目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
エピローグ

 それから俺は、時々この部屋で夜を過ごす様になった。

 もっともそれで生活が劇的に変化したという訳ではない。東条と俺のシフトはやはり相変わらずすれ違いだらけなので、そんな時間が取れることは滅多に無い。

 お互いホテルが、仕事が大切だから、関係はあくまでその合間を縫って。

 それに寮住まいの俺が外泊ばかりすれば、同期に詮索されるのは目に見えている。寮住まいを余儀なくされる新人のうちは無理だ。

 物事にあまりこだわらなさそうな土浦はともかく、三島の様な耳聡い女子を誤魔化すのは難しい。気を付けるに越したことは無い。

 面倒な関係を作ってしまったものだと思う。でもその面倒くささすら心地よいのなら、処置無しだ。



「おはようございます」

「おはよう」


 平日の朝のリフレッシュコーナー、見慣れた男前に声を掛ける。俺の手には缶コーヒー。ただし甘い甘い練乳入り。

 それでも。


「今日はお揃いだな」


 ブラック無糖を手にする東条は、隣に座る俺と缶を合わせる。


「ここのところ、お天気がいいですからね」

「今朝のニュースでは、今日の降水確率は10パーセント未満だそうだ」

「じゃあ今日は無理ですね」


 む、と彼はやや情けない顔で俺の方を見る。


「嘘です。午後六時以降の降水確率は50パーセントと言ってましたよ」


 そうか、と東条は笑う。

 きっと夕方には雨が近付く。天気病みの俺はくらくらして、きっとまた更衣室でへたばる羽目になるのだろう。

 やがて彼がやってくる。ホテルのあちこちを全てチェックした上で。

 そして俺達はこっそりバックヤードから連れ立って行くのだ。

 838号室へ。   


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?