「ワタシはあれの中からできた奴だ。あれがしたがっていることをしてきただけだ。邪魔だったものを退けてやった。本当はもっと夫にしてもらいたかったのにされなかった。あれもただの女だからな」
「そう。だから貴女も一緒に出てこないと消えてもらえないでしょう? だって、ドロシアはアナタが居ることに気付いて自殺したのだから。アナタはやりすぎ。抑圧されていたのは判るけど、出す方法が極端すぎたわね」
私はそう言って、再び鐘をがらがらと鳴らした。
「ドロシア様。そうなのでしょう? 貴女は、あれが自分の中に居たこと、今まで犯した罪に耐えきれずに鐘のある塔の上から身を投げた。鐘は貴女方を切り替えるだけでなく、貴女が死んだ場所をも思い起こさせるからでしょう?」
「……忘れていたかったのに」
「でも貴女のしたことを、ひたすら隠蔽しようとした家は、きっと貴女にとってとても息苦しいものだったのでしょう。耐えられなかった心が、それらをぶち壊すためにあれを生み出したんでは?」
「かも、ね。たぶん、私が一番誰より何より壊したかったのは私を育てた家だったのかもしれないわ」
「そしてシャーロット様」
「私?」
唐突に呼ばれた彼女は、ぎょっとした顔になる。
「貴女もまた、大量の人々を殺したでしょう。しかも貴女の場合は、ドロシア様と違って、意図的に」
「眠らせただけだわ」
「シャーロット様!」
ドロシアは淡々と語るシャーロットに対し、思わず両肩に手をかけた。
「苦痛の無い死刑。あのひとが、そして私がとても興味を持っていたことだわ。だから、もう先が本当に無い苦しむ人々に、安らかに死ねる薬を注射してきたの。それだけのことだわ」
「それは……」
「試した人々の数が増えれば増えるだけ、私達はどの薬をどれだけ調合すれば、静かに苦痛なく死んでいくかを立証することができたのよ」
くす、と私は笑った。
「何が可笑しいの」
「いえ、今戦っている相手の国にね、そういうことを国家ぐるみでしているところがあるの。医療の発展と称して! ちなみにその男は、死の天使、と呼ばれているのよ」
「一緒にしないでくださいます?!」
「いいえ根は一緒。今それをしている医者は、とある人々と同じ人間とみなしていないから、気楽にそんなことをする。貴女達夫婦は、施療に当たった貧しい人々を、同じ人間だと思っていなかったのではないの?」
「だってそれは仕方ないでしょう! 豚の様に子供を沢山産んで、それでいてろくに育てもできない貧しい連中が、私達と同じだとどうして思えて?!」
「それが本音ね」
私はがらんがらん、と鐘を鳴らした。
「何だい」
「ドロシアがしたいと思っていることを。そして一緒に、もう眠って」
「そうか」
もう一人のドロシアは、シャーロットの肩に置いていた手を、そのまま頭へと伝わせた。
そして何処からそんな力が出てくるのか――
ぐしゃ、と。
シャーロットの頭を潰した。
「あんたはどうするんだ。逃げられるのか?」
「さて」
「言葉を交わせたことを面白く思う」
そして、シャーロットの頭を掴んだまま、二人はその場から消えていった。
あちらこちらで爆発音が起きている。
さあ、これで終わりだ。
そして私自身も、闇の中に消えた。