致命的。
そう、産み月が合わない子供ができてしまうんですよ。
子爵は、それでも子爵ですから、顔では笑顔を見せました。
そしてだんだん生まれた子の顔がはっきりしてくるにつれ、髪や瞳の色とか表情とかで、気付いてしまうんですね。
彼女に会える男なんて、そうそう居ません。
二人で歩いていたとして、不審がられない男なんて。
そこで子爵が気付いてしまったのは、彼女の兄だったんです。
それでもこの子爵は、あくまで我が子として接するのですね。
ただ、その後彼は幾人かの愛人を持ち、その間に何人もの庶子を儲ける訳ですよ。
彼は妻を愛そうという気持ちが切れてしまったのですね。
そこで安らぎを他の女に求めることにしたんです。
夫人は身分が下の女に関しては無関心でした。
ですが、自分と同じ侯爵令嬢という身分の女、そして自分の家より貧しく、しかし知識も魅力も自分より優れた女が出てきた時には、心底怯えました。
いつ自分を離婚して、据え換えても構わないだろう、という思いに取り憑かれてしまうのですよ。
相手はそんな気は全くなく、あくまで引き際を知っている様な女性なのですがね。
それでもやっぱりかたくなな心を持った夫人としては、どうしようもなく、夫も愛人も許せないのですね。
かと言って何かをするとか、嫉妬の心を見せること自体が、やっぱり彼女のプライドからしたら絶対許せないんです。
そしてどんどん家の中で彼女は高圧的になっていくんですが、そうすると、今度は子供達が不安になって行くんですね。
彼等にとって母親というのは、そういうものだと焼き付けられてしまうんです。
ところが子供達も、やはりちゃんと成長すれば、自分達の家以外も目にする様になります。
すると、自分の家が決して暖かい場所ではないことに気付いてしまうのですね。
この家で生まれたのは、大概事業を安定させておけるだけの能力を持った子爵譲りの頭を持った優秀な子が多かったのです。
彼等は次第に母親に対し、様々な思いを抱く様になりました。
――で、子供達の一番上の子が二十歳になった頃、この夫人がとうとう自分の気持ちのバランスを完全に崩してしまいます。
そして翌年亡くなるのですが。
この亡くなり方には不審な点があったとか無かったとか。
病気を苦にして自殺、が一応表向きに発表されたものです。
ですが、その葬儀で誰一人として悲しむ者が居なかった。
そう、彼女と関係があったのではないか、と思われた実兄すら、涙の一滴も流さなかったそうです。
階級はあってもいいと私思いますのよ。
でも、その階級を飛び越える時には、凝り固まったプライドは捨てないと、悲劇を呼ぶと私、思わずにはいられないのです。