それから俺は、時々この部屋で夜を過ごす様になった。
もっともそれで生活が劇的に変化したという訳ではない。東条と俺のシフトはやはり相変わらずすれ違いだらけなので、そんな時間が取れることは滅多に無い。
お互いホテルが、仕事が大切だから、関係はあくまでその合間を縫って。
それに寮住まいの俺が外泊ばかりすれば、同期に詮索されるのは目に見えている。寮住まいを余儀なくされる新人のうちは無理だ。
物事にあまりこだわらなさそうな土浦はともかく、三島の様な耳聡い女子を誤魔化すのは難しい。気を付けるに越したことは無い。
面倒な関係を作ってしまったものだと思う。でもその面倒くささすら心地よいのなら、処置無しだ。
*
「おはようございます」
「おはよう」
平日の朝のリフレッシュコーナー、見慣れた男前に声を掛ける。俺の手には缶コーヒー。ただし甘い甘い練乳入り。
それでも。
「今日はお揃いだな」
ブラック無糖を手にする東条は、隣に座る俺と缶を合わせる。
「ここのところ、お天気がいいですからね」
「今朝のニュースでは、今日の降水確率は10パーセント未満だそうだ」
「じゃあ今日は無理ですね」
む、と彼はやや情けない顔で俺の方を見る。
「嘘です。午後六時以降の降水確率は50パーセントと言ってましたよ」
そうか、と東条は笑う。
きっと夕方には雨が近付く。天気病みの俺はくらくらして、きっとまた更衣室でへたばる羽目になるのだろう。
やがて彼がやってくる。ホテルのあちこちを全てチェックした上で。
そして俺達はこっそりバックヤードから連れ立って行くのだ。
838号室へ。