「そうやって皆の嘘を暴いて行くのが貴女のやり方なんですね?」
シャーロットは私に向かって問いかけた。
「嘘ではありません。忘れていたことを思い出させて、行くべき場所へ送り出すだけです。もうあまり時間がありませんし」
外ではどかんどかんと音がしている。
プロペラの音と爆弾の落ちる音、そして爆発音が。
「ロンドン市民はどうしているのかしら?」
レイチェルが問いかける。
「地下鉄に避難してますよ」
「地下鉄? あんなものに? 皆すすだらけになるでしょう?」
「今では電気で走っていますよ。そして頑丈な駅のホームは、今とりあえず防空壕として活躍しています。そのうちその中も整備されるでしょう」
「そうなの」
「やはり貴女は優しい方。まず地下鉄に避難と聞いたら、皆が当時の列車の様にすすだらけになることを心配なさる」
「……そんなことは無いわよ!」
「いいえ、実際に転地療養させられたのは、貴女なのでしょう? レイチェル様。そして皆が自分のことを危険だと思っていると考えた」
「……敵わないわ全く。そう。気持ちのバランスを崩したのは私。鉄道業は、もの凄いスピードで成り上がっていったのよ。私はそれについていけなかった…… 夫はマナー講師の夫人を愛人にして、それで面目を保っていて。しかも子供達も彼女に懐いていて。私は体のいい離婚状態だったわけよ。ただ養ってもらっているだけで。そして私はそれに疲れたんだわ。ある日夫と子供に会いに列車に乗ったの。そして大きな駅に着いたら、途端にめまいがしたわ。ああ、この環境は自分に合わない。ふらりとして、スーツケースの上に座って少し休んでいたら、夫がマナー教師と一緒にやってくるが見えたのよ。私はそれを見た時、ふっ、と何かが壊れたのを感じたのね。そして思い出したの。アンナ・カレーニナのあの場面を。通過していく貨物列車の気配がした時、私は何かに引かれる様にそこに身を投げたのだわ」
途端、彼女の身体のあらゆるところから血が噴き出した。
本来なら、その場でばらばらになってもおかしくはないのだが。
「さすがに貴女方に、あの時の私の姿は見せられませんわ」
さよなら、とレイチェルは目を伏せ、そのまま消えていった。
「ああ! あんなに快活に見えたレイチェル様が!」
マデリーンはその場に泣き崩れた。
「貴女も心を病んだのですね」
「ええ。そして私はそれだけじゃないわ。私は兄と関係を持ってしまった! 兄と言っても、私はずっと好きだったのよ! 何でもできて、姿も良くて、そして何より私を愛してくれた。一度でいいから抱いてと頼んだのは私。そしてその結果が妊娠よ! 責めて欲しかった…… 夫になじってほしかった…… でもあの男はただ身体を大事にと言っただけだった」
「そう、それでプライドを捨てれきれずに病み狂ったのが貴女なのですね、マデリーン」