「病気。だったのかもしれませんね、私も」
残りはドロシアとシャーロットだけだった。
「いえいえ。貴女だけではありませんよ」
私は二人に向かって言った。
「私も、だとおっしゃる?」
くす、とシャーロットは笑った。
「ええ。貴女方が最後に残ったのは偶然ではありませんから」
「それはどういう意味ですの?」
ドロシアは小首を傾げて尋ねた。
「ドロシア様、貴女の話はきっと貴女にとっては本当なんですよ。ですが、貴女のしたことはそれだけではない。それだけのことです」
「私のしたこと?」
「それこそ万博がクリスタル・パレスで行われた時代は、まだまだ様々なものがごった返していました。庶民が幾ら闇に消えても、子供が売られても、そんなものは日常茶飯事」
「それが?」
「貴女は、もう一人の貴女になった時、様々なことを起こしていました。ええ、それこそ神様に顔向けができない様な」
「そんな……」
「ええ、それは病気の時に使った薬の副作用だったのです。それもただ単に使ったから、ではなくその時の場所、貴女の血筋の体質、そう言ったものが絡んだのでしょう。ともかくもう一人の貴女は殺人鬼でした」
「……何ですって」
私は棚の上から、学校の授業終わりに使う様な鐘を取り出した。
そして勢い良く振った。
がらんがらんがらん……
外ではひたすら爆撃の音が聞こえてくる。
近くに落ちたのだろう。
大きな音と共もに酷い音も時々する。
「起こしたのはあんたか」
先ほどまでのドロシアとはまるで違う口調の女が、そこには居た。
「ええ。貴女も含めて消えてもらわなくてはならない」
「煩い」
もう一人のドロシアは、私に向かって突進しようとする。
だがクリノリンで大きく広がったスカートが、私に直接は近づけさせない。
「結婚した後、産んだ子供は五人だったんでしょう?」
「そう。でもそのうちの二人は旦那の子じゃない。だから生まれてすぐに床に叩きつけたり見せられた時にぐっと潰したりした。皆その時のワタシがどう出るか判らないから、ワタシの回りには事情を知るメイドしかいなかった。そう、メイドの夫をたぶらかして産んだ子とか。怒鳴り込んできたメイドをもワタシはひねり殺した」
「どうしてそんなことができるの、貴女はそんなに華奢な手をしているというのに」
シャーロットは問いかけた。
「知らない。ともかくワタシはこんな力がある、あっちには無い。従兄弟は力が弱すぎた。一緒に遊んでいたら投げ飛ばして勝手に死んだ。だからワタシは療養に出された」
「では夫の愛人も」
「当然」
くくく、ともう一人のドロシアは笑った。
「何でそんなことをするの」
シャーロットは問いかけた。
「何でと聞かれても。ワタシでなく、私が嫌いだからだろうさ」
「あちらのドロシア様が」
何ですって、とシャーロットは目を見開いた。