と、──ったんです」

「??」


 俯き、ボソボソと語り出すオーたんは、感情を絞り出すかのように言葉を紡いでいく。早口で捲し立てながら、感情を吐露していった。


「ずっと、このゲームで遊びたかったんです! だと言うのにお父様ときたら! ゲームは思考を鈍らせるからってずっと許可してくださらなかったんですよ! おかしくないですか? 今のご時世に娘を縛り付けるとか絶対頭沸いてますよ! あの人! あー、思い返すたびにイライラしてきました!」


 大きく両手を振りかぶって、とテーブルに拳を落とす。

 さっきまでの感情からは想像もできないほど落ち着いた視線で僕を射抜き、ハッとさせられる。


「それで、うちの会社を目の敵にして敵上視察にして遊ぶ権利を得たと?」

「本当なら企業枠での参加を希望してましたが、お父様は頭が硬くてダメですね」

「なんて回りくどいことを……周囲に迷惑までかけて。その上君に会社も右肩下がりと聞いたが?」

「事業の一部が不良債権を抱えることなんてよくある事です。そもそも、その事業自体が出向社員の天下り先。落ちぶれるべくして落ちぶれたと思いませんか?」

「君としてはそれすら切り捨てる駒であると?」

「いつまでもお父様の下についていたら自由にことが運べませんから。ですので予定を早めて克幸さんと挙式しました」

「カッちゃんはそのこと知ってるの?」

「話しましたけど、額面通りに受け取ってしまい今に至ります」

「カッちゃんに参謀は無理だよ」


 あれは策を張り巡らすタイプじゃない。

 裸一貫で突撃を繰り返すタイプだ。

 感情論に訴えかけるタイプというのかな?


「ですので向井さんに、アッキーにこうして頼んでいるのです」

「つまり君の会社と業務提携をしてほしいと? うちに見返りがないんじゃ厳しいな。僕も雇われの身だ。ここでサインをするわけにもいかないよ」

「もちろん、そちらも含めてご提案いたしますわ。まずは腹案をこちらに」


 差し出されたメッセージカード。

 それは奇しくもお陀仏モンブランの遺書を書き記すものだった。

 そこに描かれた内容に目を通し、記憶する。


「でもまだ会社はお父様のものだ。あなたが動かせる人事は限られていると思うが?」

「結婚したことで子会社を丸々授かりましたわ。部下もいます。そちらで提携していただけませんか? VR業務に乗り遅れ気味の我が社にその部門を導入したく思うのです」

「焦りはわかる。需要の見込み客は御年配が多い。体が動かなくなればVRにのめり込むのが目に見えている。僕の知り合いも多くの方々VRへの参加に積極的だ。しかし同年代や少し上、君のお父さん世代はまだ現役だろう? そこまで思考が回らないのではないか?」

「VRに否定的なのはそこにあります。ですが実際に肌で体験していただくのもご納得いただける提案かと。さわりもせずに否定するのは猿にもできることですわ。私は我が社をお父様のわがままに突き合わせるつもりはないのです。ご納得頂けませんか?」


 この会社、娘さんを切り捨てたら終わりかねんな。



 ◇



「と、いうわけらしいんだけど」

「なんだか怪しい提案ですね」


 一度会社に持ち帰り、報告。

 帰ってきた返事にそうなんだよなぁと相槌を打った。


「そこなんだよなぁ、僕を運営側の人間だと知ってるのは置いといて、ただの社員に持ちかける提案にしては話の規模が大きいんだ。まるで僕が千枝さんとお付き合いしてるのまで見越してそうな勘ぐりっぷりで。

「そういえば奥様のお名前聞いてませんでしたね。西王グループのお孫さんだとは伺ってますが」

「あきさんだったかな? 戸田あきさん」

「え、戸田あきって、あきちゃん!? どうしてその人がそんな地位に居るんですか?」


 え、知り合いだったの?

 そっちの方が驚きだけど。


「お知り合い?」

「お爺様の秘書時代の同僚があきちゃんだったんです」


 あれ、これってもしかして……

 ずっと謎だった点と点が線に結ばれてきたぞ?


「待って、じゃあこのお話って出どころは?」

「お爺様からかもしれませんね。大方私が絶賛する明斗さんの手腕を確かめるためとかなんかでしょう。一度顔合わせして決着をつけたほうがいいかもしれませんね」



 ◇



 アポイントメントを取って、初めてその顔を拝む事になった。

 一代でその地位を築いた遣り手の老獪。

 そんなイメージの強いお爺様だったが、縁側でお茶を持って日向ぼっこしてるのが似合いそうな風格に少し拍子抜けをしてしまう。


「お初にお目にかかります。私、千枝さんとお付き合いさせていただいている向井明斗と申します」


 側には専属秘書として何食わぬ顔であきさんがたたずみ、緑茶を配膳している。こちらには目もくれない。

 まるで今日であったばかりの対応である。


「千枝から話は聞いとるよ。なんでも随分と腕が立つそうじゃないか」

「恐縮です。こちら、私の懇意にしている京菓子屋の詰め合わせにございます。お茶請けにお使いくださればそれ以上の光栄はありません」

「どうしてワシがそれを好いていると?」

「データ収集は会社員の務め。先方の嗜好品は調べ上げておくのが鉄則でありますれば」

「それがもしワシの方で改竄されたデータであり、これがワシの好物ではなかった場合はどうするかね?」

「その場合は自分の未熟さを改め、誠心誠意おつきあいさせていただくつもりであります」

「ふむ、どう見るあき君?」

「合格点を上げても良いと思いますよ? 答えは中身を見ればわかります」

「君がいうのだからそうなんだろうな。人数分の茶を頼む」

「畏まりました」


 最初の顔合わせはセーフ。

 御年配だからと必ず和菓子が好きであるという考えは間違いである。なんだったら生まれ育った環境によっては受け付けない人もいるからな。

 入念なリサーチに基づいた経験則。

 そして千枝さんの情報提供で導き出した答えは。

 水羊羹だった。

 勿論ただの水羊羹ではない。

 極限まで甘さを落とし、塩の結晶をまぶした塩羊羹。

 小豆の他になんとも芳しい栗を甘露煮にして添えられているのが得点が高い。

 中でもこの商品は人気がすごくて予約殺到。

 この日のために前もって仕入れておいたのだ。

 今日という日に間に合ってよかった。


「ほうほう、これじゃこれじゃ。こいつを食したかった。よくこれに気がついたのう? 店頭での販売はしておらん筈だが?」

「僕も和菓子には目がないものでして。嗅覚が働いた次第です。実際に食すのは初めてですが、ご相伴頂いてもよろしいでしょうか?」

「構わんよ、君の買ってきたものだ。君にも食べる権利があるだろう」

「では、遠慮なく」


 楊枝に刺し、それを口に入れる。

 ああ、これはすごいな。

 今まで食べていた水羊羹はなっだったのかというほど口の中で小豆と栗が解けて消えた。


「君は実に旨そうに菓子を食うなあ」

「実際に上手いですからね。いや、まいった。人気になるのがわかる味だ。これだったらもっと多く発注するんだったな」

「やめておきなさい。それをしたら待っているファンに悪い」

「そうですね、作り手に礼を欠く所でした。今は最後の一切れまで味わうとしましょう。もう一口いただいても?」

「君は存外わがままだと言われたことは?」

「よく言われます」


 我慢できずにもう一口頂いた。

 本来ならこんな暴挙は絶対に犯さないのだが、対面の相手は許してくれそうな気配があった。

 最後まで茶菓子をいただき、茶も飲み干す。

 何故かそこには笑顔に包まれていた。


「合格じゃな」

「お爺様? それでは」

「普通ならワシを知って萎縮し、下手に出る所を、この者は臆せず食いついてきおった。その上にワシの話を退屈せずに聴きに徹し、かつ興味を示す。返された質問もまたワシの興味を惹くものであった。千枝が気に入るのも分かる。じゃが問題はお前の方にある気がするのはどうしてじゃろうな?」

「えっと、それは……」


 千枝さんの目が泳いでいる。

 彼女の中ではまだ僕が偶像化されている感じなのだろう。

 急に俯くと座り込んでフリーズする。

 いつもの奴だった。


「こんな孫娘で悪いが、良かったら貰ってくれんかね?」

「もったいないお言葉にございます。僕が彼女を幸せにして見せますよ」

「な、な、ななな」


 今度は言語がバグってしまったようだ。

 これ以上揶揄うのはやめておいた方がいいだろう。

 でも気持ちだけは早めに伝えておきたかった。


「ふつつかな私ですが、どうぞよろしくお願いします」

「勿論」


 こうしてプロポーズが完了、受理された僕達は正式に婚約した。

 式やハネムーンはまだ時間的余裕が取れずに先延ばしではあるが、別々の部屋から同居するようになり、それでも生活は変わらずにいる。


 僕の部屋の中には交換日記ならぬプランターが増えたが、千枝さんの私物は前の部屋に置きっぱなしだった。

 玄関を出て数分で行って帰ってこれるので、その方が都合がいいとのこと。


 それでも一緒の部屋での共同生活は前途多難に満ちていて、いろんな失敗を二人で乗り越えたりした。

 それでも笑い合って協力できるのは乗り越えた数だけ絆が生まれたからだと思う。



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一章・NAF運営編はこれにて完結です。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


最後駆け足でしたが、なんとかまとめることができました。

ハッピーエンド前に少し不穏な空気が漂うのは作者の悪い癖ですね。

お待たせした分、最後はハッピーエンドで締めくくらせていただきます。


すぐに二章と行きたいところですが、原稿作業があったりと少し間が空くと思います。申し訳ありませんがご理解いただけたら幸いです。

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