「きゃーーーっ!」
ローズマリーが不意に声を上げた。
そしてがたがたぶるぶると震え始める。
「や、止めてよそんな…… 血なまぐさい話……」
「おや、ローズマリー様、貴女そんなに血にお弱い方だとは思いませんでしたが?」
「何を言いたいのかしら?」
心なしか、ローズマリーの顔色が悪い。
本気で頬から血の気が引いている様だった。
「別に。貴女のことですから、ずいぶんな血の色は見てきていると思いますが?」
そう言ったのは誰だろう。
「ええそうですわ。私はしぱらく夫についてフランスに渡っておりましたから。ちょうど非常にがたついている時代でしたもの。私どもは我が国の旗の下それなりに守られていました。けど一歩外に出れば、野蛮なあの者達がどんどん味方の中でも分裂分裂。一番の指導者だと言われた者すら、敵を作ったあげく、とうとう自分の血を大衆に見せつける羽目になるところまで、仕方なく見てきましたわ」
ふう、とローズマリーはため息をついた。
「とは言えど、我が国にしても、更に百年二百年遡れば、あそこまででないにしろ、野蛮な時代があった訳ですもの。ああもう、あの頃を思い出すだけで、人間の本質は野蛮なんだ、という夫の口癖を思い出しますわ」
「しかし不思議なものですわね、あの国も」
大きな枠を抱え込んだスカートを広げたドロシアは、ローズマリーに向かってつぶやく。
「そもそも貴女が今まとっていらっしゃる様なドレスは、確かに革命の中で発展して、あちこちの国で流行りましたけど、そもそもはかの王妃が田舎暮らしごっこをする中で、考え出したものではなくって?」
「そういう話もございますね。あの王妃に関しては私もその目で見たことは無いのですが、何かと印刷物が回っていたことですの。虚々実々。様々なものの中で、珍しく好意的なものもありましてね。そう、あれは、最後にお世話をした女、あれは実にあの王妃に対して好意的だったそうですわね。個々人としては、きっと一緒に居て楽しい、そして子供に優しい母であったのでしょうよ。残念ながら、彼女が生まれた時代と場所と身分が間違っただけで」
「どうでしょうね、ローズマリー様、貴女は私どもと同じ時に生きたいと思いますか?」
「冗談でしょう!」
ほほほ、とローズマリーは笑った。
「反動なのでしょうかね。それとも風邪を引くひとが増えたからかしら。十年かそこらでいきなり襟は詰まり、スカートは硬い鯨の骨や金属の型にはめられる様になって。かと思えば、今度はお尻だけ突き出す様な形! ……きっと、とても古すぎて新しすぎたんですわ。そう考えると、あの王妃の考え方というのは、とても古くて新しかったのかも……」
「そうねえ。色んな見方があるものよ。例えばあの今となっては悪名高い機械も、そもそもは人道的な見地から取り入れられたってことよ」
シャーロットはそう切り出した。