ただ時々特定できる場合があるんですよ。
それは従軍看護婦が行方不明になった場合。
夫がその件で結構疲れた顔になっていたことがありましたわ。
何と言っても、行方不明になったのは、貴族の令嬢だったのですから!
クリミア戦争でのナイチンゲール女史からずいぶん経ってますから、まあ案外あったんですよ。
裕福な家庭の女性が、看護婦として従軍するということ。
ただ大概はそこで病気にかかって帰国するか、亡くなったりですね。
いくらノブレス・オブリージュと言ってもですね、そもそもの鍛え方が違うというものなのですよ。
ああそう言えば、例のオールコット女史も、看護婦として従軍したけど腸チフスにかかったんでしたっけ。
で、問題はその貴族の女性が行方不明になったんですよ!
ところが、しばらく後になってから、やや遠く離れた戦場で、女の軍人が居たのか? という問い合わせが来たそうなんですね。
ただ向こう側でも不思議がっていたのですよ。
まあ確かに、死者を隠すのに一番いいですわね。あの場は。
ただ女性の遺体はさすがに難しかった様ですわね。
じゃあ誰がどうして? なんですのよ。
その令嬢は特に病気でも何でもなかったのです。
だから死んだから処理した、ということはあり得ませんわね。
だいたいそんなことすれば、あちらのご実家から苦情とかいうか問い合わせというか。
まあ夫が困ったのもその辺りだったのですよ。
その令嬢のご実家から、どういうつもりか、探してくれ、までが途中。
そして見つかってからはどうしてくれる、ですね。
そんなちまちましたことに、夫の立場から何か言える訳ないじゃないですか。
そもそもそういう階級の、従軍看護婦というのは普通の看護婦からしたら、取り扱いに困るものなんだ、と。
プロパガンダに使うにしても、もう少し何とかしてくれ、という感じだったそうですよ。
まあ後で判ったことと言えば、その令嬢が何でそこにやってきたか、とその結果だった訳ですが……
令嬢、実のところ妊娠していたのですよ。
そしてその相手を追いかけて、従軍したらしいんです。
ただその相手にはそこまで責任を取る気が無くて……
となれば、後はおわかりではございません?
結局はその相手が誰だったのか特定できた訳ではないのですが、そういう場所に行ったことで、簡単に殺しやすくなるということはございますわね。
ああ、私は視察に行ったことがありますのよ。
でも、それ以上のことはしませんでしたわ。
だって私が行くことで手間が増えるでしょう?