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37 マーリンズ男爵夫人ドロシアが語る①

 それでアンナ・カレーリナ…… という小説はどういう関係がございましたの?

 さすがに私の頃にはそれはまだ無いものでしたし……

 ああなる程。

 つまり年の離れた夫を持った人妻アンナが、色男の未婚軍人と本気の恋に落ちた結果、家も夫も息子も捨ててしまったと……

 え、でもそれはそれで、純愛なのでは……?

 ああ、成る程、だから本気の恋は、なんですね……

 で、結局最後はどうなるんですの?

 え! 列車に飛び込んで……

 それは…… 想像したくないですわね。

 マデリーン様がよくご存じのものでしたら、私の知っている鉄道より、ずっと速くなっているんでしょうね。

 でしたらそこに飛び込んだら……

 考えるだけでもぞっとしますわ。

 そう言えば、今も何だか遠くで汽笛の様なものがずいぶん長く聞こえていますけど、何でしょう。

 何だかだんだん大きくなっている様な気もしますが。

 何かこういう音はやはりちょっと怖いですわ。

 怖いの意味が違うかもしれませんが、私、昔から鐘の音がもの凄く怖いんです。

 でも何故だか判らないんです。

 特に、教会の鐘の音。

 そこで怖いなんて言うと、何だかとても不信心者の様な気もしますけど……

 身内に早く亡くなった者が多かったから? ではないですわ。

 少なくとも私の周囲には家族はきちんと揃っていましたもの。

 ああ、でも他の鐘は大丈夫なんですよ。

 例えば、そう、音楽の演奏会。

 あの中で、鐘に近い音を立てる楽器がありますわね。

 あの澄んだ音はいいんです。

 あと、旅行先で聞いた教会の鐘も。

 私、昔とても身体が弱くて、国外の空気の良い地方に静養に行っていたことがあるんです。

 ただその国は教会と言っても、私達のものとは違うので、通ったりは無論しませんでしたわ。

 それでも鐘は鳴るんですね。

 時間を告げるためですか。から……ん、と澄んだ音が山々の間に響き渡るのに私は聞き惚れたものです。

 ただいつからでしょう。

 身体がよくなって、国に戻ってからでしょうね。

 何故か聞こえてくね鐘の音が、いつからか怖くて怖くて。

 教会に通えなくなってしまった私を教区の神父様は心配してくださいました。

 心の救いのためには来た方が良い。

 だが、それが怖いならば、無理に来なくとも良いと。

 あんまり私がそのことで嘆いていたので、その頃また国を離れていた方がいい、という話は出たんですが、ちょうど結婚の話が出たんですね。

 ただ、その辺りの記憶が私少し胡乱なのです。

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