ええ全く。
その界隈にずっと身を置いている私だって怖いと思いますもの。
レイチェル様は庶民から成り上がりの話をなさりますが、私ども下流貴族にしても、上流貴族の方々に対してはもう何というか。
今この中で最もその位が高いのは、ローズマリー様とポーレット様ですが、きっと貴女方にしても、侯爵家と婚姻を結ぶ際には、何かしらあると思うではないでしょうか?
私の知り合いの知り合いで侯爵家から子爵家へ嫁いだ女性が居るんですが、何というか……
そう、ポーレット様がお話しになった姑の方…… よりはましなんですが。
とある資産を失っていきつつあった侯爵家から、事業に成功して裕福な子爵家に嫁入りした令嬢が居た訳ですよ。
彼女は恐ろしく気位が高かったのですね。
だから相手の子爵が純粋に侯爵家に金の援助をしようと申し出た時、それを聞いて自分は「売られる」と思い込んでしまったんですね。
いえ正直、そんなこと、侯爵同士であったとしても、家同士ですもの。
金でなくとも、何かしらの条件が合うからこそ婚姻を結ぶのが普通でしょう。
そして結婚した上で、できるだけ家庭として上手くいけばいいかな、という感じで。
まあ生理的に駄目な場合は、裕福な方が愛人を抱えるというのもありでしょうがね。
まあ実際その子爵家ではそうなってしまったのですよ。
侯爵令嬢は子爵夫人という、彼女の中では二段階低い階級に金で買われた、という認識なんですね。
住処とかはそれまでの実家よりずっと良い場所だったし、使用人の態度も良かったり。
だけど、それでいいかな、という緩い気持ちには全くそのひとはなれなかったのですよ。
もう何をやっても夫となった男のすることなすこと自分の機嫌を取ろうとすること全てが嫌。
自分の何かを誉められれば、それを止めてしまうくらいに嫌。
それでも義務として子供は作り、産むんですよ。
そう、相手の子爵は彼女のことが元々とても好きだったのですね。
この好意が侯爵令嬢からしたら許せない訳です。
子供が生まれても愛せるなんてことが全くなく、産みたくない産みたくないって叫んでいたそうですのよ。
まあそうなると、可哀想なのは何なんでしょう。
子供は、案外実の母親が居なくとも、初めから乳母がついていて育てていれば、比較するものが無いうちは大丈夫なんですよ。
そんなものか、ということで、子供のことを愛している父親と、周囲の使用人の気立てが良ければ、まずまず真っ直ぐ育って行くものです。
そして悲しいのは、その子爵ですね。
ともかく拒まれ続けて罵倒されて、それでも彼は愛しているし、時間が経てば、愛そうという努力に変わるんですよ。
ただそこで、致命的なことが起こるんですね。