「無論そのことは厳重に隠されたわ。ただやはり結婚すれば、兄上の方も、義姉様がはじめてではないことは判ったでしょう。まあ、義姉様の家柄の方が大切な結婚でしたから、だからといってどうということではないですが、二人の間に影はずっと落とされたままだった様なの」
まあ、と皆後出しにしては大きすぎる要素に息を呑んだ。
「青年の父親は一体?」
「それが判らないの。義姉様は決してそのことを口にしなくて。ただ兄上は相手について独自に調べてはいた様だし、青年のことも知ってはいた様なの。青年が兄上を知っていて怖れているというならば、彼は何かしらの形で相当なことを兄上からされているのだと思うわ」
「それで耳も目も?」
「いえ」
イヴリンは首を振る。
「それは生まれつきだった様ね。そこでまあ、普通ならすぐに捨ててしまっていたかもしれないところを、義姉様はどうしても、ということで信用できる人に預けていた様ね」
そうだろうな、という空気が周囲に漂う。
まず父親の知れぬ不義の子であること。
しかも明らかに分かり易く身体に支障のある子。
少なくとも彼女達の社会では、それならまず「なかったこと」にするだろう。
「それだけ相手の方が好きだったということかしら」
「でしょうね。ただ、目が片方だけはしばらく見えていたので、それで何とか意思疎通の仕方は判っていたみたい。だからこそ、兄上のことも知っていたのだろうと思うわ」
「恐怖の対象として…… やはり青年を始末しようとしたのかしら」
「その可能性は高いわね。気付いたのがいつかは判らないけど、それで青年を移したか…… ただ義姉様は途中で居場所がわからなくなったんだとは思うわ。そしてそのどさくさの中で、とうとう残った目も見えなくなる、と」
「まあ、兄上からしたら、そんな子なのに、生かしておいていた、という辺りに義姉様への不信はあったんでしょうね…… なかなか別荘にも来なかったというのも。というか、夫妻の仲は良く無かったと見ていいのかしら」
「子供ができなかったのか、作らなかったのか、その辺りは判らないままですもの」
「その最愛の子供に殺された、ってことかしら」
「どうかしら。義姉様は自分が母親だということを言ったのかどうか…… でなければ、ただのこの対象の一人に過ぎなくて、知るよしもなかったとか」
「まあ何にしても、そうだとしたらボクシング氏とか画家氏というのは相当なとばっちりじゃないかしら?」
「そうね。私としては、何だかんだで、そうなるまで放っておいた兄上が怖いと思うのだけど」
「あ、つまり、最終的に殺させる様に、ということかしら?」
フレアが軽く手を叩いた。
「そういう話なら一つ知ってるわ」